Bonus Track_40-4 ショーバトル観戦はすこしの罪悪感とともに~ミツルの場合~(2)
2020.11.03
句読点ヌケを修正いたしました。
歩み降りてきた→歩み降りてきた。
振り上げたアスカの手の上には、漫画のような巨大な爆弾。
火のついた導火線は、着々と短くなっていく。
アオバが俺の袖を引き、青い顔でいう。
「ちょっちょっと待て、アレっやばくないか?!
いつもぶん投げてるギガよりぜんぜんでかいし!!」
「……!!」
おれは言葉もなくアオバの腕につかまるのみ。
いまはボムの小型軽量化も進んでいる。あれの威力もたぶんハンパなものじゃない。
冗談だろう。『だから』今回はただのショーバトルになったというのに。
しかし当の人魚姫は勇ましかった。
爆殺白兎の凶行を止めるため、両腕に金の刃を装着。
殺る気の勢いに抜刀した狼剣士に、どう猛なほどの勢いで連撃を浴びせかける。
気の弱いものならそれだけで逃げ出す勢いだが、ハヤトは一歩も引かない。
それでも反撃することはなく、ひたすら防戦に徹する。
頭上の狼の耳を折り、切なそうな声音で呼びかけた。
「やめてくれ、オルカさん! その体でっ!
やつは俺が止めるから! だから――」
「ハヤトの言う通りだよ、オル」
するとどうやったのか、二人の間に割って入る緑色。
狐紳士が姫を愛称で呼び、しゃれたしぐさで帽子を直すと、場内モニターには、完璧な角度での完璧なウインクが映し出された。
「まあ任せたまえよ。えいっ」
そしてエルカさんは、手にしたステッキを軽い調子でぶん投げる。
回転しながら飛んで行ったステッキは、ねらいあやまたず導火線の火だけをたたき消す――もちろんボム本体には一切の衝撃を与えることなくして。
弧を描いて戻ってきたステッキを、エルカさんはその場を一歩も動かずキャッチした。
超絶技巧に上がるどよめき。
一方でハヤトはアスカに詰め寄る。
「おい、何やってんだお前。これがどういう舞台かわかってるんだろう?!」
「もちろんわかってるさ。だからやるんだよ」
「やるって何をだ。言ってみろ」
「うん、とりあえず冷静に、おれの『バクダン』みてみよっか?」
「………… んっ?」
ハヤトが『バクダン』をじっと見て、何とも言えない顔になると、アスカはしてやったりと笑った。
「これさぁ、実は『くす玉』なんだよね~。
ハーちゃんのわきをすり抜けたオルカねーさんに剣でスパーンと叩き割ってもらう予定だったんだけどさー、いやーごめんごめん、ちょっちおどかしすぎちゃったね。
ってわけでおふたりさん、思い切りよくいってみよっか?」
「え……えっ??」
キョトンとして『バクダン』とアスカと、エルカさんオルカさんを交互に見るハヤト。
ごめんねーとハヤトに抱き着くアスカ。
そして、くすくすと暖かく笑って、寄り添って歩くエルカさんとオルカさん。
オルカさんの腕から外した黄金の刃を、ケーキナイフのように二人で持って、スパン!
