40-7 『第三試合』勝者、『0-Gけもみみブラザーズ』
冷たい闇の刃が通り過ぎ、ぶわり。無数の葉が散らされる。
細い枝たちがいくつも折れ飛ぶ。
ばきばきと、音を立てて。
けれど森は、持ちこたえた。
森を守護する、黒猫の騎士のおかげで。
はらり。はらり。
白い花びらが振り落ちた。
黒の髪に。猫の耳に。
ありがとうとでも言うように。
窮地を救われた妖精の姫が、感謝のキスをするように。
とたん、イツカの『力』が膨れ上がる。
黒髪すらもなおつやつやと。
その頭上に、あしもとに、咲き誇る花、花、花。
これはほかにはない、まぼろしの花だ。
イツカだけに力を与えるために、おれが創りだしたもの。
そう、何とか完成してくれたのだ。狩りをする黒猫のための箱庭が。
「イツカ、すこしだけ留守番お願い。
おれは『銀河姫』を止めてくる!」
おれは黒の狩衣ふう姿となったやつにそう言い残して地を蹴った。
高く高く宙に跳びつつ、発動、『玉兎抱翼』。
おれの服が白の狩衣ふうに変わると同時に、ひざまで垂れた水色の兎耳も、身の丈を超える白の耳翼に。
ばさりと大きくはばたけば、おれの体は一気に加速。フィールド上空を旋回する『銀河姫』に迫る。
彼女は梢から飛び出すおれの姿を認めるとすぐ、巡航飛行から高速飛行に移行した。
けれど、残念なことがふたつ。
フクロウの飛行速度は、そもそもそこまで突出したものではない。
さきほど一度、神聖強化をかけていたから100kmは超えているが、その速度はおれも出せる。
おれのなかにはいま、ナツキがいるのだ。
すでにパワーの制御を身に着けたナツキは、必要充分なブーストだけをおれにもたらしてくれる。
そしてもうひとつ残念なことは、ここが屋内だということ。
煙薬をどんどん焚いていけば、天井にたまりゆく煙が徐々に彼女の移動範囲を狭めていく。
おれは各種の煙霧薬弾をマジックポーチからつかみ出し、ばらばらとばらまきながら、逃げる彼女を追いかけた。
「『サクリファイ・フルブレッシング』!」
それでも空のプリンセスは粘りを見せる。
『オウルクロウ』を利用しての高速降下を駆使しておれを振り切り、果たすべき役目を果たす。
『森の感覚』でとらえた戦況は、再び『青嵐公』に傾き始めた。
けん制を兼ねて『銀河姫』にメガボムによる連射を見舞ったが、S級プリーストの強固な神聖防壁は平然とそれをしのぎ切る。
これは、新型テラフレアボム<比翼>でも抜けるか怪しく思えてきた。
白っぽい硬質な輝きの向こう、シロフクロウの姫はちょっぴり不敵に笑う。
「いいの、カナタ?
森の王さまがこんなに森を離れてしまって。
にゃんこの騎士さま、きつねの大魔王に食べられちゃうよ?」
「おれはやつに頼みました。留守をお願いと。
約束したんです。あなたを止めてくるって。
それがおめおめ逃げ帰ったら、ただの男として恥ずかしいですよ」
おれも笑い返す。
こうして話している間も、歌によるTP回復効果は継続していた。しかし、『サクリファイ・フルブレッシング』は放たれていない。
これだって、立派な『止め方』だ。
もちろん『銀河姫』がそれに気づいていないわけもない。
わかったうえでの行動だ――格下のおれたちに、ハンデを与えるという。
けれどそうしてすこしだけ戦況が凪いだことで、おれはひらめいた。
おれの目の前にはすでに、ものすごく大きな攻撃手段があったということに。
プラチナムーンの能力をフルに使い、必要な効果範囲と、それをカバーするのに必要な陣の大きさ、そしてそこに描きこむべき文様を算出した。大丈夫、やれる。
そうと決まれば即実行だ。『サツキ』『ウヅキ』に『瞬即装填』。錬成陣発動用の『チカラ』を封じた『エナジーオーブ』を装弾する。
眼下の森の梢を部分的に紅葉させた。
大丈夫、錬成陣に必要なのは図形の正確さ。何で描いてあるかは関係ない。
おれがさきほどしたように、地面の砂に足で描いても。
ソーヤの初舞台の時のように、炎のリボンで描いても。
最悪、以前試したように、イメージだってかまわないのだ。
それは『決められたパターンに、『力』を流す』ためのガイドにすぎない。
ティアブラシステム内の全オブジェクトがまとうPEFに対し、特殊な方法で表面換装をかけるための『手順書』なのだ。
いま、おれが描いたのは退魔円陣。
魔法を選択的に阻害する空間を生み出す陣だ。
この陣は高度なもので、活性化のためにパワーを流し込むポイントが五つある。
おれは最初の四つに『サツキ』『ウヅキ』から『エナジーオーブ』を打ち込み、最後の一つにはみずから着地し、地に触れた足から力を流した。
