46-3 月餅の正体とお茶会の終わり
ユーさんがそっと目配せをおくれば、いつの間にか様子をうかがっていたメイドさんが、一礼して奥へと消える。
ユーさんはさらにいい笑顔でこう続ける。
「お土産にお持たせしたいですけど、この分だと賄賂になってしまいますからねえ。
またわたしのお茶会に来ていただくか、もしくはこちらからお取り寄せになってください」
すっと取り出した携帯用端末から、近距離通信でアドレスを送ってもらうと、ももまん同盟二人はもうニコニコだ。
「ありがとな!」
「ありがとうございます!!」
イツカは黒猫しっぽをぴーん。ハジメさんもいぬしっぽがあったらぱたぱたしてそうな喜びようだ。
おれもありがたくお礼を言った。
「ありがとうございますユーさん、ご馳走になった上にご紹介まで」
「うるさがたには内緒ですよ? 下手するとこれも口利きになってしまいますからね。あくまで個人のオススメ紹介ということで」
ユーさんはぱちんと片目をつぶって、くちびるのまえに人差し指を立てる。と、ハジメさんがぽかんと口をあけた。
「どうされました、ハジメどの?」
「あ。いえ。何でもありません。
っその、ちょっとどこかで見たしぐさだなあって、気がしまして」
頭かきかき、あははと笑うハジメさん。いまいち『何でもない』気がしない。
でもそれは、無理に突っ込まないほうがいいことだろう。
ユーさんもさらっと切り替えて、次の話題を振ってくれる。
「そうですか。
どこで見たか思い出したら、教えてくださいね。
では王子さま方のお話を聞かせていただく前に、お茶のおかわりをどうぞ。
そうそう、ももまんもそうですが、この月餅もその辺ではなかなか食べられない逸品ですよ。あんこが特別製なんです。
当ててごらんになります? スキル使われても結構ですよ」
ユーさんがまたいたずらな笑みを見せると、紺色のチャイナドレスのメイドさんが素早く丁寧におかわりをついでくれた。
暖かいお茶で口の中をリセットし、月餅をかじってあーでもない、こーでもないと言い合い、ハジメさんが『この綺麗なベージュ色とさっぱりした甘味! ずばり、ハスの実あんですねっ!』と正解を叩き出したところでももまんが蒸しあがり。
蒸したてホカホカをまふまふ満喫してから、おれたちの話をして……
ひととおり話し終わったころにちょうど、ここを出る時間となった。
手回しの良いことに、たどり着いた門前にはもう迎えの車が待っていた。
ライムがにこにこと笑って後部座席のドアを開けてくれるので、ありがたく乗り込む。
わざわざお見送りに出てくれたユーさんとメイドさんたち、そして一緒に出てきたハジメさんに手を振って、車は滑るように発進した。
向かうは高天原学園。この時間なら、授業開始には余裕をもって着けるだろう。
そう考えていると、ライムは助手席から優しく聞いてくれる。
「いかがでしたか、ユーさんのお茶会?」
「すっげーたのしかった!
まず亀いてさ、でっけー鯉が泳いでてさー」
「まあ!」
「ちょっとイツカ、それ確実に誤解生んでるから!
あのねライム、亀と鯉がいたのは茶房の前の池で……」
そんな風にわいわい話していると、車は学園の車止めについていた。
ハスの実あんが黒いと思い込んでいた私が通ります。
こしあんに混ぜられていた模様です。
次回、高天原学園で再会したのは……?
どうぞ、お楽しみに!




