49-1 お父さんとの再会と仕込まれた盗聴器
その事件は、懇親会の後半、終わり近くに起きた。
遅れて会場に入ってきたスーツ姿の男性が、『ソアー』を見るなり固まった。
大きく目を見開いたまま、一秒、二秒。
やがて、感に耐えない様子で口を開くと。
「カケ、ル……
おまえ、カケルだよな?!」
『ソアー』もまたその人をみたまま硬直状態。
二、三度、口をパクパクさせたかと思うと、がたっと立ち上がり……
「ひ、人違いです!!」
そう言って、一目散に逃げだした。
そのダンディーな男性――アマミヤさんは、『ソアー』にとてもよく似ていた。
天使のような繊細さは変わらぬままに、落ち着きと貫録を身に着けていけば、こんな感じになるのだろうか。
応接室で話を聞いてみればやはり、その人は『ソアー』の――正確には彼が『ソアー』になるまえの少年・カケルのお父さんだった。
『ソアー』の戦う様子を見てこれはと直感し、レモンさんの付き人として働く彼に会うために、電車を乗り継ぎこの町にやってきたのだという。
「カケルは眼鏡をかけていなかったし、髪と目の色も、少し変わっているようですけれど……
姿も声も、歩き方も。あれはまちがいなく、あの子のものです。
お願いします、どうか少しの間だけでも、話をさせてはいただけませんか」
必死に頼み込む様子を見てしまって、むげにはできない。
それでも『カケル』は、家族に迷惑をかけたくない一心ですべてを捨てたのだ。無責任に正体をばらすわけにもいかない。
だがそのへんは、レモンさんが考えてくれていた。
慈愛に満ちた天使の笑顔でアマミヤさんの手を取り、こう告げたのだ。
「お辛かったですね、アマミヤさん。
『ソアー』はもともと、身元知れずで保護された子です。
息子さんはMIAということですので、もしかしたらもあるかもしれません」
「では……!」
「ただ、あの子自身は、保護される前の記憶がないとのことです。
もしかしたら、とてもつらい思いをしているかもしれません。
無理にということはないと、お約束いただけますか」
「はい、お願いします!」
そうして『ソアー』は、過去の記憶がない少年として、レモンさんの付き添いのもと、お父さんと対面することになった。
もちろんおれたちはご一緒できない。
以前にもらった『うさぎとねこのメダル』――ライカ分体に頼れば盗み聞きもできなくないのだろうが、それはしてはいけないことだろう。
貸してもらった居室でそわそわと待つことしばし。
白い封筒を手に、神妙な顔で戻ってきた『ソアー』は、ドアを閉めるなりがっくりうつむいてしまった。
そして口を開……こうとして、イツカに止められた。
イツカは片手で『ソアー』の口をふさいだまま、無言で『神域展開』。高天原同様のティアブラネットフィールドを小さく作り出す。
そうして、おれに耳打ちした。
『カナタ、この封筒『聴いて』くれ』
言われるまでもない。『神域展開』により姿をあらわしたうさみみを広げ、『超聴覚』発動。
明らかになったのは、封筒の中のもの――開けば音楽の鳴るメッセージカード、そのなかに仕込まれた超小型盗聴器の存在、その構成、操作法、そして来歴だった。
ひとつうなずけば、『神域』は姿を消した。
この場合、最初に言うべきは、そう。
「お風呂入ろっか、『ソアー』」
「……へっ?」
コンサートなどでの、高天原外への出張。
そのときは前もって、『貸していただくお部屋はどうか普通のもので』と毎回お願いしてもらっているのだけれど……
実際ふたをあけると、やっぱりかなりよさめの部屋なのであって。
しかし今回はそれがありがたい方向に働いた。
部屋つきのお風呂は、三人が余裕で入れるくらいに大きかったのだ。
「えーっと……急にどうしたの?」
イツカがひゃほーい! なんて景気よくシャワーを浴び始める一方で、『ソアー』はきょとんとしている。
ちなみにこの二人はどっちも全く隠さない奴らだということが判明してしまった。これっておれが気にしすぎなのだろうか。解せぬ。
まあいい、まずは伝えるべきことだ。
「盗み聞きされたくない話をしたいときは、ヴァルハラフィールドか大浴場じゃない風呂場に限るんだよ。
頃合いもちょうどよかったしさ」
「え? え?? ぬすみぎき? だれが……」
「落ち着いて聞いてね。
お父さんのくれたカード。あれに誰かが、超小型盗聴器仕込んでたみたい」
「えっ…………」
『ソアー』は素直に驚いている。うんうん、これが正しい中高生の反応だ。
もちろんカードの入った封筒は部屋に置いてきてあるし、部屋とこの風呂場も改めて『超聴覚』を使い、そうした仕掛けがないのを確かめてある。
そんなかわいげのない自分たちにちょっとかなしくなりつつも、おれは話を進めた。
「だれがどうしてそんなことをしたのか。ちゃんと調べて、『ソアー』やおじさんたちの身の安全を図りたいんだ。
協力してもらえるかな」
「え、う、うん……お父さんたちに迷惑が掛からないですむなら、俺はやるよ」
「ありがとう」
実のところを言うと、おれにはすでに、だれがそれをしたのかはわかっていた。
けれど、単純にその人にごめんなさいを言わせても、この問題は解決しない。
少し頭を使う必要がありそうだった。
そして、少しばかりのトリックも。
おれは、手の中に隠した小さなメダルによびかけた。
「ライカ、ちょっといい? 頼みたいことがあるんだけれど」
『おういぇ~! なになに、おれにお背中流してほしいって? いやんもうカナぴょんってばはずかしいっ☆』
「うわああああ?!」
するとメダルは軽口をたたきながら、いつものねこみみメイド服装備の美少年の姿にチェンジ。
『ソアー』はいたく驚いた様子で、すっとんきょうな声を上げたのだった。
盗聴器なんて計画になかった? はっはっは、きみはなにを(図星)
お、お風呂回も計画になかったし(墓穴)
そんなわけで次回! 犯人を捜してみるのまき!
どうぞお楽しみに!




