41-2 開幕、決勝戦
2020.11.11
やらかしてました……m(__)m
『バニティ=フェア』→『バニティ・フェア』
色欲→色欲
『頼む。救ってやって、あいつを』そう告げる声は苦し気で。
それでも綺麗な紅い目は、おれたちを信じて輝いていた。
ミツルはアオバとともに、控え室まえでおれたちを待ち受けていた。
その後ろには、とても入りきれない数の仲間たち。
『がんばって!』『決めてけよ!』『二人ならやれるから!!』
そんなエールのひとつひとつを心に抱いて、おれたちは最後の打ち合わせへ。
控室で待っていたのは、ここまで頼りとしてきた軍師たちと、小洒落た緑の狐だった。
行われたのはほぼ確認事項のみ。
『ソアー』の挑戦から10分後、おれたちは彼とフィールドで向かい合っていた。
待ちきれないといった様子でさっそく言葉のジャブ。おれは笑顔で受け流す。
「よう。覚悟は済んだか、カワイコちゃんたち?」
「きみの身請けを引き受けて馬車馬みたく働く覚悟?
残念だけど、おれたちの目標はΩ制廃止。おれたちの所有物には、なりたくってもなれないからね?」
「笑わせてくれるぜ」
『ソアー』は、にやり。
整った口もとの笑みをどう猛に深めて、黒のクロークを脱ぎ捨てた。
顔の上半分を覆うシンプルな白のマスクと、白い軽武装。
かすかに金色を帯びたしろがねの髪と、黒の縁取りをかすかに宿す、真っ白な翼が照明のもとにさらされる。
天使もかくやの輝かしい姿に、会場はため息にあふれた。
一気に好意的になった視線の中、『天使』が腰に佩いた剣を抜けば、これまたまばゆく光をはじく。
ほんのかすかに青く発光する刀身は、透き通るようにもみえた。
「神器『アクエリアス』。名前の通り、水の剣だ。
ひとつ忠告しといてやるが、うっかりつばぜり合いなんざしようとしたらスパーン! だからな。
ま、この程度はウサプリ様にゃお見通しだろうがよ」
口調は粗暴。だが、だからこそ際立つ声の透明感。
それは、一年前のあの試合の動画より、ますます増していた。
だからおれはまったく自然に、このことを口にしていた。
「ご忠告ありがとう。
それじゃあおれも、ひとつお礼をしなくちゃね。
おれたちの手の内はとっくに解析・対策済みだよね。それじゃ、この後のことにしよう。
この戦いが終わったら、おれたちがいつもお世話になってる歌の先生紹介するよ。
君の声はきれいだから、歌を歌うときっといいよ」
『ソアー』はしばし、ポカンとしていたようだった。
たっぷり2秒間の沈黙ののち、あざける調子で返してきた。
「………… ハッ。
そんなに聞きたきゃ聞かせてやるよ。オレ様の子守歌。
もっともそれまで意識があればのハナシだがなァ!」
ブン、と水の剣を差し向けてきた『天使』は、笑いを含んで高らかに言い放つ。
「とっとと来いや、モフモフども!
オレがいいっつうまで降参とかは聞かねえからなッ!!」
「俺たちのほうはいつでもいいぜ?