思い切りよく振り下ろすと、はじけた『バクダン』のなかからは、とりどりの花々があふれだした。
同時にエルカさんとオルカさんの衣装にも、たくさんの白いバラが咲く。
「はーいお二人ともー! 衝撃の告白を、どーぞー!!」
アスカに花で飾られたマイクを向けられると、白バラをまとったふたりはちょっぴり照れた様子で笑いあう。
そして、声を合わせた。
「私たち、結婚します!」
……と。
いつしか流れ出した、しっとりとしたBGMをバックに、エルカさんは話しだした。
どこからか取り出したふかふかの椅子に、愛する女性を丁重にかけさせて。
その膝に暖かなブランケットを、肩には自分のマントを、ふわりと優しくかけて。
「もう気付いている人もいたかもしれないけれど……
私たちはお互いを、深く深く、愛していた。
それは、高天原に通うより以前から。
しかし、いまから10年前にそれは起きた。
高天原学園への衛星落下事件。
我々は何者かにより命を絶たれかけ、その黒幕は、いずこかへ逃げ隠れ。
そのとき我々は決意した。その真相を暴こうと。そして、このようなことの二度と起きない、真に平和な月萌を実現しようと。
そのために。エクセリオンとなろう。誰にも負けない、月萌国の最強となろうと。
かくして私たちは、合意のもとに互いの手を離した。
エクセリオンは、恋愛禁止。その規定を満たすために。
10年前の事件の真の黒幕をとらえること。そして理想とした月萌を実現することは、エクセリオンとなり、わたしが国立研究所の長に、オルカが競泳界の星となった今でも、いまだできていない。
時に焦り、もがきながら。ともに支え合い、奮闘してきたこの十年。
気づけば我々には、頼りになる後輩たちがたくさん、たくさんできていた。
未来と夢を託すことができる、強く、優しく、心正しい若者たちだ。
彼らの存在に心癒され、本当に笑えたその時に、わたしたちは気づいた。
いまがそのときだと。
命に限りのある、ひととしての『しあわせ』。
それをつかむ機会は、いましかないと。
『マザー』は、我々の『わがまま』を、お許しくださった。
同僚たちは、エクセリオンとしての我々に、最高のステージを用意してくれた。
実はその。我々はその。
厳密にはすでに、エクセリオンではなく――」
ふいにほほを染め、咳ばらいを連発しだしたエルカさん。
気まずげに視線をさまよわせると、透き通った声が響き渡る。
『何を恥じらう、わが友よ。
今のおまえたちは、エクセリオンよりもはるかに尊きものなのだぞ』
それは『マザー』のものだった。
『――ひとりの、人の親。
この月萌の基礎と未来を支える子らをはぐくみ育てる、とても困難で、とても実り多く、とても素晴らしい任務を得し者たち。
けして私には、真似できぬ。
堂々と、誇ってくれ』
幼い姿をした『女神』は、語りつつ、宙を滑るように歩み降りてきた。
かすかに波打つ水晶色の髪をなびかせ、グラデーションのドレープを重ねた空色のドレスをひるがえして。
その手には、鮮やかな青色のバラの花束。
『私からの手向けだ。花言葉は、知っておろう?』
「ええ、もちろん。
青いバラの花ことばは『奇跡』『神の祝福』。
ありがとうございます、わが主。ほんとうに」
エルカさんは長い脚を折ってひざまずき、『マザー』と目の高さを合わせて花束を受け取った。
オルカさんも立ち上がろうとするが、『マザー』が制した。
『気持ちだけで充分だ。
体を大切にな。むりに重いものなど持ってはいかんぞ。そういうときのために夫はおるのだからな』
「心得ました。私の大切な女神様」
そしてオルカさんも、『マザー』とあたたかな握手を交わす。
『末永く、しあわせにな。
いつでも、いつまでも、見守っているぞ』
「はい!」
マザーは二人に慈愛の笑みをむけ、小さな手を空へと向けた。
はらはらと降ってくるのは、そらのかけらのような青い花びら。
ふくいくたるバラの香りが、会場全体をやさしくなでていく。
泣いてしまいそうになった。いや、今は我慢だ。
だってアオバも我慢している――ふかふかの耳をふるふるさせつつ、『そろそろ行こう』と促してくれる優しいバディも。
おれはうなずいて静かに立ち上がる。
VRのありがたいところで、衣装もギターのチューニングも、何もしなければ大きく乱れたりしない。
入出場者ゲートに直行し、目を潤ませた『おこんがー!』の二人と合流。
四人で気合を入れ合うと、アオバに見守られて三人で、フィールドに入っていった。
まずは祝福のステージを。
小さく胸の底にうずくものを、今は静かに眠らせて。
ガチバトルご期待の方すみませぬっ!
日向的にもガチが見たかっゲフンゲフン。
なお、今回白バラにこめられた意味は「心からの尊敬」。
結婚祝いとしてのみならず、目上の方へのお祝いとしてもよいものですね。
次回、イツカナ本番前の一幕。できれば試合開始までゆきたいところです。
どうぞお楽しみに!




