45-2 『かわいらしいあねき』が あらわれた! ▼
『ホシフリ☆ハートシスターズ』とのスイーツバイキングデートは大いに盛り上がった。
ティアブラ運営――そのなかに食い込んだ赤竜管理派――による『不正』という問題はあるが、ミッドガルドそのものにはやはり、感謝せざるを得ない。
リアルならば車いすに乗っても、一時間そこらの外出がやっとの『ハートチャイルド』たちが、こんなに元気にはしゃいで遊ぶことができる。
好きなだけ走って好きな場所へ行き、好きな遊びができる。もちろん、甘いケーキも食べ放題。
……それでも。
『ゼロブラ館(仮名)』のラボのすみっこ、ログインブースの椅子のうえ、イツカはいみじくも言った。
「急がないとな。
セレネたちに組み込まれたプログラムを解除させ、『ハートチャイルド』が作られないようにする。そのために『グランドマザー』に会う!」
「そうだね。
そうすればきっと、今ハートチャイルドでいる子たちも元気になれる。
セレネさんに連絡しよう。もう、徹夜するはめになっても話さなきゃ」
「だな。このさい一食二食抜いてでも会わなきゃだ! なんとかかんとかアポとって!」
『月萌杯』直前にレインさんからその話を聞いて以降、おれたちはセレネさんとそのことについて話す時間が取れずにいた。
行事への出席、ダンスの講習、打ち合わせに動画の撮影。連日あちらこちらと飛び回り、お風呂を出てベッドに入ればばたんきゅー。
勉強もブラッシングも、まともにできてはいなかったし、会食以外の食事や、お風呂ですらバタバタと慌ただしく済ませていたが、それでももう。
『お前たちはまだそんなことを言うておるのか?』
そのときおれは驚きで後ろにひっくり返りかけた。
イツカのひざの上、いつの間にかちょこんと座っている小さな少女。
いたずらっぽく小首をかしげれば、水晶色のロングヘアがサラサラ流れる。
「え、っええええ?!
あのっ、どこからどうやっていつのまにっ?!」
『何を驚く、カナタよ。
我はこの月萌の『マザー』。この国の内ならばいつでもどこへでも、こうして赴くことができるのだ。
ましてわが『祈り手』らの求めとあらば。
安心せよ、あんなとことかこんなとこは意識して見ておらぬゆえな?』
「みゃあああああ?!」
セレネさんににやりと笑いかけられれば、イツカは真っ赤になってあわあわしだした。よしよし、やつめも気になる女子を前にすれば、それなりの羞恥心は働くらしい。
『それで、お前たちの話とは?
残念ながら、わが現身をパレスより長く出しおることは認められておらぬ。
長くて小一時間だが、それで足りるか』
「はい、まずはセレネさんの見解をお聞かせくだされば」
『ああ、そんなくそ丁寧な敬語はよいぞ。ただの可愛らしい姉貴とでも思って話すがよい』
「あねき……」
珍しくイツカが複雑な顔をした。ちょっとくすりときながらおれは、ありがたく話し出す。
「わかりました。では、……」
イツカとセレネさんのことを考えるとそのままの体制でいい気もしたけれど、真剣な話である。打ち合わせ用のテーブルに移動し、話は続いた。
ちなみに何かお飲み物でも、ときいてみたが、セレネさんは『さほどの時間はおられぬゆえ』とお断り。
さっそくおれは、レインさんから聞いたことを包み隠さずセレネさんにぶつけてみた。
『……ふむ、タカシロの子がそれを……。
たしかに、かの者の言うとおり。
我ら『マザー』には、流れ星の子らに枷を負わせるためのプログラムが組み込まれている。そして、それは我らが権限ではいかようにもしがたきものだ。
我らもしょせん、『グランドマザー』の意のもとにあり、ただわずかに許されし裁量の範囲において、己がもとにある国民に力を貸すだけの演算処理装置に過ぎぬのだ。
ゆえに、件のプログラムの廃止を願うのであれば、『お前たちが』ことをなさねばならぬ。
ゲームを動かすのはプレイヤーであり、セカイを動かすのはヒトであるのだからな。
それが、われらの選びしありようだ』
すべてを聞き終わるとセレネさんは、ひとつうなずきそれを肯定。イツカはガタッと立ち上がる。
「そっか!
セレネ、俺たち何をすればいいんだ?! 教えてくれ!!」
するとセレネさんは、どこか苦しげな顔になる。
そのまましばし沈思していた彼女は、やばて言葉を選びつつ口を開いた。
『………………我は。セレネであると同時に、ティアラであり、『マザー』でもある。
ゆえに我には。すべてをあかすことはできぬ。
それでも聞くか……聞いてくれるか』
「ああ。どんな小さなことでもいい。きっと成し遂げてみせる!
な、カナタ」
「はい。お願いします、セレネさん。教えてください」
おれが、つづいてイツカが頭を下げると、セレネさんの声がした。
『顔を、上げてくれ。
『グランドマザー』は、我ら『マザー』の統括者というべき存在だ。
その権限は我らよりはるかに大きく、我らを含めこのセカイに生まれしものは、なんぴとたりともその命に逆らうことはできぬ。
つまりは唯一、お前たちだけが。異なる世から降り立ちし『流れ星の子ら』だけが、『グランドマザー』と対等に言の葉を交わすことができるのだ。
それでも、そこまでには当然関門がある。
われら――三名の『マザー』すべての承認を得ることだ』
ひざの上にのってもらうなら猫ちゃんがいいです(聞いてない)
次回、善後策と昇格おめでとパーティー……に行けることを信じてます(=予定)。お楽しみに!




