42-2 御前大会議に臨んで~黒猫騎士<ぶらっくにゃいと>、進撃す
そこからもイツカのやつめは、無敵の天然タラシっぷりを発揮しまくってくれた。
最初の被害者は仮名『ソアー』。
周りの先輩たちが温かい視線と冷やかしを飛ばしている中、ひとり顔を赤くしてドギマギ。
そこへやつめは無邪気に『どうしたんだ? なんか顔赤いぞ。熱とかないよな?』。
剣を交わせばもう友達、とばかりに懐に入ってくる子猫野郎に、ドギマギが加速しまくってあばばばば。
微笑ましいのだけれど、後でヤキモチやいたミツルに締め殺されたくないので、適当なところでひっぱがして謝っておく。
次は、月萌国会議員たち。
ミソラ先生の入れ知恵と付き添いの上で、各会派の控え室にあいさつ回りをしたのだが、これが大きな効果を発揮した。
月萌杯突破者のおれたちはエクセリオン同様の『六ツ星』。つまりふつうのαである国会議員たちよりは一段上の身分となる。
そのため各党の代表者らがあいさつに来る予定だったのだが、サプライズで先手を打った。
国会内で働くシティメイドたちに手分けして控え室に走ってもらい、逆にこちらから訪問したのだ。
この時、小さな党の部屋を優先したことで、彼らからは大いに歓迎された。
もちろんとある与党の重鎮にはチクリと言われたが、イツカはまったく応えた様子もなく『だって俺いま全員とあいたかったし。だからみんなそろうの待って来たんだ!』となつっこくニッコリ。
垣根を作らずニコニコと寄ってくるやんちゃ子猫の破壊力に、彼は思わず破顔。
その場にいた老若男女もことごとく落ちた。
あとはおれが丁寧に頭を下げてフォローしておく。
さすがに赤竜管理派たちは某1名以外愛想よく距離を置いていたけれど、つかみは無難にこなせたようだった。
* * * * *
怒涛のあいさつまわりが終われば、ミソラ先生・ノゾミ先生と別れ、おれたちは与えられた部屋へ。
適度な沈み込みのソファーに腰をかければ、御前会議までの時間は20分を切っていた。
「お疲れさまですわ、どうぞ」
ミニキッチンを使い、ライムがお茶を入れてくれた。
ありがとうを言って、さっそくいただくことに。
ふーふーと吹いて冷ませば良い香り。
いつもの味と、ライムの優しい笑顔に、緊張もふっとほぐれた。
イツカはというと、疲れた様子もなくニコニコ。
「はー。いろんな人と会うってやっぱ楽しいなー!
御前会議も楽しみだな! レインが仕事してるとことかも見れるとかさ!」
「そこはサツキさんとかじゃなく?」
それを聞いたらレインさん、きっと喜びでむせび泣くぞ。そう思いつつも一応聞いてみる。
すると無邪気な笑顔で返ってきた答えはこうだった。
「いや、サツキさんはふつーにデキる感じじゃん。だから違和感ねーんだけどさ、俺的にレインはときどきフラッときてへんなこと言ってるやつってイメージだから」
「ガチに泣くよレインさん……」
これはひどい。
と思ったら、ライムがうふふと笑って答えてくれた。
「実際、あまり間違っておりませんわよ。
理事会においてレインさんの票は、御父上と同じところに入ることになっている、と聞いておりますでしょう?
会議などでの発言権は、ないに等しいのですわ。
ですので、どうしても必要でないときには抜けていらっしゃいますの。
レインさんに与えられた最重要の任務は、おふたりとよい仲になることですから」
おれはおもわずお茶を吹きかけた。
一方でイツカは小首をかしげる。
「……よいなか?」
「うん、イツカ、お前はわかんなくっていいからね?
とりあえず、チョコケーキ食べさせてあげるよとかって言われても一人で絶対ついていかないこと。必ずおれとか、ほかのやつも誘って。あっ、ミライとかシオンとかチアキだけじゃだめだからそれ以外も」
「あー、えっとじゃあ、セレネとかは?」
その選択は、大方間違ってはいない……と、言えなくはない。
たしかにセレネさんは月萌最強。いろいろな意味で守ってもらえるのは確実だ。
だがしかし、それではカレシじゃなくて飼い猫ちゃんである。
おれは天然子猫野郎の肩に手を置いた。
「うん、おまえはまず、女の子との付き合い方を教わってきな。
とりあえずエルカさん……は今悪いし……」
「まあ、ではわたくしが」
するとなんと、ライムが小さく挙手したのだ!!
おれはあわてて立ち上がる。
「ちょ、ライムはダメ!」
「……心当たりの師を紹介するのはいかがかしら、と申し上げるつもりだったのですけれど……?」
ライムは背中の白翼を小さくパタパタさせて、とってもとってもうれしそう。
おれはとりあえず、イツカのやつめをうさみみロールにするのであった。
今回も少し短いですが、キリがいいのでこの辺りで!
次回、御前会議……といっても、今回は顔見せレベルになりそうです。
もしかしたら恒例のイベントが来るかもしれません。
どうぞ、お楽しみに!




