48-3 痛恨のミスと最高の宝物!
ハジメさんは見事に(見た目の)ハーレム状態を脱出する見込みを立てた。
それを見届けたおれたちは、極力さりげなくカフェテリアを脱出した。
若干心配は残るものの、アスカとハヤトのお墨付きがあるのだから、と自分たちに言い聞かせ、車に乗って次へ。
ゆくさきは、これまでもレッスンを受けていたボイストレーニング教室だ。
小一時間程度のレッスンののち、ソレイユ邸へ。
『ゼロブラ館(仮)』に帰ってからはダンスの自主練。いつものように携帯用端末撮影しながら、イツカともども、軽いウォームアップをし、ステップを踏んだが……
さあおわった、と携帯用端末を確認して絶句した。
なんと、録画モードになっていなかったのだ。
思わず膝から崩れてしまった。
「ごめん……ごめんイツカ。おれがぼうっとしてたから……」
「あ、あはは……
もっかい、もっかいやる?」
イツカは笑ってそう言ってくれたけど、その顔にははっきりと疲れの色。
疲労回復のためのポーションは、自主練開始前に飲んでいたのにだ。
これはさせられない。おれは首を振った。
「イツカはいいよ。
確認ミスったのおれだから、おれだけでもう一回やるから。イツカは先……」
「いや、そりゃダメだろ!」
そのときかかってきたコール。アスカからだ。
おれたちは顔を見合わせたが、とりあえずは通話に応じることにした。
「……はい」
『おいっすー。どう調子ー?
その顔だともしかして、録画設定ミスった感じ?』
「あははは……まあ、そんなとこでして……」
バレバレか。おれはもう笑わずにいられなかった。
イツカはおれをかばうように明るく声を上げる。
「俺も気づかなくってさー!
でもカナタが『おれのせいだから一人でもっかいやる』って。
さすがにそりゃーないからって言ってたとこでさ!」
『なるほどねー。
どーしたい? それによって、おれのアドバイスも違ってくるよ』
アスカは笑みのまま、口をつぐんでおれたちを見た。
そのとなりでハヤトも、じいっとこちらを見ている――いつもの仏頂面、だけど、心配そうなのは目だけで分かる。
ぎゅっと手を取られて振り返れば、イツカも同じようにおれをみている。
『おれがもう一回やるから』という言葉は出なかった。
そのかわり。
「ごめんアスカ!
自分たちで言い出してなんだけど、ボイスも入ると正直言ってさすがに厳しかった。
来週まででもいいから、せめて動画隔日にさせてもらえないかな?
動画にしないだけで自主練はしてるし、罰ゲームも覚悟のうえだから!」
おれはがばっと頭を下げていた。
ちょっとした撮り直しは、これまでも何度かしていた。
たとえば最初の挨拶をかんでしまったり、練習用のTシャツが後ろ前だったり、携帯用端末の三脚への据え付けが甘くて、踊りだした振動でガタンと落ちてきたり。
ちょっとしたポカはむしろウェルカム、とは言われていたけれど……。
それでも疲れている日ほど、ミスもするしアラも目立つ。
究極は、今回のこの失敗だ。
さっきは勢いでもう一度おれがと言ったが、そうして提出が遅くなれば、チェックや編集を頼んでいるアスカたちにしわ寄せが行くことになる。
はたして画面の向こうから帰ってきたのは、アスカの笑顔の拍手と、ハヤトの安堵のため息だった。
『おお~。カナぴょんちゃんっと自分からそれ言えるようになったか~。待ってみた甲斐があったよ!
いやーよかったよかった。こっちはいいよ、ラクさせてもらえるわけだからね。
で、再生数三倍の時の罰ゲームだけどさ……』
もちろんおれの返事はこうだ。
「それはおれがやる。今回のことは、おれのわがままにイツカを付き合わせたわけだから」
すると、イツカが食いついてきた。
「ちょっと待てよ。付き合わせたって、付き合ったのは俺だし!
だから罰ゲームになったらちゃんと一緒にやるからな! ぜったいだからな!!」
「イツカ……!」
まったく、こいつは。
普段はだいたい残念なくせに、こんなときはとんでもなくイケメンなんだから。
打算も何もない熱い叫びにじーんとしていると、アスカがうししと笑ってこうのたまった。
『はーいはい、だったら三倍開かせないくらいあつーい自主練をプリーズね? むしろ三倍ぶっちぎるくらいのやつでオナシャス! こっちも適宜盛り上げてくからさ!
そうだ、どーせならいまの画像、きょう分として使っていい? たぶんこれだけで二倍は行くと思うから♪』
「えっマジ? 俺はいいぜ!」
イツカはさくっと了解。うん、やっぱり残念だった。
まあ、それはいまはおれの役目ということで、一応確認することにした。
「またなんで?」
『そりゃー、みんな大好きイツカナのあつーい友情ったらみんな感動するじゃん?
別に他意はないよん、他意は♪』
何か疑わしい。だって、たのしそうすぎる。
思わずジト目でアスカを見てしまったが。
『まーまーまかせてよ。そのへんだったらおれ慣れてるから! ダテにここまでうさねこ勢をマネジメントしてきたわけじゃないからさっ。ね?』
それを言われると黙るしかなかったりする。
ちなみにハヤトもため息のみだ。彼にもどうにもしがたいらしい。
「えーっと。くれぐれも妙な誤解が発生しないようにね?」
『おういぇ~♪
ほんじゃサクサク連絡するする!
ソナタちゃんにミーたん。るーるーたんずにもちゃんっとごめんねするんだよ?』
「わかった。ありがとう」
なおいまのおれたちなら、高天原のそとにいるソナタに直接、通話をかけることも可能ではあるらしい。
けれど、それをしていいのはどうしてもの時だけ、『マザー』の許可を取っての上でのことだ。
そのためおれは『ティアブラ』にログイン。事情説明と謝罪のアバターメールをしたためた。
ちょうどソナタもログインしていたようで、すぐにレスが返ってきた。
『りょうかいです!
お兄ちゃんたち疲れてるみたいだし、そうしたらって言おうと思ってたとこだよ。
ソナタはだいじょうぶ。今日はそのぶんがんばるから、ゆっくり休んでね!』
ほっこりしながらログアウトすると、イツカがミライとの通話を終えたところだった。
「……それじゃ」
「……おう」
さて、とおれたちは顔を見合わせた。
ここからが正念場。ルカとルナを傷つけないように、ちゃんと説明をしなければならない。
そのときかかってきた通話は、まさしく彼女たちからで。
『思ったんだけど、ほんとに大丈夫?
万一二人が倒れちゃったりしたら本末転倒だわ。
動画配信だけでも、来週末まではせめて隔日にしない?』
『もちろんフォローはわたしたちでするから。ね!』
ふたりは開口一番、そう言ってくれた。
おれたちは本当に、『人』に恵まれている。
つくづくしみじみと、そう思わずにはいられなかった。
ブックマークありがとうございます! うれしかー!!(泣)
今回動画編集とか、色々調べたのですがそのへん全然使われていない気しかしません(号泣)
見えない形で生きてるのさ……うんうん……(T_T)
次回、高天原サイド。昇格迫るミズキ視点の予定です。
どうぞ、お楽しみに!!




