40-8 まさかの、決勝戦決定
m(__)m遅れ申した……!!
『困ったときは、お祈りなさい。
あなたがたの心からの祈りに、女神は応えることでしょう。
この国のすべての者を、つねに見守っておりますよ』
おれたちはみな、このことばを聞いている。
月萌国に住まうすべての者は、出生、もしくは存在が明らかとなったとき、純国産VRMMO『Tear and Blood Online』――『ティアブラ』のアカウントを付与される。
子供ならば物心つき、会話も可能となったころに、箱庭世界『ミッドガルド』をのぞき見る。
五歳の年、善意の保護者の監督の下で携帯用端末に触れた子供は、女神ティアラの御前でアバターメイキングを行う。
メイキングがすべて終わったとき、女神は優しくこう言って、新たに姿を得し申し子にそっと触れる。
思えばそのとき、おれたちはみな女神から明かされていたのだ。
女神は、その『ナカノヒト』は、月萌国民と直接に話ができるのであると。
一般的には、このメッセージはGMコール――あくまでゲームの中限定の、運営へのヘルプコールの存在を示唆したものだと言われているが、ほんとうはそんなものではない。
なぜって、『ミッドガルド』は『国』じゃないのだから。
* * * * *
嘘だろう。どうなってるんだ。当惑に満ちたざわめきが会場を包んだ。
そう、ここで流れるアナウンスは、優勝者を知らせるものであるはずなのだ。
「さてと、これはどういうことかな?」
「さあねー?」
ミソラ先生がいつものちょっぴり不敵な笑みで言えば、アカネさんはその首にぎゅーっと腕を回しつつニコニコ。
一方でトウヤさんは、ノゾミ先生に肩を貸しつつ、仲良く文句を言い合っている。
「おいノゾミ、お前なんで俺のとき『レギンレイヴ』やってこなかった」
「お前が『墜華月閃』やってこないからだろうが」
「俺を相手に出し惜しみとはいい度胸だな」
「その言葉そっくり返すぞトウヤ」
「……やるか?」
「面白い。何ならこの場で」
その一方で、焦り含みの怒声も聞こえた。
VIP席でこぶしを振り上げているスーツ姿は、『赤龍管理派』の理事たち――ただしレインさんを除く――だ。
「おい、黒服! なにやってる、なぜそいつらを引っ立てない!!」
「『月萌杯』で敗北した挑戦者は、全てΩの身分となる定めだろう!!」
しかし、入出場ゲート付近でスタンバイしていた黒服たちに、動く様子はない。
大型モニターのなか、どこか笑っているような顔で答えるのはタカヤさんだ。
「ミソラ・ハヅキ学長とノゾミ・アリサカ教諭についてはすでに『身請け』と『身分回復』の手続きがなされてますぜ?」
黒いスーツの懐から取り出した携帯用端末には、すでにその旨を示した履歴画面。
二人は確かに敗北の瞬間Ω落ちしている。
しかしその瞬間、最優先の契約が発動、身分を買い戻されている。
「やつらの身請け金は天文学的数字だぞ! それを一瞬で支払えるものなどそれこそ!!」
「はーい、国・家・権・力でーす☆」
対してニコニコ手を振ったのはピンクのねこみみ国家権力、もといアカネさんだった。
そのとなり、まっすぐに立ったミソラ先生が、VIP席をまっすぐ見つめた。
「わたしたちはね、10年前の衛星落下事件の時から決めていたんだ。こうしようってね。そして、『マザー』に話を通したんだよ」
いつものきらきら輝く瞳で、すこしだけ不敵な自信に満ちた笑みで、堂々と種明かしを行う。
「『マザー』はうなずいてくれた。そしてわたしたちは、まだ学生だったそのときから、こつこつと積み立てをしていたんだ。
イツカ、カナタ、ミライに枷をつけることに事実上失敗してから、高天原入学年齢を12歳に引き下げ、『月萌杯』開催に乗じようとしていたひとたちとは年季が違う。
ツメを研いでいたんだよ、わたしたちは。あの日からずっと、ずっとね」
そのときすでに彼女のもとには、『元』を含むエクセリオンたちが全員集結していた。
『聖なる爆弾屋』アカネ・フリージア。
『幻影紳士』エルカ・タマモ。
『時空を泳ぐ人魚姫』オルカ・フジノ。
『今世紀最大最強のアイドル』レモン・ソレイユ。
『白鳥姫』ライム・ソレイユ。
そして、身請け人筆頭にしてエクセリオン首座、『月閃』トウヤ・シロガネ。
観客席では、マイロ先生やシルヴァン先生、サツキさんやセイメイさんたちをはじめとした『反赤龍管理派』たちも賛意を示し立っている。
だが、理事のひとりはなお食い下がる。
「て……適当なことを言うなっ。
たかが一学生の身分にすぎぬものが、どうやって『マザー』に話を通したと?」
ミソラ先生の答えはこうだった。
「なるほど、あなたは忘れてしまったんだね。
五歳の時、ティアブラのキャラメイキングをしたときに。
女神ティアラから、言われなかったかな。
『この国のすべての者を、女神は見守っている』って。
それは単なるフレーバーテキストでも、GMコールの存在を婉曲的に言ったものでもない。
たとえ小さな子供でも、心から祈り、語り掛ければ、女神と直接二人きりで話をすることができるんだ。
この国に住まい、『ティアブラ』のアカウントを持つものはすべて、ね」
悔しそうに沈黙した彼だったが、余裕の調子で響いてきたのは聞き覚えのある声。
「まあまあ、皆様方。まだ月萌杯は半ばです。
これはあくまで『第三試合』。あらたなエクセリオンを迎えての決勝戦が、我々には残っておりますゆえ。
現エクセリオンの数は三名。しかしここに新たな一人を加えれば、レモン・ソレイユがバディ戦に出場することも可能となるのですからな!」
大型モニターに映し出されたのは、『マザー』のそば近くに立つ理事長代理リュウジ・タカシロ。
そしてその隣に立つ、彼の息子にして傀儡の、レイン・クルーガー・タカシロ。
レインさんの手がそっとおかれているのは、黒いクロークと白い仮面を身に着けた少年の肩。
「皆様、紹介しましょう。
かれこそ、新たなエクセリオン。
仮の名前を『ソアー』――天翔けるものと申します」
リュウジ氏が言えば少年の背で、見覚えのある白の翼が大きく広がる。
背の高い、線の細い、見覚えある姿の少年は、うつむいたまま立ち尽くしていた。
ようやくここまでやってきたー!
次回、新章突入。
謎の少年エクセリオン『ソアー』の正体と、そのチカラについて語られる予定です!
どうぞ、お楽しみに!




