47-5 緑のきつねは仕事が早い!
「あれー? おっかしーなー。あたしはこれでできるようになったんだけど……」
結局ふたりともにレモンさんにとっつかまり、もふもふのポーラーベアハンドでくすぐり倒されることしばし。
笑いすぎて呼吸困難に陥ったところでドクターストップ、ならぬライムストップがかかった。
「もう、お姉さまってば。
『縮地』を習得できるかどうかや、その方法は人により異なります。覚醒と同じですわ。ほかの方にもお聞きになってみてはいかがかしら?」
そんなわけでおれたちは、手分けして『よろしければお手すきの時にご教授ください』とメールを飛ばした。
――ノゾミ先生からのコールによれば。
『『縮地』か。俺は『鬼神堕ち』した時に習得していた。
真似しようとか思うなよ? そんなでいけるならミライをはじめ、『天使堕ち』した研修生たちは全員『縮地』が使えているはずだからな?』
――トウヤさんからの返信によれば。
『シロガネの祖の教えによる修行を繰り返した。すなわち世界をよく見、聞き、自らのうちに再構築する。これを繰り返し、世界と一つになれ、と。
使えるようになったのは、エクセリオンになる直前。Aランクとなってのち、三年が経っていたな』
――エルカさんからのコールによれば。
『わたしは『縮地』を習得はしていないよ。それが可能となるアイテムを錬成しただけで。カナタもプラチナムーンなのだし、同じことができるはずだ。
ただ、今の君たち自身が『縮地』を使って移動したと知られることは、あまり好ましくないかも知れないとわたしは思うよ。
なぜなら、『縮地』を使用できるのは、αの中でもほんの一握りのSランクだけということになっている。それを使用することは、桁違いの力を見せつけることにもなる。
ティアブラをやりこんでAランクになったわけでなく、議員当選のみによってαの身分を得た者たちにとっては、とくにそのインパクトは大きいはずだ。
君たちの身に着けた『ブラックムーンのチョーカーと指輪』。それが外せるようになる日までは、君たち自身で『縮地』を使用することはやめた方がいい。あくまでわたしの意見だけれどね』
むしろ今は、車窓から手を振ったり、移動や乗り降りの際のちょっとしたふれあいで、身の回りの人たちの好感度を上げた方が得ではないか、というところまで、『エクセリオンの頭脳担当』たる優男はアドバイスしてくれた。
「うーん、やっぱエルエルは頭いーなー。あたしはただただ二人を楽させてやれないかって、それしか考えてなかったよ!」
「それはわたしもですわ、お姉さま。
本来ならわたしが、気づかなければならないことでしたのに」
反省のソレイユ姉妹。こうしてそばで二人そろっているのを見ると、たしかに二人は双子なのだとわかる――そして、ちょっと不謹慎だが、ほんとうにきれいだ。
いけないいけない。見とれそうになる気持ちをなんとか立て直す。
「それを言うならバディのおれがだよ。
そうだね、今はやめておこうか」
「……だな。
できるようになるなら、俺たちはまずはダンスからだよな」
イツカもうんうんとうなずいてくれた。
よし。おれは代表して、エルカさんに頭を下げた。
「ありがとうございます、エルカさん。やっぱりやめておくことにします。
お聞きしてみてよかったです」
『お役に立ててよかったよ。
あ、でも、緊急時用として使い切り護符は届けておこうか。もちろん解析してくれていいからね』
鷹揚に笑ってくれたエルカさん。そのうれしい言葉に、おれはおもわずぽんと立ち上がってしまった。
プラチナムーンの大先輩の作った護符を、堂々解析していいなんて!
クラフターとしては、最高にうれしいごほうびだ。
「ありがとうございます、助かります!
もしカスタム作れたらサンプルお送りしますので!」
『もちろんきみに余裕のある時にね?
楽しみにしてるよ。それじゃまた』
緑の狐耳をぴこり、ちゃめっけたっぷりのウインクをぱちりで、通話は切れた。
すると、ソレイユ邸で働くメイドさんがやってきた。
丁寧に一礼してくれて、ひとこと。
「お話し中申し訳ございません。イツカ様とカナタ様に、お客様が」
「大丈夫です、どなたでしょう?」
「『ソアー』様でございます。エルカ様からのお届けものをと」
おれとイツカは思わず叫んだのだった……
「エルカさんしごとはやっ!」
複数箇所、数字系(星数)の間違いを発見してちょっとへこみ気味です。
ただいま順次再チェックをかけております。
もしかしてまた修正があるかもしれません。ごめんなさい!
次回、『ソアー』を送った帰りに見たものは……。
衝撃の急展開?! どうぞお楽しみに!