間一髪、おれの耳翼を『銀河姫』の『オウルクロウ』がかすめたが、陣は完成。
『銀河姫』のまとう守りの壁、『青嵐公』にかけられた聖なる輝きは、ひなたのアイスのようにとろけていく。
それでも、二人は笑顔のままだ。
「あーあ、気づかれちゃったね、ノゾミ?」
「下がっていろミソラ。
お前に傷なんかつけられたら、俺の自制が吹き飛んじまう」
「りょうかーい。
無力化されたかわいそうな小鳥ちゃんは、おとなしく応援歌でも歌ってるよ!」
ひとつには、『銀河姫』にはまだ、『オウルクロウ』という自衛手段、『歌』という応援手段が残っているためでもあり……
「仕掛けてこい、二人とも。
ミソラの力なら、この退魔円陣は一分で破れる。
そうなれば、おまえたちに勝機はない。もっとも――」
そう、いまひとつには。
「その前に俺の剣で仕留められなければの話だがな。
発動。『レギンレイヴ』」
『青嵐公』にはまだ、第二覚醒が残っているためだ。
正眼に愛刀を構え、おれたちをにらんだかと思うと青白い、神々しい輝きに身を包む。
青キュウビの大魔王は一等星の輝きをまとい、晴れて大魔神にクラスチェンジしたのであった。
『青嵐公』は変身シーンが終わるのももどかしく斬りかかってくる。
おれは強化のポーションをまとめて10本、両手でぶん投げる。
ポーションがイツカの背に着弾するより前に、銘刀『青嵐』はイツカブレードに食らいついていた。
刀での斬撃というより、バットで殴りかかるかのごとき荒々しい打撃はしかし、『青嵐』をつつむ青白いオーラによって、斬撃と打撃の両属性をもった攻撃として襲い掛かる。
とっさにグリードが、ため込んでいた『力』を放出してしのいだ。
『青嵐公』が不敵に笑う。
「いい判断だぞ、グリード。
お前に食える攻撃じゃない。
おとなしく<比翼>を出してこい。さもないと無理やり食わせるぞ」
『『待て』ぐらい躾けられて来いや野良ギツネ。
オイ、ヤッていいんだな、カナタ?』
グリードはガラの悪さを全開にして対抗しつつ、おれに確認を取る。
おれはもちろん森を解除し、全力で距離を取りつつこたえた。
「いいよ、どーんとやっちゃって。
あ、とりあえず安全な距離はとってね? 黒騎士が黒焦げ騎士になっちゃうから」
「ちょおおお?!」
『あったぼーよォッ。
バニティ!』
『『レッツパーリィ』!!』
「にゃああああっ?!」
その時はじまったのは、予想もしていなかった連携攻撃だ。
グリードは即座に<比翼>三対を自分の中から引き出すと、バニティに呼び掛けた。
バニティはイツカの声をまねて<比翼>を点火。
イツカの背中のレイジが『勝手に』仕事をし、やつをとりあえず安全な場所……つまり、おれのもとまで飛ばしてきた。
「ちょ、えええええっ?!」
イツカのちょっと間抜けな叫びとともに、起きた地獄の大爆発。
おれはイツカにはっぱをかける。
「チャンスだよイツカ! ここで仕留めよう!」
「え、あ、おう!!」
おれたちは二人で宙へ。
イツカの足裏を蹴ると同時に、ナツキがイツカに乗り移る。
まっ逆さに跳んでいく足裏に『斥力のオーブ』を打ち込み。
「いけっイツカ――!!」
「しゃああ!! 届け――!!」
「『0-G+』!!」
おれもイツカと声を合わせて叫んでいた。
灼熱の火の玉が内側からはじけ飛んだあとには、あちらこちら焦げて、ボロボロになった剣士が二人。
さきに声を上げたのは、『青嵐公』だ。
「届いたぞ、おまえたち。
俺たちの心が認めた。お前たちの、お前たちを支える者たちの勝利だと」
そのうしろ、『銀河姫』も優しい目で微笑む。
イツカは、肩で息をするばかり。
「おい、まだ落ちないでくれ。勝者はそっちなんだぞ。
俺は大人だからなんとか必死こいて意地張ってるだけで……」
「よーしそれじゃあ、えいっ」
すると『銀河姫』、なんといい笑顔でひざカックンを仕掛けた。
バランスを崩した『青嵐公』をふわりとうけとめ、やさしくひざまくらでヒーリング。
うう、これはずるい。勝ちといわれたが完敗だ。
イツカが泣きそうな目でこっちを見てきたので、とりあえずイツカをうさみみロールにした瞬間、高らかにゴングが鳴り、湧き上がる歓声。
しかしそれらは、響いてきたアナウンスにより鎮火した。
――『第三試合』勝者、『0-Gけもみみブラザーズ』、という。
どうにも土日は時間がうまく取れません……。
ともあれVSスノブル、やっと決着です。
次回、まさかの事態が明らかに!
どうぞ、お楽しみに!




