Bonus Track_41-1 翔べない鳥のひとりごと~『ソアー』の場合~
返す返す思う。オレは、バカなガキだったと。
ほんとうに割のいいバイトなんて、そうそう転がっているわけがない。
あったとしても、TP不足=能力不足でぴーぴー言ってる、底辺学生ごときに持ち掛けられるわけがない。
それでも、オレはのってしまった。
イザヤとユウを巻き込んで。
ミツルはその辺しっかりしたやつだった。
あいつと、正面から向き合っていれば。あいつをハブるなんてことせずに、ちゃんと話してさえいれば。きっとそんなことにはならなかったのだ。
けれどもう、オレは歪んでいた。
抜け駆けして手に入れた力とTPでマウントを取るために、バディをハブって『新薬臨床試験』のバイトに行った。
『嫉妬』の欠片を――力とひきかえに狂気を与える悪魔のウイルスプログラムを、それと感づきながら、喜んで受け入れた。
そうしてしまいには、イザヤとユウさえだまくらかして、ミツルを思うままにしようとしてしまっていた。
たかが一ツ星の自分にうぬぼれず、ミツルの話を、ちゃんと聞いていれば。
いつも善意だったあいつの手を、離していなければ。
オレはいま、こんなところに立ってなかった。
きっといまごろは、すくなくとも二ツ星にはなって、ミツルとイザヤとユウ、四人で笑いあっていたはずだった。
けれど今オレは、3Sの安定多重憑依を可能にした『新型兵器』として、ここに立っている。
この月萌の国民的アイドルバトラー・イツカとカナタを――
ふたりのかかげた大きな夢を、叩き潰すための悪役として。
月萌中枢部、国立工廠つき研究所セントラルラボの奥深く。
所長の知らない一室に、オレの本体は移されている。
オレのログインカプセルのすぐ横には、3Sたちの本体がとらわれている。
やつらは理事長代理の命令で、オレに憑依、もしくはチカラを提供することになっている。
まずは『嫉妬』。ついで『色欲』。
そして、『虚飾』、『強欲』、『憤怒』。
憑依のプライオリティは、イツカとカナタの装備より上。
つまりふたりは、さっきの戦いでも大いに頼りにしていた切り札を奪われて、予定外のバトルを戦わされる羽目になる。
このことを知った者たちの声で、会場が湧きたった。
ふざけんな。気の利いた余興だね。
いらないわ。きっと二人はやってくれるよ。
けれど、その中の何人が分かっているだろうか。
この戦いに負けたらオレは、廃棄処分。
失敗作の戦人形として、二度と日の目を見ることはないということを。
オレは言われている。そのことをあかしても構わないと。
けれどオレは、言わないことに決めた。
だって、勝つのはオレだ。
オレは、決めたのだ。
死んだら終わり。もう二度とミツルとは会えない。
そのくらいなら、大きな夢をつぶしてでも生き残ろうと。
オレは選んだのだ。自分の命としあわせを。
月萌の全国民に後ろ指をさされても、オレは生きる。
そして、ミツルのもとにいく。
ミツルはきっとわかってくれる。
ミツルさえいればそれでいい。
新しい人生はミツルのためだけに。そう、オレは決めていたのだから。
顔を上げ、ミツルのほうを見れば、ミツルもオレをじっと見つめていた。
胸が痛くなるほどの、きれいな紅い、紅い瞳で。
今回切ないモノローグ。ここまでお読みの方には彼の正体を察していただけるかと存じます(いただけるといいな!!(;゜Д゜))
ですが、次回はちょっとガラ悪く頑張ります。
月萌杯特設会場での風雲急を告げる一幕! どうぞ、お楽しみに♪




