48-8 『M2』昇格試合とすべりこみの『おめでとう』!
白を基調とした清楚な装束のロップイヤー聖騎士――ミズキ。
ミズキと同じ意匠のローブをまとったまめしばプリースト――ミライ。
『M2』のふたりが仲良く入場してくれば、それだけで場内は大盛り上がりだ。
ミズキがあくまで清楚に優しく、ミライが元気に可愛らしく手を振ってこたえれば、さらに歓声は膨らむ。
しかしその賑わいの底に、不吉な金属音が響き始める。
がしゃん、がしゃん。
おい、くるぞと誰かが言えば、かろやかなBGMがフェードアウト。
一緒にざわめきも引いていく。
十数秒後、金属的な五つの足音を先ぶれに、身の丈2.5mほど、胴回り3mほどの、ずんぐりとしたメタルボディが対戦者ゲートから姿を現わす。
『心なき殺戮機械:ランクA』。
その名の通り、弱いものから殺しにかかってくる、マシン系のモンスターだ。
全体的に高いステータス、魔法耐性、剣と魔法弓を装備して遠近両方の攻撃を同時に行うこと、360度回転するカメラアイのため死角がとりづらいこと……などなどにより、同ランクの四人パーティーですら全滅させられることもある。ぶっちゃけ言って、強敵だ。
にもかかわらず、二人は危なげのない戦いぶりを見せた。
「神聖強化!」
声をそろえての詠唱は、かわいらしいけど効果抜群。
高いプリーストレベルならではの、力強い虹の輝きがふたりを包み込む。
一瞬で大幅強化したふたりは、余裕をもって戦いをスタートさせた。
うさぎの脚力で一気に距離を詰めたミズキは、ミライを狙う隙を与えず右から左。回避盾の役を果たしつつ、息つく間もなく斬りかかる。
一方後ろに控えたミライは、強力な強化を惜しみなく連発。
その結果、ふたりはほぼほぼノーダメージでこの戦いを制したのだった!
もはや一ツ星レベルではありえない、圧倒的な実力。仲間としてそれを知ってはいても、闘技場の戦いを通じこうして見ると、ぐわっと胸が熱くなる。
待ちに待った二ツ星への昇格も決まったのだから、なおのことだ。
さらに二人の魅力を引き立てたのは、その清らかな優しさだ。
勝利した二人が最初にしたことは、喜びにぴょんぴょん飛び跳ねることではなく、斃れたものへの真摯な祈りをささげることだったのだ。
あの地下施設にいた中のだれが、このアバターを操っていたのかはわからない。
けれどおれがそのひとなら、今頃きっと泣いているだろう。というかおれもいま、視界が曇ってしょうがない。
おれはイツカとともにぶんぶん手を振りまくり、手元のTPがなくなるまで投げ銭を連打。
ついでに観客席で、というかニノの狐耳の間で可愛く『勝利のポーズ』を決めたうさイズミにも、予備分の投げ銭を連打である。
ほんとのことを言えば、速攻VIP席から飛び降りておめでとうを言いたい気持ちだ。
しかし、それはほかならぬミライとミズキによって止められていた――ふたりがそれしたら絶対ステージ上がることになっちゃうからだめだよ、と。
そう、今日は時間がかなり押している。
明日土曜日は『遊べる森のコンサート』。本日の午後は、歓迎会と親睦会をかねたパーティー。
そのため、この数時間後にはもう現地入りしなければならない。
このあとの『三銃士』のステージさえ、オンタイムでは見られないのだ。
惜しみながら席を立とうとイツカを振り返った、その時。
「わああああっ?!」
ふいにイツカがおれの胴に手を回し、強引に抱えて飛び出した!
おりて行く先は、フィールドに飛び出してきた仲間たちの真ん中。抱き合って喜び合うミライとミズキのもと。
おどろくふたり、盛り上がるみんな。
おれはというとテンパって、イツカにくってかかってしまう。
「ちょ、おま、なにすんの?! きょうはダメだって……」
「『おめでと』言うくらいはいいだろ? ほら早く、言ったら行くぜ!」
イツカはぽんっとおれの背を押し、ふたりの前に押し出した。
ええい、こうなったら言っちゃえ。
「お……おめでとうふたりとも! またあとで言いに来るから! すごかったから!!」
「おめでとなっ。近いうちさ、またバトってくれよな!」
「ふたりともっ……」
泣きそうになってぐっ、とこらえるミライ。
そう、ミライが泣いちゃったらおれは、泣き止むまで離れられなくなってしまうから。
そんなミライがいとしくて、思わずぎゅーっと抱きしめていた。
一方でミズキとイツカは握手を交わす。
「イツカたちとのバトルも久しぶりだよね。楽しみにしてる」
「おうっ!
ほんじゃ行くから! カナタ、」
「うん。またね!」
最後にミライをよしよしすると、おれはイツカにつかまった。
そうしてイツカが『0-G』発動。VIP席へと戻ったところで、もう一度会場全体に手を振り、二人でいっしょにログアウトした。
「おみごとでしたわ、ふたりとも。
さあ、お急ぎになって!」
待っていたのはすっかり準備完了といった様子のライム。
彼女に連れられ、おれたちは送迎のリムジンへと走るのだった。
『心なき』さん……どうみてもキ〇ーマシンです。
なお、イズうさの勝利のポーズは『サタデー・ナイト・フィーバー』で検索すると一発了解です。
次回、新章突入!
『あそべる森のコンサート』で起きた意外な遭遇とは?
どうぞ、お楽しみに!




