40-5 剣士対剣士? 師弟なんでもあり対決!
所用で少々遅れました!
2020.11.05
ルビのかぶっている部分とその前後を少し直しました。
一旦腕甲に吸収、→一旦、腕甲に吸収。
ドッ! とばかりに押し寄せる圧。
微笑んだ顔も、力の抜けた立ち姿も、ゆるりと揺れる九本の尻尾もまったくそのままに。
もはや物理的特性すら有してそうなそれに、しかしおれたちは立ち向かう。
というかイツカのやつめは上機嫌にしっぽと親指を立てている。
場内大型モニターに映る顔はそして、いつものようにニカッと笑顔。
「で、降参する気はあるか?」
「へっへー。挑発成功っ!
そうでなくっちゃ。全力で行くからな、センセ!」
「……ったく。
本当にガチでいいのか? 第一戦は見ていただろう?」
向けてくるプレッシャーをそのままに、目元を和らげる『青嵐公』。なんというのか、器用すぎる。
「トーゼン!
じゃなかったら盛り下がるだろ?
トウヤとやって疲れてるかもだけどさ、もう一回おかわりで! なっ!」
うん、こいつ、阿呆だ。
じゃなかったら、戦闘バカだ。
せっかく、ここまでお膳立てをしてもらったというのに――『ある程度疲弊し、手の内もわかっており、情もかけてもらえる相手とのハンデ戦』というやつを。
でも、こいつはそれでも笑って勝ってくれそうな気がした。
だからおれは笑って言った。
「イツカ、そのまま突撃する気?
ほら、首かして。封印解除するよ!」
「おう!」
イツカが俺の前にまっすぐ立つ。
おれは左中指にはめた指輪の三日月飾りを、イツカのチョーカーの三日月型のくぼみに差し込む。
するとあふれるまばゆい光。ふたりで声を合わせ唱えた。
「『われらが神器よ、秘められし力を解放せよ! 解呪!!』」
これはあくまで『おれたちが神器のパワーで『ソードマスター』『プラチナムーン』の力を一時的に発揮するようになってますよ』というフェイクのためだが、それも、今日で最後。
『月萌杯』を制してしまえば、イツカは晴れて『マザー』の直属となる。もちろん世話役のおれもセットでだ。
それを研究所に拉致できる権力など、この月萌には存在しない。
もっとも、エルカさんも研究所の長として、着々と所内の掌握を進めているという。
シオンをはじめとした何人かのクラフターたちも、エルカさんの肝いりでのスカウトを受けているし、むしろ自由意思で研究に協力することになりそうだったが。
ともあれ光が引いて、チョーカーと指輪がインベントリに収まれば、もう遠慮はいらない。
イツカの抜刀と同時に、刀身のブルーラインはきらきらと光を放ち――
おれの頭上には、けむるプラチナの月がのぼる。
『銀河姫』がぽーんと竪琴をつま弾き、『青嵐公』も抜刀。
ふたつの鋼が交わる。ゴングが鳴った。
おれもミソラさんも、最初からいきなり補助魔法や強化ポーションを放り込んだりはしない。
ここに詰めかけた観客たちも、それを求めている。
まずはしばし、この世話のかかる剣士たちを二人で遊ばせてやることにした。
真正面からの斬りあいとなれば、間違いなくこちらが不利だ。
『青嵐公』はいまだ、明らかに格上。
けれどそれをひっくり返せるのがクラフトだ。少なくともおれはそう、信じている。
今だってイツカは、ふたつのクラフト――背中の制御翼と左腕の腕甲を駆使して、変幻自在の動きを見せている。
『青嵐公』が打ち込んで来た『力』を一旦、腕甲に吸収。剣撃に上乗せしたかと思うと、背中の制御翼や足元、ときにはおなかやおでこから放って移動に攻撃。
ときおり『パワー・ドレイン』でその『力』を奪われてたたらを踏んだりもするが、驚くべき反射神経で追撃をいなしてしまう。
「本当にお前は何でもやってくるな!」
「アザッス!!」
『青嵐公』の声音が楽し気に弾む。イツカは嬉し気にニコニコだ。
「だったら俺もやってやるか!」
『青嵐公』はというと、イツカとは逆に、『パワー・ドレイン』を剣激に乗せて対抗しだした。
イツカが打ち込んでくれば、その場の重力を奪って軽く後方に跳ねとび、光を吸い込んで作り出した小さな闇をぶつけて目をくらませ、ともはやなんでもアリである。
「あっ!
わかった!『ナイトライド』って! そうやって編み出したん、だっ!」
「よく、わかった、な!」
「なんだよセンセも! なんでもありじゃん!」
「そりゃあ、な!」
対して、腕甲に宿るグリードも奮闘する。
適宜『スキンフリント』でキャンセルをかけ、時には逆に『パワー・ドレイン』そのものを吸収して無効化という、トンデモまで披露してきた。
できなくはないとは言っていた。星龍戦で『豊穣の角』を丸呑みした時もそうだったし。
そのチカラもすごいが、彼は頭も切れる。適宜そのスキルを使いわけ、的確にイツカをサポートしている。
正直、グリードと戦うことにならなくてよかった、と思わざるを得ない。
と、そろそろいいころあいか。おれとミソラ先生は以心伝心、のんびり声をかけあった。
「あーあ。二人はなんかラブラブだし、わたしたちはさびしく必殺技合戦でもしよっか~」
「そうですね~」
「ちょっとまてミソラ! ラブラブじゃないからな! これはあくまでっ」
「まってカナタ!! おまえの無差別攻撃やばいからまって――!!」
なんぞといいつつ離れる気配のない二人に、おれはとりあえずスモーク・ボムを斉射。
煙が晴れれば案の定、『青嵐公』はおれの後ろに。
しかしその鋭い一撃は、すでに先回りしていたイツカによってがっちり防がれるのであった。
次回は満を持して、ミソラ先生とカナタのやりたい放題……もとい、支援がはじまります。
どうか、お楽しみに!




