48-4 ナカノヒト
所要にて遅れました……
誤字等見つけ次第修正いたしますm(__)m
早速の誤字報告ありがとうございます!! まさかの『橋』でした……(/ω\)
77行目:『ソアー』がおれの服の橋→端
おれとイツカが『祈願者』となってから、はや十数日。
おれたちは、月萌の最深部に足を踏み入れた。
もしもおれたちが『ふつうの』αとなれていたなら――
つまり、普通のペースで授業や実習を受けて卒業していたなら。
もっと言うなら、ダンスを在学中に習えていたら。
確実に、一週間以内にはこれを行っていただろう。
そう、今日の予定は、高天原『中枢部』の視察である。
この区画はまさしく、この国の最深部だ。
αならば誰でも立ち入ることが可能とされているが、実際のところは非常に煩雑な手続きを要求されるため、一部の特別な者たちしか立ち入ることができない。
ぶっちゃけ、国会議事堂の存在する行政区以上のセキュリティレベルが設定されているのだ。
おれたちが回ったのは、まず国立工廠つき研究所。
所長であるエルカさん、被験者でもある『ソアー』が敷地をざっと案内してくれた。
地上部分は、広く明るい雰囲気の、いうなればごくごく普通の研究所といった感じ。
しかし、外周を分厚い壁に閉ざされた地下部分は独特の空気に満ちていて、大丈夫とわかっていても緊張してしまう。
イツカがそっと『ソアー』にささやく。
「『ソアー』さ、ここ怖くなかったか?」
「最初はね。
でも何カ月も通って、ついにはここに住むことになっちゃってさ。ぶっちゃけ慣れたよ。
いまはあの研究者たちもいないし、3Sたちとも仲良くなれたしさ。
そんな悪いとこじゃないかなって気もしてる。今はね」
「私がもっと早くに所長となれていたら。もっと早くに、被験者たちの待遇をもっとよくしてあげられたら。こんな苦労はさせなかったと、申し訳なく思っているよ」
エルカさんがそっと『ソアー』の頭を撫でれば、彼はくすぐったそうに笑った。
「そういってくれるだけでもうれしいよ。
これから、エルカさんの仲間たちもどんどんここに来る予定だってしさ。
ここはもっといい場所になる。学園がそうなったみたいにね」
そうしておれたちに向けてくれた笑顔は明るいもの。
「よっしゃ! おれたちもがんばるからな!」
「よろしくね、イツカ、カナタ」
いつの間にか研究者たちや、仮の体をまとった3Sをはじめとした被験者たちも集まっていた。
正直なところ、いまだ、心労の色濃く残る人たちも少なくない。
複雑な面持ちの人もいないわけじゃなかった。
それでも、いやだからこそ、おれたちは笑顔を向けた。
そして、いっしょに明るい明日を目指そうと、何度も告げた。
エルカさんに見送られて研究所を出、次の目的地は『ティアブラ』開発・運営本部。
ここは『ソアー』ともう一人、本部長を務める女性が案内をしてくれることになっている。
大きな十階建てのビルの前で待っていたのは、黒髪をひとつのみつあみにして肩の前に垂らし、黒ぶちの眼鏡をかけた穏やかな笑顔の女性。チャームポイントは口元のほくろ。
ビジネススーツをきちんと着こなしているけれど、偉そうだったりお堅そうだったりという印象はなく、むしろ、小学校の優しい先生といった印象だ。
「初めまして、私が『ティア・アンド・ブラッド』開発・運営本部長のアユミ・タカシロです。
お会いできて光栄です」
「こちらこそ。
いつも、お世話になっております」
お互いににこやかに頭を下げ合い、まずは平和裏に視察はスタートした。
企画部にマーケティング部。アートデザイン部、法務部。
技術部、広報部、カスタマーサポート部、品質管理部。
財務・経理部、人事・労務部。
すべて回るのに、一時間以上はかかったか。
びっくりするほどたくさんの人が働いている。
このセカイは、おれたちがもといたセカイよりも技術的に進んでいる。それにより多くの物事が自動化されているにもかかわらず。
やはり国家規模のゲームというと、かかわる人々の数も半端ではないのだ。
この人たちの働きの上に、おれたちの『ここまで』もあったのだと思うと、自然と頭が下がる。
和やかな雰囲気で進んだ視察だが、最後の最後。
一度ビルを出、少し離れた入り口から入った地下部分で、おれたちは言葉を失った。
そこには『都市伝説』が存在していたのだ。
ずらりと並んだログインブース。その中には一人ずつ人がいる。
全員がHMDを装着して、あるいは座り、あるいは横たわった姿勢。
身に着けているものは検査着のような簡素な服一枚で、靴すら履いていない。
肌の色はいろいろだが、青白いほど白い人が少なくない。
「こ、これって……ここって?!」
『ソアー』がおれの服の端を、ぎゅっとつかみながら言った。
「おれとイザヤとユウがいたとこ。
Ω堕ちしたやつらは、引き取り先が決まるまでここで働くことになるんだ。
ミッドガルドや学園闘技場の、モンスター――それをあやつる『ナカノヒト』としてね」




