Bonus Track_47-1 祭りの前のさえないうさぎ~イズミの場合~
「……ズミ。イズミ?」
相棒の声に顔を上げれば、ホットコーヒーのカップが置かれた。
ちなみに紙カップではない。ニノがつくった、やや小ぶりのカップ。
つめくさの原っぱにきつねとうさぎが遊ぶ、かわいらしいデザインのものだ。
俺は身を起こす。
「寝てたのか?」
「いや」
一つ首を振り、眼鏡をあげた。
ここに来てからニノが改良してくれた眼鏡は、風呂に入っても曇らない。けれどついくせで、眼鏡を上げてしまう。
そんな俺をニノは、向かいの席からニコニコ見ている。
「ぼーっとしてた」
「何考えて?」
ニノは自分のコーヒーカップをそばに置き、手にしていない。つまり、おれの抱くもやつきはバレてしまっているというわけだ。
一つため息。一口コーヒー。そしておれは話し始めた。
「……おれは、うさぎになるしか能がないと思った」
「はっ?!」
ニノはぽかっと口を開ける。
おれは話し始めた。
「『白兎銀狼』は、ついに卒業を決意した。
来週明けには学科試験の合格結果を出し、末にはエキシビ。そうしたら、イツカナの直属として雇われる。そこまですでに決まっている。
『しろくろウィングス』も同様のスケジュールで卒業だ。
つまり来週末には、この高天原の両巨頭のトップが同時に学園を去ることになる」
「……おう」
ニノはうなずく。
おれは、話すのがへたくそだ。
少し入り組んだことを話そうとすると、すぐに書き言葉かよレベルの話し方になってしまう。
それでもニノはいつも、根気強く優しく聞いてくれる。
それに甘えて、おれは話をつづけた。
「学園内はざわついてる。
悪い感じでではない。どちらかというと祭りの前のように、ウキウキしたかんじだ。
両バディの後継は決まり、それを支える体制も固まって、すでに動き出している。
さらには『しろくろウィングス』のメジャーデビューが決まっており、初ライブは突破記念パーティーで行われる。
それらが要因だろう」
「そうだな」
そう、今ここ、学食内のカフェテリアスペースも、うきうきざわざわとして。
イツカナが来てくれてから、学園の空気は明らかに変わった。けれどそれより一段と明るい。
「おれももちろんうれしい。
けれど、おれはこの雰囲気を作る役には立っていない。
『中核メンバー』だが、後継となる見込みはない。
頭脳も、圧倒的な強さもない。
かといって、明るくはしゃいでみんなを和ませるキャラでもない。
……うさぎになってないと可愛くもないしな」
「ぬわにいってるんですかイズミさんっ!!」
とたんにニノが血相変えて立ち上がった。
「奇手に頼らず無理もせず、冷静的確に試合を片付けるクールなうさぎ剣士さんのどこがカッコ可愛くないんですかっ?!
いやしらないの、『ある意味トウヤ・シロガネに一番近い男』っていわれてんの!」
「『ある意味』だろ。おれの剣の腕は平凡だ。華がない」
そう、おれだってわかってる。
おれはトウヤ・シロガネにあこがれた。
もちろんそのまんまは無理だから、得意のスピードにふって、あの高みを目指そうと。
けれど、できなかった。
無理をしてけがをして、放校になりたくないからと『割のいいバイト』にひっかかり、大好きだったイツカナに危害を加え、結局放校になったアホだ。
「ニノがあんな、かっこいいカキコミしてくれなかったら。……
それで運営が、ニノをティアブラ活性化のためのヒーローにしようって考えついて、おれを生きたトロフィーにしなかったら……
おれなんかここにはいなかった。
おれなんか『ニノのペットのうさちゃん』でしかないんだ」
ネット上にそうした書き込みがあることは、ニノも知っている。
アスカから『面白半分なんだ、むしろ利用しろ』と言われてなかったら、きっと猛然と反論を書き込み炎上していたに違いない。
ニノは何度もおれにいってくれた。そんなことはない、絶対にそんなことはないのだと。けれどバトル動画を見直すたびに思う。おれには華がない。
『スピードにかけるため』とみずから切り捨ててきたものとはいえ、それでもおれの見どころは、うさ化以外にあまりない。
「ノルンを救ったのはお前もなんだぞ」
「おれはニノをフォローしただけだ」
「『うさぎときつねのしあわせまんじゅう』の原案だってお前だし!」
「原案でしかないだろ……」
するとニノは大きく大きくため息をついた。
「オーケーわかった。
お前がそのつもりなら、めっちゃ華々しくしてやる。
余計な装備や表面換装はスピード下げるって言ってたから、俺もお前のデザイン面にはここまで口出しをしてこなかった。
だが、こうなったらもう遠慮はしない。
うさぎちゃんがキツネの前でそんな風に腹見せといて、タダで済むとは思うなよ?」
「えっちなやつ?」
「っ!!」
するとニノは、なぜか鼻を抑えて狼狽しだした。
新章突入です!
この章ではきっといろいろ進展する予定です。
『ソアー』の名前、ハジメさんの探し人について……などなど。
次回はふたたびカナタ視点。
イズミの変わりぶりに驚く予定です(ハードル上げ)。
どうぞ、お楽しみに♪