降参したくなったらいつでも言えよな?」
対してイツカは的確に威圧を切り返す。
いや、切り返してるって意識があるのかはわからない。大画面に映るやつは、いつものニカッとした笑顔。口調も声もカラッと明るい。
けれど、やつもまた、スパッと抜刀。
ブルーのラインの走る刀身を解き放った。
おれもあわせて、左のホルスターから魔擲弾銃『サツキ』を抜いて頭上に掲げる。
「煽ってくれるなァオイ。
せいぜい楽しませろよてめェら!!」
「お互いになっ!」
『ソアー』が牙をむき、イツカが不敵に笑い返す。
ちょうどそのとき、ゴングが鳴った。
「『フラッシュフット』!」
「『短距離超猫走』!!」
前衛二人、まずは互いに距離を詰めつつ脚力強化だ。
イツカはいつもの『短距離超猫走』、『ソアー』は地下闘技場でレイジが使っていた『フラッシュフット』。
そうして合わせたはずの刀身は、するり、音もなくすり抜ける。
もちろんイツカもわかっている。斬られぬように身をかわしつつ、一連の動きで『ソアー』に一撃を試みる。
対して『ソアー』もギリギリ身をかわし、イツカへの側面攻撃を狙った。
おれも『超跳躍』で機動力アップ。後衛らしく距離を置きつつ、右手でイツカに超強化のポーションを投げる。
左手ではけん制を兼ねて『サツキ』を連射。
『瞬即装填』で装填したボムは、フラッシュ……ではなく、アイスである。
まえの試合でおれは、『Snowy Blue』に閃光を見舞った。
レイジはこれを防ぐため、『アクエリアス』を変形。水鏡を形成して逆におれたちの目をくらまそうとしてくるはずだ。
おれはさらにそこをつき、『アクエリアス』を形成する水を凍らせてしまおうと――刀身が自在に変形するというアドバンテージを、多少なりともそいでしまおうと試みたのだ。
しかし『ソアー』もそこは考えていたよう。水鏡の形成は行わず、イツカがおれとの間に入るように立ち回るのみ。
そうしつつ、3Sたちを憑依させ、スキルを発動させはじめた。
「ハッ、さすがにそいつにゃ引っかからねえよ。
セット、虚飾、嫉妬。発動『バニティ・フェア』『影からの凝視』」
まずは『バニティ・フェア』で能力の強制エクステンドを。
ついで『影からの凝視』で感覚強化・弱点看破・ラックダウンをしかけてきた。
仮面越しに見えていた金の瞳が、鋭い蛍光緑に染まる。
まあ、軽くやられた程度ではさして怖くない。そのために対策を積み重ねているのだから。
果たして『ソアー』は舌打ちした。
「チッ、なんだこいつは。ガンッガンに属性防御デバフ防御と固めてやがって。
しかもあれもこれも神器尽くしとか、全身ブランド野郎かよ!」
「おう、全身カナタブランドだぜっ! うさねこぶぐかいプレゼンツ!!
いーだろいーだろー!」
「ちょ……ま、まあいいか……」
全身ブランドルックに対する評価はいろいろあるが、ソアーはそれを利用してディスって来、逆にイツカは満面の笑みで自慢してくれた。
これは、うれしいけどちょっと恥ずかしい。だけどまあ、それよりはすこしうれしくて……ひとことで言えば照れ臭い。
そんなわけでツッコミをキャンセルすれば、観客席からひゅーひゅーと冷やかしが飛んできた。くそ、またこのパターンか。とりあえずそこでいやーあっついあっついとか言ってる『武具開発チーム』メンバーどもは、後でまとめておしおき決定である。
「…………とりあえず爆発しろてめえら」
そのとたん『ソアー』の背で、ぶわりと膨れ上がるどす黒いオーラ。
再びラックダウンが襲い掛かってきた。
すでに瘴気と言っていいレベルの呪わしさが渦巻くそれに、今度こそ俺たちは能動的に対策を取らざるを得なかった。
「『幸運のかぎしっぽ』!」
「『アナウサギの後ろ足』!」
ふり、とふられたイツカのしっぽで、千年樹の琥珀の『狩人のお守り』が輝いた。
同時に、胸元のモフリキッドアーマーの真っ黒な毛並みに、コインくらいの白いわっかが輝く。黒猫装備専用の幸運エフェクト、エンジェルマークだ。
一方おれのつま先には、四葉のクローバーのエフェクトが。
こちらには地属性強化の追加効果があるので、森を操るおれには一石二鳥だ。
「なんだなんだおめかしかァモフモフ野郎ども! そーゆーのはいーんだよ!
反撃しろよ抵抗しろよ、そうじゃなくっちゃおいしくねェだろッ!
セット、色欲。発動『ヘイズ=ルーン』。
知ってるよなァ、こいつの効果。
ダメージを『与えた』ときだけじゃなく、『受けた』ときにもBPがゲットできるんだぜ。
さらにー、嫉妬のチカラでBP獲得にボーナスついてるし!
これで大技かまし放題! 『ブラッドサッカー』使えばHPだって回復できる!
ははっ、これでオレさまは無敵だァ!
お前らの攻撃、ぜーんぶおいしく食らってやンよ!!
セット、憤怒。いっくぜ――!!」
ハイになった『ソアー』は、自らコンボ効果とその利点をまくしたてる。
さらには勢いのままにレイジを憑依させ、攻撃力を爆上げ。イツカに連撃をしかけてきたのだった。
コンボまで何とか入れた!
次回、3Sのチカラを使った『永久機関コンボ』を破れるのか? お楽しみに!




