5-6 うさぎの、うさぎによる、うさぎへの事情聴取
今回と次回は少し短めです。
「ホシゾラ カナタ。これよりお前の事情聴取を開始する。
何か質問はあるか」
「えっと、まずなんで『トウヤ・シロガネ』がおれの聴取を……?」
おれが目を覚ました時にはもう、事情聴取の手筈が整っていたようだ。
まずはイツカが医務室を出ていった。
それからしばらくして、おれも面談室へと連れていかれる。
さすがに手錠などはかけられなかったが、私服の係員二人に『さりげなく、しかしがっちりと』張り付かれてのみちゆきは、おれが何やらやっかいな立場にあることをうかがわせた。
そうして引き合わされた取調官は、ピンクの髪のうさみみ青年。
つまり、顔見知りのエクセリオンだった。
「もしかしてスパイ容疑とか、かけられてるんですか?
エクセリオンが直々に取り調べなんて……」
「……知っての通り俺は、エクセリオンであると同時にいち警察官だ。
この聴取はあくまで『未成年者略取監禁及び傷害未遂事件』における、警察官としての職務として行うものにすぎない」
「はあ……」
彼はあきらかに目をそらして棒読みだった。
いや、この人にこういう事させちゃダメな気がする。
大丈夫なんだろうか、月萌の国防軍。
おれは軽く心配になった。
でも藪蛇になるのはつまらないので、てきとうにスルーしておく。
そうでなくともいまはめんどくさい状況なのだ。はやくもどってイツカと話し合いをしたい。じゃないと明日からまた、やきもきいらいらすることになるのだから。
トウヤ・シロガネはわかっているのかいないのか、気を取り直した様子で口を開いた。
「本題に入っていいな。
お前の行動で三つ聞きたいことがある。
無断で郊外に単独で出たこと。
そして『ソリステラス国所属を名乗る、正体不明の』少女と会話を試みたこと。
さらには『ロリポップ・シャワー』が放たれた時に『超聴覚』を発動するという奇行。
ひとつひとつに順を追って事情を話してもらいたい。
黙秘権はあるが、行使するとめんどうなことになるので最初からすべて話せ」
それから、三十分も話していただろうか。
シロガネは納得した様子で、おれへの疑いを解いてくれた。
「事情は分かった。
つまりお前は、『ただその時々で好きに行動していただけ』という事だな。
……俺もその年のころはそうだった。
だが、もうこういう行動はするな。
今回は助けられたが、何かあってからでは遅いのだ。
そして今日見たこと、聞いたことは口外するな。
流言によって無用な混乱を招けば、聴取だけでは済まないぞ。いいな」
そういうシロガネは今度こそまっすぐにおれを見据え、イチゴ色の瞳からすこしだけ圧をよこしていた。
おれが素直に「はい、すみませんでした」と頭を下げると、安心させるように肩を叩き、面談室を出ていった。
なるほど、とおれは納得した。
今回のことは、これが目的だったのだ。
顔見知りの警察官兼軍人による事情聴取で、おれにやんわりとプレッシャーを与えること。そして、今日のことへの口止めをすること――下手をすれば、スパイ容疑もありうるぞと。
まあ、致し方ないことだろう。
月萌は鎖国状態、そしてジュディたちはほんとうに隣国ソリステラスの軍人なのだ。
ジュディの本名はクロン=ジュデッカ=ウィリス。女性はアリエ=マルキア=シュナイザー。ともにソリステラス軍・特殊部隊所属のエリートだ。
あそこで『超聴覚』を発動したとき、おれには『聴こえ』てしまっていたのだ。
そして……
いや、やめておこう。今ここに首を突っ込んでも、ろくなことにはならない気がする。
隣国の軍人たちへと放たれた『ロリポップ・シャワー』のなかに、おれが課題で提出したボムが複数含まれていたなんて、きっとたぶん、なんてことのないリサイクルなのだから。
面会室を出ると、そこにはイツカが待っていた。
ほっと気が緩むものを覚えたが、それはやつも同じようだった。
おれを見たとたんに表情が、そして猫耳の角度が緩くなった。
「やっと出てきた!
だいじょぶだったか? 怒られたりとかしなかったか?」
「うん、なんか色々聞かれて、もうするなって言われたけどだいじょぶだった。
そっちは?」
「ああ、俺の方はちょっと事情聴かれてそんだけ。すぐ終わったぜ」
イツカはどこか本物の猫っぽく、んーっとのびをする。
どうでもいいけどアスカをはじめとした同盟メンバーやその他の野次馬が、あえて距離をとってこっち見てるのはなんでだろう。おまけに、みょうにまなざしが温かいし。
なんとなくやな予感しかしない。とりあえずスルーしておくことにした。
「それにしても、取調べ官がトウヤ・シロガネとかなー!
ほんとにおまわりさんだったんだなあいつ!」
「いや、いままで何だと思ってたのイツカ?」
「コスプレ剣士?」
「おまえにきいたおれが馬鹿だったよ……」
そうだった。こいつは『青嵐公』すらコスプレ野郎呼ばわりした男だった。
たしかにトウヤ・シロガネは、アカネ・フリージアがデザインした衣装を着けて、エキシビションマッチに出てくることもあるけれど……
と、そこまで考えて思い出した。おれはこのあと、『青嵐公』先生のもとに出頭しなければならなかった。すなわち、ザ・お説教タイムだ。
おれの長い長い一日は、まだ終わりそうになかった。
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