42-4 絶体絶命! カナタ、戦慄の起死回生?
手のひらにこぶしをおさめて首礼。しかるのち、ゴジョウ氏は構えを取る。
剣を額の前に立てて瞑目。イツカもそして、構えを取る。
おれも左手の『サツキ』を再び頭上に掲げた。
「はじめ!」
濃紺のスーツに身を包んだサツキさんが、りりしく掛け声をかけてくれた。
同時にゴジョウ氏がイツカのもとへ飛び込んでくる。
『残雪』の輝きをまとった彼は、すでにフル強化ずみだ。
おれたちだって負けない。伸びるような初撃をイツカがスウェイでいなしたところへ、おれが『サツキ』から『斥力のオーブ』を三発打ち込む。
正拳突きで真っ向から立ち向かうゴジョウ氏。安定した姿勢、重心の低さ、そしてたくさんの筋肉の重みが、彼をほとんど後退させない。
大丈夫、それで充分。その合間におれは右手で『ウヅキ』を抜き放ち、強化弾をイツカに連射。間に合った。
ゴジョウ氏の第二撃がイツカに届く前に、第一弾がイツカの背に着弾。
イツカの動きが変則的に速さを増し、ゴジョウ氏の間合いを絶妙に崩す。
二撃めの拳を剣の腹で払い、イツカが一撃を見舞う。
対するゴジョウ氏は、「ふんっ!」という掛け声一発。腕にまとわせた『鋼気功』により、至近距離からの斬撃をノーダメージで耐え抜く。
すかさず反撃が飛んでくる。豪快にして繊細な間の取りようで、剣より怖い拳が一、二、三発。
いなし、かわし、反撃しつつイツカが声を上げる。
「うお、固ってぇ!」
「フォフォ、どうしたお前たち。
猫の赤子のぷにぷにパンチほどにも効かんぞ!
それとも昨日の戦いぶりは、幻だった、ということかッ?」
もっともこんなのは軽いジャブのうちあいだ。
そして、ハナからバディでと望まれた以上、おれも黙って突っ立ってはいない。
レイジ、グリード、そしてバニティははあれからめでたく戻ってこられて、いまおれたちの装備に宿っているのだ。
心の中でそっと呼び掛ける。
『バニティ』
『まかせなさい!』
まずは耳飾りに宿るバニティの力を借り、盛んに打ち合う二人の周りに、幻術と森での包囲網を完成させた。
『忍び寄る緑の鎮魂歌』。
まるで何事も起きていないかのようにみせかける幻術の輪の外側、『卯王の薬園』で必殺の森を育てておき、タイミングを見て中心部を一気に制圧する複合攻撃。卒業試験でも使った技だ。
とはいえ、歴戦の格闘僧であるゴジョウ氏は、おそらく自分の周囲を幻術の壁がとりまいていることを見抜くだろう。聖職者系は概して状態異常耐性が高いのだ。
だから今回は、幻術を二重にしておいた。
ゴジョウ氏は、幻を、森ごと薙ぎ払う。しかし、その森も幻。
その輪の外にまた、幻の壁とほんものの森が待っているという組み立てだ。
「イツカ!」
さあ、始めよう。イツカの背に、スイカの香りのFMP弾を撃ち込んだ。
念には念を入れ、FMP弾を使うのはこの試合ではこれが初めてとしてある。
イツカが大きく跳ねると、ゴジョウ氏はにやりと笑った。
「甘いぞ、小兎。
――破ッ!!」
気合一閃、裏拳をぐるり。
全周に広がる『破邪掌撃』、その破壊力は想定より大きい。急いで森を解除し宙に跳んだ。
はたして、幻術の壁は三枚とも消失。フィールドを守る防護フィールドにガツンとぶつかり、ようやっと聖なる破壊の波は鳴りを鎮めた。
「仕込みを引っ込めた。そうだな?
ワシのことは当然研究してきただろう。だがワシもお前たちを研究した。
いずれこの手で制さねばならぬだろう相手としてな!
どうした! そこまでか!
『月萌杯』突破者とはその程度の実力か!!」
イツカを追ってガンガン打ち込み、煽ってくるゴジョウ氏。
まさか、四重の布陣をこうもあっさりやられるとは。
悪いことに、このことでイツカは無駄な、そして相手には完全に予測済みの回避行動をしてしまった。
着地のタイミングを狙って、掌打がとんでくる。あわてて空中を蹴り、回避したところに気弾を飛ばされ、吹っ飛ばされる。
大きな踏み込みで追っかけての突きは、体を回転させてギリギリ、タイミングを外したが、着地が決まり切らずさらに逃げを強いられる。
『残雪』のアシストを受けて打ち込みつつ、みずから神聖強化を唱えてさらに強化を積み、勢いづくゴジョウ氏。
おれも強化と回復のミックスポーション弾を連射しつつ、神聖防壁を唱えて対抗するが、劣勢は否めない。どうやっても、じりじりと押し込まれてしまう。
そのとき、観客席の上のほう、エクセリオンたちのいる場所をみてふと気が付いた。
『ソアー』がおれをみつめて立っている。
背の翼をすまなそうに下げ、祈るように両手を握り合わせて。
昨日の『月萌杯』第三試合。彼はおれの森を刈りまくってBPを稼いだ。
そのことはあのあと、改めて『ごめんなさい』と謝られたのだ。
おれはもちろん笑って『いいよ』と言って、握手を交わして、その場は終わったのだけれど。
彼は本当はまだ気にしているのかもしれない。
おれもほんとうは、まだ気にしているのかもしれない。
いや、明らかに気にしている。
たしかに、いま森を刈られるに任せるのは愚策だった。これは最善の選択だったと思われる。
けれど、それでも、心の中にはまだ。
一度気づけば見えてくるもので、同じように見ているのは『ソアー』だけではなかった。
ライムや、何人かの議員たちもそう。
サツキさんは明らかにハラハラした顔だし、ヴェールで顔の見えないソレイユの奥方からも、まあどうしましょうという声が聞こえるようだ。
さきほど真っ先に訪問した最小の党――『ちいさな芽吹きの党』メンバーたちは、五人全員が立ち上がっている。
あるいはハラハラしながら祈り、あるいは喉が枯れそうな勢いで声援を送ってくれている。
「負けてらんねえぞっ、カナタ!」
そのとき、パン、とイツカの声が飛んできた。
ちらりとこちらを見たルビーの瞳。そこに宿る輝きは、むしろ楽しげに増している。
レイジとグリードの力を借りてなお、あきらかな劣勢であるにもかかわらず。
それでもイツカは、ペースを取り戻し始めていた。
大きなこぶしをいま、完全にかわして一撃入れた。
それを見たら自然に、笑みが湧いてきた。
「……ありがと」
そして、起死回生の策も。
おれはイツカの背にミックスポーション弾を、やつの攻撃を縫ってゴジョウ氏にボムを飛ばしつつも、静かに呼吸を整えた。
そしてもう一度ゆっくりと、ちいさな芽を芽吹かせた。
ここならば、おれの力で絶対に守り切れる。そんな場所へと。
そのとたんゴジョウ氏が、ひっと息をのんで凍りついた。
おれを振り返ったイツカが、ぎゃああっと悲鳴を上げてゴジョウ氏にしがみついた。
「カ、カナタよ……」
「う、うそだろ、カナタ……」
そしてカタカタ震えつつ抱き合うやつらが口走った言葉におれは、『サツキ』『ウヅキ』を連射したのであった。
はじめはカナタがこんなにも『植物系うさ男子』になるとは思ってなかったデス。
次回、イツカたちが戦慄した理由があかされる!
お楽しみに!




