48-1 それでも、届けたいきもち
『だいじょうぶ。きっと、一番いい形にしてみせます。
だてにここまで、ユウミさんを追い続けてきたわけじゃありません。
だからあなた方は、あなた方にしかできないことを。……
週末はレモンさんと『あそべる森のコンサート』でしょう? たくさんの子供たちが楽しみにしていますよ。
僕も動画、見させていただきますね』
ハジメさんは優しく笑って、四人の仲間たちと帰っていった。
その笑顔も足取りも、無茶振りとしか言いようのない試練を課されておりながら、すこしも動じた様子がない。
なんて、なんて、つよいひとなのだろう。
でも、だからこそ、おれたちも何かしたくなる。
余人の手出しは無用。そうルールとして定められているならなおのこと。
けれどアスカはカラッと言い切ってきた。
「あの人なら大丈夫、余計な手出しはしたらダメだよ」
でも、と言いよどめば、ハヤトまでがダメ押しをくれる。
「あの人ならやれる。イヌ科の直感だ」
寡黙な彼がこんなとき発する言葉には、ずっしりと重みがある。
さらには『イヌ科装備として、イヌ科装備を見定めた』と言われたなら、もはや反論は不可能だ。
ぐっと黙ってしまったおれたちに、ひと呼吸おいてハヤトが聞いてきた。
「それよりミライの昇格試合、見にきてやれるのか」
「それは、うん。
ミズキと一緒に昇格するって聞いて、真っ先に時間押さえさせてもらったから。
ニノとイズミのお披露目も、たぶん大丈夫」
「もちろん来週、ハヤトたちのエキシビも、しろくろのラストライブもいくぜ!」
イツカが親指を立てると、アスカはうむうむとうなずく。
「もちろん飛び入りさせられるカクゴはできてるね?」
「あ、あはは……やるっきゃねえ……よな?」
しまった、そこまで考えが及んでいなかった。
『森コン』で歌ってと言われても困らないよう、先日からなんとかボイストレーニングは復活させていた。
けれど、しろくろの学園生ラストライブに飛び入りして、恥ずかしくないクオリティか? と言われると、さすがに現状、疑問符が付く。
「んー、まあね。
ぶっちゃけ厳しげだったらビデオメッセージだけにしときな? きみたちはいま、それが許される立場と状況だよ。
おれたちのあつーい友情はそんな程度じゃ揺るがないかんね♪
ただし、その場合るーるーたんずにはきみたちからちゃんっとフォローしときなね? つーかそろそろおれらがカノジョかの勢いだから☆」
「ぶはっ?!」
アスカのトンデモな言い草におれまで吹いてしまったが、それは確かに忘れちゃいけないところだ。しっかりとこころのメモ帳にメモっておく。
現状ルカとは、彼女たち自身も忙しいのもあるが、休日ごとにちょっとした短いメールをやり取りする程度の付き合いにとどまっていた。
本来ならおれとの『約束』は、おれが卒業して落ち着くまでのこと。なのにバタバタとここまで来てしまい、いまはダンス関係以外、顔を合わせることもままならない。
それでも彼女は、いやな顔一つしない。むしろおれを気遣い、ときには気丈にはっぱをかけてくれている。
それを考えると……
「おれは、やりたい」
「え」
「確かに、一緒に歌ったら味噌をつけちゃうかもしれない。
でも、ならば前座としてでも、精一杯をとどけたい!」
「カナタ……」
イツカが、ハヤトが、アスカが驚いたようにおれを見ている。
だいたいのパターンとして、こういうことを言い出すのはイツカで、おれはどっちかというとストッパー側だった。
なのに、今はおれが無茶を言っている。
「ミソラ先生がおれたちをアイドルバトラーにしたのもさ。ふたりの活躍があったからこそだと思うんだ。
ニノも前に言ってたよね。おれたちがかっこよくなればみんながおれたちを好きになってくれて、たとえ月萌杯に負けたとしても世の中が変わるはずだって」
アスカはふーっとため息をついた。
「ういうい、おぼえてるよ。
『俺たちは、お前たちが魅力的に装ってめっちゃかっこよく勝って、男も女も年寄り子供も、世界中全員がお前たちに心底惚れ込むようにしたい。
そうすれば、最悪『月萌杯』で負けちまったとしても、月萌は変わる。』
……だよね。
たしかに二人のプロモ戦略、一番根幹はそのへんだろね。」
ただし、どこかうれしそうに。
つづいてハヤトがため息をつくかたわらで、ぱあっといい笑顔になる。
「やー、言ってくれると思ったわー。おーけーおーけー、そーいうことならおれからもハナシ通しとくわ!
ライブリハは週ナカにでも一回出てもらう予定になるはずだからそこんとこふくめ二人と話しといて! ほんじゃねっ!」
ハイテンションの早口で、めっちゃ上機嫌にまくしたてると同時に、通話は切れた。
……それから数分しないうち、ルカたちからのコールがかかってきたのであった。
げ、月間PVがついに……一万を、超えました……
うひゃー! ありがとうございます!!
次回! 初のルナ視点からお送りします! お楽しみに!!




