Bonus Track_45-4 世話焼きうさぎと世話焼きうさぎ~アスカの場合~
シオンは、ひかえめにいってもすごいやつだ。
明晰な頭脳で連盟のしごとの多くを自動化・省力化してくれた。
もちろん学業の成績も優秀。
アイドルバトラーとしても大活躍だ。
ぴょんぴょん可愛い踊りっぷりと、はじけるようなボーイソプラノで魅せるステージ。
試合となれば、相棒の剣技を活かした巧みな作戦、威力抜群の錬成魔術とファンタジックなイリュージョンで勝利をつかむ。
あふれる文才で魅力的な脚本を書き、自ら舞台監督も務め。
先日のイツカナ凱旋祭りでは、イベントディレクターさえこなした。
なにより、どん底を知る彼は、誰にも優しい。
けれど、いつも無邪気に可愛らしい。
そんな彼を誰もが慕う。
僕も、シオンが大好きだ。
一度は僕の愚かさが、壊しかけてしまった彼。
なのに『あれはアスカのせいじゃないよ!』と心から言って笑ってくれる、大事な仲間。
同盟のメンツは僕にとって、みんな大切なやつらだ。
けれど、そのなかでも特別枠に入るのが、旧『うさぎ男同盟』のメンメン。その筆頭であるのが、シオンなのだ。
時間はシオンの都合のつく時間に。お茶とお菓子はシオンのすきなやつに。
おかげでつかみはOKだ。
待ち合わせの場所――ヴァルハラフィールド内のこじゃれたティールームで待っていれば、シオンは「わあ~!」と目を輝かせてかけてきてくれた。
控えめに言ってかわいい。ありがとあーちゃーん! と飛びついてくるのを受け止めてわしわし撫でれば、もしゃっとした黒髪の手触りもまた楽しい。
するとシオンの後ろからやってきた相棒がおめめキラキラになる。
「ダブルめがねうさちゃんのナデモフしーん尊い……!!」
「ソーヤ戻ってこい。こっちはアスカだ」
するとハヤトがひっどいことをのたまった。
まあしかたない。シオンは可愛いけれど僕はひねくれもの。そして、それでもハヤトはやきもちやきだ。おれはシオンを離すと取って返して問答無用、ハヤトをモフった。
「あ、ハーちゃんひっどーい! そーゆーわるい狼さんはモフモフだー!」
「もふもふだー!!」 もちろんシオンも参加。
「よし俺もー!!」 ソーヤもノリノリで参戦。
「おいちょっお前ら――?!」
いつもの他愛もないじゃれ合いが終わると、おれたちは着席。ストロベリーティーとチェリーパイでのお茶会を始めた。
シオンは満面の笑顔でさっそく『いただきます』。
黒く短いうさ耳を小さくパタつかせながら幸せそうに食べはじめる隣で、ソーヤがフォローする。
ふさふさつきのグレーのうさ耳、ライオンラビットのそれをピョコン。さくさくと話を切り出してくれる。
「ふたりっとも、今日はシオンのためにありがとな。で、ハナシって?」
「うん、気のせいならいいんだけどさ。シオっち最近こまってることとかない?
