49-3 裏表紙から開いて見えるものと
案の定、おれたちはレモンさんのあとに歌うことになった。
ライカがマークしておいてくれた人物を『聴け』たのはだから、アンコールの終わった後のことだった。
もっとも、それで問題はなかった。
『彼女』は『ソアー』がレモンさんとともに高天原に帰るまでマークを続ける予定だったからだ。
おれは若干の申し訳なさを感じつつも、ひそかに『彼女』に『超聴覚』を使用。その情報を聴きとっていった。
まず、彼女のスペック。
シティメイドと同型のアンドロイド。シリアルナンバーなし。いわゆるサードパーティー製だ。
彼女は『緑の大地』党の支持者の手で作られ、任務ごとに姿を変えて暗躍していたもののひとり。コードネームを『サイレントシルバー』という。
今回彼女が与えられた任務は、『ソアー』の身辺に盗聴器を仕込み、彼の秘密を録音すること。
しかし、この任務の難度は高い。
『ソアー』は機密のかたまりだ。高天原内でそうしたものを仕掛けることはほぼ不可能といっていい。
彼自身だって警戒しないわけもない――『外』でもらった手紙やプレゼントはすべて、いったんまとめて梱包、高天原に持ち帰ったうえで各種機器やスキルによる精査を受け、はじめて彼のもとに置かれる、ということに同意している。
しかし、唯一その網の目をくぐることが可能なものがある。家族から直接渡された手紙だ。
高天原の外から中へ、中から外への手紙やメールは、基本的に全て検閲を受ける。しかし『ソアー』は見習いとはいえエクセリオン。恋しい家族からの言葉は他人の目にさらしたくない、という『わがまま』がいえる身分である。
そうしていったんノーマークで部屋に置かせてしまえば、あとは時間の問題、というわけである。
『サイレントシルバー』は数カ月をかけ仕込みをした。
まずは、『ソアー』が高天原よりガードのゆるい『外』に出たところで、家族の手により盗聴器入りのメッセージカードを直接渡させ、高天原に持ち帰るまで確認すると決めた。
接点を作りやすかったのは、実業家の父親『アマミヤ ショウト』さん。
さいわい彼のご近所に、適任者がいた。
同じ商工会議所に所属する雑貨店店主『マシバ ユウト』さん。表面上は『緑の大地』党支持者だが、実のところは『月萌立国党』の協力員。自分が探った、もしくは自分の身辺に行き来する情報を、盗聴を利用して『立国党』に流している――という、隠れ蓑とするには格好の背景を持っていた。
彼女は商工会議所に所属する現地協力員を通じ、マシバさんたち数名に新型の『くぐつ』のモニターを頼んだ。
マシバさんの容姿や思考をダウンロードした彼女は、彼に変わって暇な時間の店番をし、主人が帰ってくればその間の記憶データとともに、ある情報を余分に彼の頭にアップロードした。
アマミヤ氏への同情的な感情と、彼の好みや趣味についてのぼんやりとした情報。
ほどなくマシバさんは、商工会議所の集会でアマミヤさんに話しかける。
『意外と話が合い、同情的に接してくれるご近所さん』と、アマミヤさんはあっという間に仲良くなった。
二人は何かと行き来をするようになり、『ソアー』が『月萌杯』を戦った後には、アマミヤさんがマシバさんの店でメッセージカードを買った。
このときは、バックヤードで待ち受けていた彼女がマシバさん本人になりかわり、『ソアー』が好きだった曲の流れるメッセージカードを手ずから勧めて――あとは、おれの読み取った通り、ライカの見たとおりだ。
余分な疑いを抱かせないよう、アマミヤ氏がメッセージカードを渡しにく日に日にちを合わせて、ありもしない懸賞に当たったかのように装って全く違った場所に旅行に行かせ、自分は姿を変えてアマミヤ氏と盗聴器の様子をチェックしていた。
周到に周到を重ねた作戦だったが、裏表紙を開けてしまえば簡単な問題。
むしろ難しいのは、いまこの後のことだった。
それにより、『サイレントシルバー』をどうするか、盗聴器をどうするかが変わる。
つまり、泳がせておくのか確保するのか。壊してしまうか、偽の情報を適当に流しておくのか。
おれたちは急きょ楽屋で『神域展開』からの『聖静籠』。スキルで作った安全地帯にかくれて『ライカのひみつ通信』を起動、アスカたち軍師チームに連絡を取った。
ライカが携帯用端末に情報を流しこみ、向こうの様子を液晶画面に映し出してくれた。
軍師チームがいるのはは学長室併設の会議室。アスカ&ハヤト、ミソラさんとノゾミお兄さんがそろってスタンバイしてくれていた。
問いの言葉はいらなかった。ミソラさんは少し不敵な笑顔でスパッと言う。
「今は泳がせよう。『彼女』と雇い主がコンタクトをとるときが狙い目だ。
そうでもなければのらくら交わされるだけだからね。
盗聴器はカードから外して、適当な情報を流しておこう。こういうのはタカヤが得意だから、やってもらうといいよ」
するとイツカが驚く。
「えっマジ? タカヤさんてそんな特技あったんだー!
なんかいっつもアバウトそうなのにもふ!」
「タカヤさんはクラフターだからね? それもすっごい腕利きだから!」
こいつの直感の気まぐれさはほんとに不思議だ。かつておれがミズキに偽装させられていたのや、昨日の盗聴器なんかサクッと見抜いたのに、しょっちゅう送迎してもらっている人のことを気づかないとは。
おれはとりあえず、復活したうさみみでいつものツッコミを入れておいた。
すごくあたまつかったー(ぷしゅー)
そんなわけで次回は楽しいダンス合同練習レッツゴーです! お楽しみに!!




