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Bonus Track_5_2 会合・うさぎ男同盟!~アスカの場合~

シオンとソーヤを間違えてるところがございました……訂正いたしましたorz

 その翌日のこと。

 僕たち『うさぎ男同盟』は、カナタ加入後はじめての『全体会合』を行っていた。

 提案者はカナタ。というか、イツカだ。


 あのあと、カナタのクッキーの在庫がもうひと缶あったことが判明。驚いたイツカが言いだしたのだ。

 さすがにこれは一人じゃ厳しい。いつもお世話になってるお礼を兼ねて、『うさぎ男同盟』でお茶会をしたらどうか、そのくらいなら大した準備もいらないだろうし、と。


 正直ありがたかった。

 いまのカナタは、はっきり言っておかしい。

 早めに手を打たなければ、ろくなことにならない。

 それは同盟にとっての損失でもあるし、僕たちの最終目的をはたすにも都合が悪い。

 ……まあ、カナタが友達だからという理由も、ないわけではないのだけれど。



 そんなわけで、火曜日の放課後。

 僕たちイケメンうさぎ野郎五人は、お気楽ごくらくティーパーティーとしゃれこんでいた。

 学食の端っこ、ティーラウンジエリアのまんなかにどんと陣取って。

 周囲の視線が集まりまくっているのはわかっていた。

 カナタという『ふたりめの奇跡の男』を迎えた今、おれたちはむしろ本物のアイドルグループとして話題となりつつある。

 今までの分、せいぜい羨望し、称賛してもらおう。挑戦ならば、受けて立つ。


「カナタさんっ、家事大好きってホントっスか?」

「うん……って敬語なんてもういいよソウヤ、おれのが年下なんだし……」

「たしかにそうっスけど~」


 乾杯が終わるやテーブルに身を乗り出し、カナタに話しかけるのはソウヤ。

 明るいヘーゼルの髪と目、いつも明るい笑顔、明るいグレーのふさ耳装備とそろった『とにかく明るいソーヤくん』。

 この間の件で念願の二ツ星になれて、ますます明るくなった。

 へこたれないバイタリティをもつ、ハンター兼業のクラフターである。


「カナタさんは俺たちの恩人なんですよ。

 無星は『月給が』一万なんです。

 きりつめていても一万TPを貯めるのに、どれだけかかることか。

 当番が多くなる分どうしても、クエストに充てる時間が減りますし、ミスでTPを引かれる機会も増えるものですから」


 彼の言葉を引き取るのは、一ツ星のミズキ。

 さらさらの髪とともに、耳下ほどのクリームロップイヤーを揺らして微笑めば、ギャラリーからため息が漏れた。

 全体に色素の薄いその姿は、いつもはかなげに美しい。

 もっともその実は、カナタに負けないくらい強い男なのだが。

 専攻はプリースト、ハンターとしての心得もある。


「それそれそれですよー!

