Bonus Track_44-3 背伸びのやくそく~アスカの場合~
まず、ソナたんとミーたんがふたりだけで何フレーズか踊る。
つぎにイツカナあーんどるーるーたんずが出てくる。
そのすぐあとに、僕たちがわらわら出てかっちょよく目立ちまくってカバーする。
と、いってしまえばそれまでだが、そこにはいくつもの問題が横たわっていた。
まず一つ。そもそも踊れるものが少ない。
僕たち<ウサうさネコかみ>の別名は『うさねこ再生工場』。
いわゆる『中核メンバー』の多くは、つい先ごろまで一ツ星、無星でギリギリ踏みとどまっていたクラフターたち。
二ツ星になった後は、イツカとカナタを『月萌杯』に送り出すための突貫スケジュールでつっぱしってきた。
もちろん、ソシアルダンスの授業など受けていない。
僕とハヤト、三銃士とミライの『現首脳陣』でさえその辺はみごと壊滅。
救いは、もともとダンスをたしなんでいたものの存在だ。
ミズキとブルーベリーちゃん、トラオとサリイさん、ハルオミとナナさんのラブラブコンビ×3。
そして、リンカさんとサクラさん。
意外なところではレンも踊れるそうだ。なんでも家がダンス教室で、半強制的に習わされていたとか。
だが、二つ目の問題として……
リンカさんのパートナーをめぐって、サクラちゃんとレンが言い合いに。
正確には、サクラちゃんがまずかみついて、レンが売り言葉に買い言葉で言い返すという事態が勃発した。
「だめだからねっ。お姉さまはサクラと踊るんだからねっ。
だいたいレンとお姉さまじゃぜーんぜんつりあわないし!!」
「オ、オレだってっ!
オレよかでかい女となんかっ、お、踊りたか……ねーし……」
レンは自分の言葉で自爆。それもクリティカルヒットを食らったようだ。
幼少時に大病をしたせいだというが、レンは男子で一番小さい。
さすがに140cm代のサクラちゃんやナツキよりは大きいが、それでもギリギリ150cmほど。ちっちゃ可愛いミライやシオン、可愛くはないけど体が弱い僕よりもさらに小さいのだ。
一方でリンカさんは160cmちかい。ヒールの靴など履いてしまえば、さらにその差は広がる。
「レン……」
それでもチアキが悲しそうな声をかけると、レンはハッと顔を上げた。
「レンは自分よりおっきい子、きらい……? 僕のことも、いや……?」
「ちょっとまてチアキお前は野郎だから!! お前とオレで社交ダンスは踊れねえからっ!! すくなくっとも月萌ルールでは!!!」
っていうかそもそもチアキも小さいほうだけど、二人が可愛いのでほっておく。
問題はこっちだ。
「そうよ、社交ダンスは女子どうしなら踊ってもいいんだから!
レン、あんたはおとなしく……」
「サクラ、レン」
リンカさんが珍しく、マジメに厳しい声を出した。
その場の一同が彼女を振り返る。
「わたしは、体の小さい人はきらいじゃない。
けれど、心の小さい人はすきじゃない。
いまのあなたたちのどちらとも、わたしは笑って踊れる気がしないわ」
「っ……」
「おねえさま……」
「みんな、ごめんなさいね。少し、席を外すわ。
何かあったら遠慮なく、メールでも通話でもちょうだいね」
リンカさんは優しい笑顔で軽く一礼すると、柔らかな物腰で立ち去った。
それでも背筋の伸びた背中は、ひたすらにきっぱりとしていて。
サクラちゃんはぼうぜんとその場に膝をつき、レンは気まずい顔でうつむいた。
女子たちがサクラちゃんに駆け寄り、だいじょうぶ? とよりそう。
サリイさんは、サクラちゃんの肩を一度優しく抱くと、『リンカの方に行ってあげてくるわ。なんかあったら呼んで』と言い残して駆けていく。
一方、レンにはチアキが寄り添い、トラオが歩み寄る。
こちらもかなり厳しい表情だ。
「おいレン。
……いまの、ホンキじゃねえんだよな?」
「ンなわけねえだろ……」
レンがしょんぼりとそう答えると、トラオはぱっとその腕を取る。
「じゃ、行くぞ」
「ちょ、待ってくれっ。
すー、はー……」
深呼吸する背中を、チアキが優しくさする。
そこからレンは男気を見せた。
「しゃっ!
サクラ! ちょっくら詫びいれてくるっ!
その、一緒に行かねえか?」
「え……いいの? あたし、ひどいことレンにいったのに……」
チワワの耳をぺしゃんこにしたサクラちゃんに、自ら手を差し伸べたのだ。
「そう思ってるってならいいってことよ。行こうぜ」
「……うん」
サクラちゃんはその手を取って、小さく可愛い微笑みを見せた。
リンカさんとレン、サクラちゃんは話し合い、こう約束したそうだ。
今回の参加は見合わせる。
けれど、卒業までにレンの身長がリンカさんを越したなら、そのときはふたりにデビュタントのダンス相手を申し込んでもいいと。
「で、越さなかったら?」
念のため聞いてみると、レンは泣きそうな顔でぷるぷるしながらこう答えた。
「こ、越すまでエアリー牧場で……ミ、ミルク漬けにするってよ……」
「うん、まあ、がんばれ。」
「そうなったら爆発しろ。」
「ああ、むしろいますぐ爆発しろ。」
女子たちが盛り上がってる一方僕たち男子は、ほぼ100パーセントが生暖かい目でレンの肩をたたいた。
「もう、みんなそんな怖い声出さないの。
『申し込んでもいい』ってことは『断られることもある』ってことでしょ?」
「!!」
チアキがかばうつもりで口にしたピュアな言葉は、そんな僕たちをもれなく凍り付かせたのであった。
ぶ……ブックマークがいただけている……だと……?!(驚)
まあまあどうしましょう。ありがとうございます!!
ゆるゆるですが張り切っていきます♪
次回、昇格について(予定)! お楽しみに!!




