表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_46 お茶とダンスと、恋する想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

489/1358

Bonus Track_46-1 あの夏の香りは~ユタカ ハジメの場合~

 僕の名はユタカ ハジメ。

 頭も普通、顔も普通。運動神経は……まあそこそこの、ごくごく普通の大学生だ。

 趣味は自転車旅行。バイトで貯めた資金を元手に、月萌のあちこちを回るのだ。

 さすがに外国には行けないけれど、いつか鎖国が終わったら、足を延ばしてみたい。

 どこかのんびり働けるところに勤めて、長期休みには飛行機に乗って。

 そんなことをぼんやり夢見る、平凡な男である。


 この夏の目的地は、月萌東海岸。

 子供のころ親戚と一緒に車で来た、実家からもそう遠くないスポットだ。

 海で泳いで温泉に入って、もしバイトが見つかったらバイトして。資金が尽きるまで一、二週間ほど、きままに過ごす予定である。


 潮の香りが混じる風の中、焼け付く日差しに照らされながら、こいでこいでふんばって、ついに最後の坂道のてっぺんに。

 スパッと地平線が水平線に変わった。

 出迎えてくれるのは、無数のきらめきをはじく深い青。

 ここまでの苦しさも吹っ飛んでった。

 すーっと息を吸い込んで、体の底から湧いてくる声を、僕はおもいきり解き放つ。


『ヤッホ――!!』


 やってしまってから気が付いた。これは山でやるべきものだと。

 恥ずかしくなったところに、後ろからくすくすと笑い声。

 うわあ、聞かれたっ!

 わたわたと逃げ出そうとした僕だったが、それはできない相談だった。



『海は、お好きですか?』



 そこで、運命の女神と出会ってしまったからだ。



 さらさらとなびく黒髪、きらきらと輝く黒の瞳、すきとおるほどに白い肌。

 白い日傘をたずさえ、白いワンピースをまとって微笑む彼女は、お日さまよりもまぶしくて。

 一体どこのご令嬢だろう。いや、彼女はそもそもヒトなのだろうか。だってあまりに綺麗すぎる。もしかしたらほんものの、天使なのではなかろうか。


『あの、いえ、……はい』


 しどろもどろにうつむいた鼻先を、石鹸のような花のような香りがかすめれば、僕はもう動けない。

 気づけば僕は、とあるペンションの短期アルバイトに収まっていた。


 * * * * *


 彼女は、海水浴場そばのペンションにつとめるシティメイド。呼び名を『ユウミ』と言った。

 しっかりしていて、誰にも優しい彼女は、さえない大学生の僕にも微笑みを向けてくれる。

 慣れない仕事に失敗も多い僕を、いつも優しくサポートしてくれた。

 手が触れるたびに高鳴る胸。恋をしていると気づくのに、時間はかからなかった。


 彼女はいろいろと事情があって、一時ここに身を寄せていると言っていた。

 つまり、ときがくれば彼女は元あるべきところに帰ってしまうのだ。

 僕もこの夏が終われば学校に戻らなければならない。

 だから、気持ちにふたをした。なれないポーカーフェースを気取って。

 隠しおおせていると思っていたのは僕だけだった。

 周りの全員に、僕の恋心はバレバレだった――そう、とうの彼女にさえも。


 それを知った、夏の終わりの日。僕は彼女に約束をした。


『ユウミさん。僕、あなたを身請けします!!

 何年かかっても、いくらかかっても。

 そうしてこの海の向こうにあなたを連れてって、世界じゅうの海を見せてあげます!!

 だから、だからっ……』


 彼女はそっと僕にキスをしてくれた。

 満天の星空の下、ほほに涙を光らせて。



 それが最後になるなんて、想像もしなかった。



 次の休みに彼女を訪ねた僕が知らされたのは、彼女が元いるべき場所に連れ戻されたということ。

 渡した連絡先にも音沙汰はない。

 人を頼り、必死で手を尽くしても、彼女の手掛かりは得られなかった。


 彼女は社会奉仕活動のため、国を介して派遣されていたΩ。

 国の所有として扱われた者について、βの僕たちにはなにひとつの詮索も許されはしなかったのだ。

 わかったのはただ、彼女のつけていた香りの名だけ。

 

『オリエンタルムスク』


 けれど同じ名を抱いた香水はどれも、あの日のようには香らなかった。



 僕は自らに誓った。

 βでダメなら、αになろう。

 ティアブラの才能はてんでなかった。でも、大学に入る程度の頭脳、自転車旅行を趣味にできる程度の体力はあった。

 なにより、僕には約束がある。

 それだけあれば、あきらめる理由なんかもう見当たらなかった。


 法科に入りなおし、全力で勉強した。

 全国から同じ想いを持つ仲間を見つけ出し、草の根のネットワークを作った。

 あらゆるところに行脚して、想いを説き、頭を下げ。時に厳しいことを言われても、全力で向かい合って。……


 そうして今期、僕は四人の仲間とともにスタートラインに立った。

 もう誰も、僕たちと同じ思いをさせずにすむ未来への。

 愛するひとをもう一度、この腕に抱くための。


わりとすらすら書けました……ホワイ?!


次回、カナタ視点に戻ります。

ハジメさんの恋……ハッピーエンドもバッドエンドもありうるんですよね……幸せにしてあげたいところです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