 情けない話、それまでオレ、家のこととかお袋に頼りっきりで……なーんもできなかったから当番のたび失敗ばっかで。そんでTP引かれまくって無星ですもん」


 こちらも一ツ星の短耳黒ウサギ、シオンが両手のこぶしをにぎって力説する。

 もしゃりとした黒髪の間で、短い耳がパタパタパタ。最後にしゅん、と下を向く。

 無意識に出てしまうこの耳アクションは、いつみても素直にかわいい。

 ちょっとだけずれてしまった黒縁メガネ、小柄ゆえの萌え袖もあいまって、シリアスな話のはずなのに、思わずほっこりとしてしまう。

 もっともそれはシオンの顔に、くるくると変わる表情があるからこそだけど。


「オレ、バディなしで入ってきた単騎組だから、ほかの単騎のやつと仮のバディ組んでたんですけどね。

 そんなんだから早々に愛想つかされて、バディ解消。

『エ救』も受けられなくって、まんま無星になっちゃったんですよ」

「えきゅう……?」

「あっ、『エキュパージュ救済』のことです。

 バディが自分より上の級の場合、そっちと同等の扱い受けれるんですよ。

 たとえばオレがもう一度、TP100万きった場合……

 バディがいなけりゃ、まんま無星転落です。

 でも、一ツ星のミズキとバディを組んでいたなら、おれは一ツ星扱いのまま。一ツ星部屋にそのままいれて、当番も増やされずに済む、ってことです。

 さらにはミズキからTPの融通を受けて、もとの一ツ星に昇格しなおしてもらうことも可能なんですよ。

 まあ、この場合でも『代理弁済』扱いでTP二倍払いだから、そんなことはほぼ無理ゲーなんですけどね」

「なるほど……」


 シオンは仲間をうまく引き合いに出し、てきぱきと説明をする。

 やつは頭はいいのだ。ただそれが、体の方になかなかうまく回ってこないだけで、決して無能じゃない。

 βのままで高校に残り、勉強を続けていれば、前途は明るかっただろう。もしかしたら、大好きな児童文学小説を自分でも書いて、賞をもらったりしていたかもしれない。

 けれど、憧れてしまった。αという幻影に。

 そしてここまで来れてしまった。なまじ頭がいいせいで、情報屋として名を成して。

 高天原はそして、彼に最適なキャリアパスがないにもかかわらず、彼を黙って受け入れた。

 その結果が、少し前までのシオンだ。そう――


「だもんだから、闘技場の試合、出場数ギリギリまで出まくって稼いでたんですけど、やっぱ弱い方だからどっちかってと『かませ』で。

 観客から飛んでくる声とかもその、あんなかんじで。

 ミズキやソーやん、アスカさんにはいろいろ助けてもらってたけど、でもオレはどんくさいから、なかなか無星脱出近づかなくて。」


 ――陰で『イケニエのウサギ』と呼ばれる、最底辺の生徒たち。

 ファイトマネーをたよりに高天原にしがみつく彼らは、『ラビットハント』と呼ばれる質の悪い無理ゲーを持ち掛けられても、拒絶することができない。

 そうして心と体をすり減らす彼らは、ミスや欠席も増え、さらにTPを引かれてしまう。

 それを補うために、また闘技場に出て……

 悪循環のさなかに、なにかひとつ事件があればそこでジ・エンド。

 幸せでよかったはずの時間を搾取され、Ωに堕とされ、ここを去っていくのだ。


「もうこのまま『うさぎ肉のパイ』にされるんじゃないかって夢まで見ましたし。

 今考えると、どこの児童文学だって感じですけどね!

 だから、カナタさんたちはほんとマジに恩人なんですよ!

 やっとちゃんとお礼言えました。ありがとうです、カナタさん」


 からくもその運命を脱することのできたシオンは、神でも見るような目でカナタに頭を下げた。

 きらきら輝く栗色の目を向けられて、カナタはあわあわと両手を振った。


「まってよシオン、それはおれの功績なんかじゃないよ。

 あれはあくまで、イツカたちが始めたお祭りが、校長先生のおめがねにかなっただけのことで……」

「イツカさんがあんだけハチャメチャできるのはカナタさんのおかげっス!」

「俺もそう思います。

 先日のこと、いろいろ言う人もいると思いますけど、人生失敗することなんかいくらもありますから……」

「そうそうそうですよ!

 オレなんか、何枚お皿割ったことか。

 洗剤二種類混ぜちゃって毒ガス騒ぎも起こしたし、一度なんかコンロのそばで小麦粉の袋落っことしちゃって粉塵爆発起こしてますから。

 ……まあそれで無星になったんですけどね」

「えっ」

「あれ以来厨房出禁なんだよなーシオ!」

「ほんと、よく人死にがでなかったよねあれ……」

「あ……あはは……」

「あははー。シオっちは悪気がないからさいきょーだよねー☆」


 遠い目で恐ろしいことを言うシオン。ちなみに、やつの専攻はクラフターである。

 カナタはちょっとひきつり笑っている。おれはツッコミ風のフォローを入れておいた。

 仲間のミスを利用するようでなんだが、これで少し、勇気を取り戻してもらいたいものだ。

 今日のお茶会は、その目的もあった。

 それをわかっているのかいないのか、ソウヤも無邪気に話し出す。


「まあでもアレっスよね、できるようになってくると意外と楽しいんスよね、掃除も洗濯も!

