45-5 微々たる前進
Wifiの調子が悪くて遅れ申した……m(__)m
2020.12.30
『芽吹き党』党主の名前が抜けておりましたので修正いたしました。申し訳ございません。
舞踏会の件については、丸く収まりつつあった。
それは初動で切り込んでくれたユズキ・ソレイユさんのおかげであり、ミライとソナタの健気な練習ぶりと上達の速さ、トラオペアをはじめとした上級者組がみせた安定感のおかげでもあった。
夕刻、月萌杯突破記念パーティーのオープニングアクトとして、ソナタをメインとしたワルツを披露。
式典――マザーほかのあいさつとおれたちへの勲章授与――と、着座でのディナーを終えたら、タカシロ家設営の会場をオープン。
第二部、夜会としての舞踏会が始まるという寸法だ。
こちらでも食事は可能だが、あくまで軽いものを立食でつまむ程度。
これなら、スタッフの問題も解決。『ちゃんとした』形でデビュタントを踊りたい人たちの要望もかなえられる。なにより、ソナタに夜更かしの負担をかけずに済む。
なお国立迎賓館からタカシロ家会場への移動は徒歩でも可能だが、表面換装で仕立てた馬車や二階建てバスも用意し、沿道もそれっぽい飾りつけをして、移動それ自体も優雅なアトラクションとして楽しんでもらうしつらえになっている。
もちろん、高天原の街はお祭りとなる。
お堅いパーティーよりはカジュアルに盛り上がりたい、という人たちはこちらで楽しむことになるだろう。
警備の労は増すことになるが、そこはおれたちや高天原生も協力させてもらうことになっている。
むしろ、おれたちを狙ってくるやつがその日いるはず。
それを捕まえるのも、その日のひそかな目標なのだ。
と、そんなかんじに落ち着いても、やることはいくらもある。
おれたちは第一に、月萌からΩ(オメガ)制を廃止しなければならない。制度的にはこの一年で。現場の状況と、国民の意識にすっかり浸透するまでには3年をかけて。
この国のルールで、国を挙げて取り組むことに決まった事業だが、抵抗は根強い。
与党『月萌立国党』の党首、リュウジ・タカシロ氏はハッキリと言う。
「Ω制は国防の力の源泉。あらゆることをβにはない量と質でこなしうる、彼らの力の大きさは理解しているでしょう。
ソレイユの子女は修行のためにΩに身をやつす。それほどの実力を持ちうる存在だからこそ、そのチカラは有効に使われねばならないし、その数は保たれねばならないし、その立場は制限されねばならない。
それはこの月萌を守るために必要なことなのです。
それを覆すに足るものをあなた方は用意できるとおっしゃるか」
議員定数100名中43名。それはすなわち、この月萌の意見だといってリュウジ氏ははばからない。
35名を輩出する最大野党『緑の大地』も、経済的発展のためにΩのチカラはもっと活用されるべきとの立場だ。
代表者のファン ィユハン氏はオリエンタルビューティーな笑顔でサラリとぶっ刺しながらもこういう。
「それは『ご自身の子女が、国防の屋台骨となる実力をお持ちでない』ということの表明でしょうか? ……いや失礼。
国防の徒を養成する高天原学園、その実質理事長たるお方のおっしゃりようとは思えなかったもので。
それでも、この月萌を守るためにΩは必要。そのお言葉には同意です。
Ωの労働力によって成り立つ企業もこの月萌にはいくつもあるのです。
そこで働く者たち、彼らに支えられた社会を守るためにも、そのチカラは有効に使われねばならないし、その数は保たれねばならない。
立場については考える余地はあるでしょうね。彼らは経済の立役者ですから」
議論面で味方になってくれたのは議員数17名の『風見の塔』。セイメイ・クゼノイン氏――そう、ミズキのお父さんのセイメイさんを党首とする学者肌の一派だ。
「『情緒的なこだわりで、国と民の生活は守れない。それをおして強引に行えば、月萌が、その平和が崩壊する。』
それは間違っていない。彼らもまた、それは重々承知でしょう。
そろそろ、前に進むための議論を始めませんか。
Ωは国の一括管理下にある。もしもそのシステムに異常が発生すれば、それこそ月萌は内部から自壊する。この問題も、解決されてはいないのですよ」
『ちいさな芽吹き派』はたった五人の小派閥。けれど、党首ハジメ・ユタカ氏はけなげに主張する。
「情緒的なとは言いますが、高天原の生徒たちだけとっても若年層の支持は圧倒的です。
最終的に人は気持ちで動くもの。イツカさんとカナタさんも愛する人を救いたいという気持ちで『月萌杯』を突破しました。このことは素直にとらえるべきと思います!」
そこから始まった議論も、これでもう何度目か。
各派データをそろえ、議論を尽くし、状況はじりじりと前進していた。
大事なのはスピードもそうだが、容易にそれが復活しない仕組み作りもだ。
この国の経済は、Ω――β(いっぱんしみん)よりも格段に少ない報酬で『奉仕活動』を行うものたち――の存在ありきで成り立つ部分がある。それを変えなければ、たとえΩ(オメガ)制を廃止が実現しても、あっという間に形骸化する。
また、おれたちは知っている。都市伝説と言われているが、実際に存在しているのだ――債務奴隷としてのΩ、受刑者としてのΩの存在を。
それらをどう変えていくのか。
残念なことに、おれたちはその点、勉強が足りなかったといっていい。
ただただ、ソナタを守りたい。その思いだけで、駆け抜けてきた。
そのことに後悔はないけれど……。
好むと好まざると、味方してくれるおとなたちに議論を任せる形になってしまっていることもまた事実。
セイメイさんたちはいいんだよと言ってくれるけれど……。
煮詰まった気持ちに風を入れようと、空き時間に議会の庭に出ると、おーいと声をかけられた。
手を振っているのは『ソアー』と、レモンさんだった。
次回、『ソアー』とレモンさんとのちょっとした会話。
どうぞ、お楽しみに!