なんかこー、ちょっと心配な感じなんだよね。やっぱ、いろいろいそがしすぎる感じ?」
「…………だいじょぶ、だよ?」
シオンは口の中のチェリーパイを飲み込むと、可愛くニコッと笑ってくれた。
でも、残念ながらバレバレだ。
だって、るんるん揺れてたうさみみがぴたっと凍った。
けれど、そこはソーヤがフォローする。
「シオ?」
「あ、……
ごめん。オレつい、だいじょぶ? っていわれるとそう言っちゃうみたい。
うさぎ装備のわるいくせだね!」
「じゃ、話してもらえる?」
すると、シオンはフォークを置いた。
「………………あのね。
いそがしいとかは、だいじょぶ。
覚醒も、なんかできそうな感じだし。
悩んでるのは、このさきのこと。
オレ、ちからになれるんだよね。『あの件』で。
というか、その件ではオレのちからが、フルに必要。
うん、それは、わかってる。そのためにはすこしでも早く覚醒して、五ツ星カリキュラム終わらせて、卒業しなくちゃって。……
すごく、大事なことだよね。オレもそうおもう。
だから……どうにか……最短2、3回で打ち切れるかたちにしなくちゃって。うまく」
『ふしふた』に続く新作――『湖の乙女と七つの魔神』は、最低でも八回構成になる。毎週末やれたとして八週間。
実際はもろもろの都合もあり、三カ月はかかるだろう。
その間にシオンは卒業を迎えるはずだ。いや、きちんとした形で公演を行うためには、卒業試験期間より前には終わらせる必要がある。
もしくは、卒業後もシオンが空き時間を使って携わるか。
おれとしては、その方向で考えていたのだが。
シオンはふるふると首を左右した。
「いまはメイドサービスで部屋のこととかもいろいろ、お願いできてるけど……ソーやんにもいっぱい、おせわになってるけど。
卒業したら、それは自分でやらなくちゃ。
ソーやんもオレと研究所にきてって言われてるけど、そしたらソーやんも自分の仕事をしなくちゃだし。いつまでも、オレのお世話ばっかさせられないから」
「シオ……」
ソーヤに向き直り、シオンはいう。
「だって、オレのせいじゃない。
ソーやんが女の子に告白されなくなっちゃったの。
いっつもオレがくっついてて、オレが甘えて、オレのお世話ばっかさせてるから。みんなにソーやんは女の子に興味がないんだって、誤解されちゃって……」
うさみみをしょんぼりたらして、大きな栗色の目には小さく盛り上がるものまで。
ソーヤはしばらく絶句していた。
「……シオ。そんなこと、思ってた……の」
「ごめん。ごめんねソーやん。
これからのこと考えて、これまでのこと考えて、気づいたんだ、オレソーやんに甘えすぎてたって。
だから、なんとか……なんとかするからもうすこし」
けれど、いまにも泣き出しそうな相棒をほってなんかおかなかった。
腕を伸ばして、ぎゅうっと優しく抱きしめたのだ。
「がまんなんかしてない。がまんなんか、いっこもしてない。
いいんだって。シオのことは、俺が好きで面倒見てんだから。
確かに俺は、女の子大好きだよ。うん。でも今はそこまでキョーミない。
それよりずうっと大事なことが目の前にあるんだから」
「だいじな、こと……?」
シオンの声はもう涙に詰まってる。
その小さな背中をぽんぽんと、ソーヤが優しくたたいて告げることは。
「シオが楽しそうにしてることが、いまの俺には一番うれしいんだ。シオのしあわせが、俺の生きがいなんだ。
むしろ就職するならシオのマネージャーになりたいって、俺マジにそう思ってんだからな?」
「……ほんとに?」
「おうっ。
ほら、バトル面じゃシオが俺をマネジメントしてくれてんじゃん?
剣も鎧もダーツも、ブーツもアクセもぜーんぶ新調してくれてるしさ。トレーニングのメニューやスケジュールとかについてもみてくれてんじゃん?
つかこれシオのほうがむしろいっぱい面倒見てねっ?! やべー、おれ世話係とか言えねーわ! むしろ俺が世話されてるわー!!」
「……それもそっかも」
ふんわり体を離して、笑いあう二人はそして、いっぱいの笑顔でありがとうを言ってくれた。
「ありがとねふたりとも。
オレ、ソーやんを不幸にしてなかった! それがわかってすっごくうれしい!」
「これでやっとシオが元気になってくれたわ。
心置きなく前に進める。ほんとうに、ありがとな」
これでシオンは、ソーヤは大丈夫。
僕とハヤトも、つられるように笑顔になるのだった。
お忙しい中お越しくださり、ありがとうございます!
次回は再びカナタ視点の予定です。少しだけ慣れてきた毎日の様子が描かれる予定です。
どうぞお時間のあるときに、のんびりとお付き合いくださいませ!