 アップルさんやパインさんに優しい笑顔でこれ手伝ってくださいませ、あれお願いしますわね、って言われるとやっぱこう、ウキウキするものあるし……」

「うん、わかる」

「それはあるね」

「なんかこう、たまーにこのまんまでもいいかなーって思えちゃったりする瞬間があったりして……

 いやーもーヤバかったっス!! メイド(♂)とか笑えませんっスもん!」

「似合うんじゃねソーやん?」

「うんうん、悪くないと思うよ?」

「せめてフットマンにしてええ!!

 ってちがーう、俺はカナタさんみたいなクラフターになるのー!! クールでスタイリッシュな『たたかうクラフター』!!

 っで、単騎でももっとガンガンいけるようになって、学園闘技場で成り上がるっス!!」

「おおー」

「おおー」


 パチパチパチ。ソウヤが立ち上がり、ポーズを決めると、周りからも拍手が起こった。


「でもさ、なんかへんだよね。

 学園メイドやシティメイドって、みんなすごいじゃん。

 おれにできないような、すごい力仕事も、細かくて繊細な仕事も、みんなみんなできるわけだよね。それでて、ばてて居眠りとか聞かないし。

 なのに最下層ってなんなんだろ。彼女たちのしてる仕事が『雑務』って、なんなんだろ。

 おれにはどうにも納得いかないんだ。

 ……あ、ごめんね、突然変なほうに話もってっちゃって」


 しかしカナタの言葉で、その場はしん、としてしまった。

 しかたない。ここはおれが燃料を投下するしか。


「なるほど~、カナぴょんはブルーベリーちゃんに惚れたか~」

「ちっちがっ!! そそそんなことないよ?!」

「あー。カナタさんはそっちかやっぱりー」

「わかるっス!! わかるっスよカナタさん!!」

「アップルさんとブルーベリーさんどっちかだと思ってたけど、やっぱりだったね……うん、今日からライバルだねカナタさん?」

「ええっ、いやっだからちがっ……」


 その場はそのままわやくちゃになったが、今日はこのへんでいいだろう。

 結果として逆転ホーマーをぶっぱなしてくれたとはいえ、『相棒マッチによるラビットハント』をやられたショックは、本人たちが思うより大きく深く、脱却には時間がかかる。


 僕がハヤトにわけのわからないいちゃもんをつけ、コミックショーのネタにするのも……

 それがわかっていながら、ハヤトがそれを受けてくれるのも。

 ひとつには、そこからのリハビリという目的があってのことだ。

 たぶんハヤトは、無意識なんだろうけれど。




 ――昨日、カナタは言っていたのだ。


『いや、実はさ……

 こないだのこと。

 おれ、掃除洗濯もクラフトも大好きで、ついついはりきりすぎて、迷惑かけたんだよね。

 先生たちにも、イツカにもすっごく。

 おれ、確かに情報特化だけど、実はけっこうバカだったってことに気が付いたんだ。

 イツカのほうが、ずっとずっと頭いい。

 イツカのプランで、掃除とかの分担も変えたし……そしたら余裕なんだよね。なんでもうまくいくんだよね。だから、そのほうがいいかなーって。

 ほら、おれたちミライ見つけなきゃじゃん? ソナタの手術費用も稼がなくっちゃ。

 そのためには、少しでも効率がいいほうに、てさ。

 だからべつに、そういうんじゃないよ。安心して、おれたちは大丈夫だから』


 カナタは強く賢く、誇り高い男だ。

 僕はイツカに『兜の呪い』を打ち砕くきっかけを与えたが、もしイツカが失敗していても、独力でやり遂げていただろう。

 なのにそのカナタが、いまやすっかり、騎士に甘えるお姫様のようになっている。

 そしてイツカも、そんなカナタに甘えられることで安心を得ている。


 このままだと、あの二人はまとめてダメになってしまう。

 奴らがそれを狙ったとおりに。


 僕の世代で終わらせなければならない。

 これ以上、『イケニエのウサギ』を出さないために。

 そのためには、黙示録の赤い竜に、これ以上の鎖をかけさせるわけにはいかない。

 だから僕は動くのだ。


 ……まあ、ふたりが友達だからという理由も、ないわけではないんだけれど。

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