Bonus Track_40-3 ショーバトル観戦はすこしの罪悪感とともに~ミツルの場合~(1)
第二戦は因縁のとしか言いようのないカードだった。
ハヤトは、オルカさんが好きだった。
このあと、モモカさんたちとともにステージに上がる。そのあと、完成させたあの歌を歌えて――そしたらあいつとも、こんどこそ直接、また会える。
そんな『幸せいっぱい』の俺が、能天気にこの戦いを見るのは、申し訳ない気すらした。
たとえハヤト本人が、吹っ切れたような顔をしていても。
そしてこれが、『急遽』エルカさんとオルカさんの引退が決まったことによって差し替えられた、勝敗かまわぬ『ショーバトル』にすぎないのだとしても。
「ミツル」
ぽんぽんと、アオバが背中をたたいてくれる。
「だいじょぶだって。
心にわだかまりはあるだろうけど、それでもきっとやり切ってくれる。
ハヤトはそんな男だから」
そのきらきらとした、きれいな瞳を見ていると、罪悪感はさらに膨らんだ。
「どうしたんだよ、ミツルはこの件に関しちゃなーんにも悪くないんだぞ?
だいじょうぶ。ほら、吸って、吐いて。もう一度吐いて」
かつてはあいつがかけてくれていた言葉。
いまは、アオバがかけてくれる、優しい声。
けれどそこにも確かなわだかまりはあることに、俺はもう、気づいてしまっている。
それでも時間は容赦なく進む。
第二戦開始時刻となれば、開園のブザーが鳴り、きっぱりと照明が落ち、BGMが引いていった。
バン、バン、バン。
静けさが満ちれば、大げさなスイッチ音とともに、放たれた光条三つ。
三方から、フィールド中央の一点を狙う。
そこに鎮座していたのは、ピンクとショッキングピンクで彩られた巨大な卵。
それも、大人でもゆうに三人くらいは入れる特大のやつだ。
万座の注目の集まったきっかり三秒後、その外殻にしゃくしゃく、と光が走り、ピンクの卵はぱーんと四散。
中からキラキラの紙吹雪とともに、白と黒のタキシードの凸凹コンビが姿を現した。
黒のタキシードに無帽のハヤトは、愛剣ライカを手に、しばし残心。
彼が卵の殻を斬ったのだ、と誰にもすぐわかる、力感あふれる立ち姿だ。
白タキシードのアスカはそんなハヤトの肩に手をまわし、ひゃっほーい☆ と手を振り、ウインク、投げキッス……をしようとしたらハヤトににらまれ、シルクハットを取って一礼。
すると、ハットの中からわらわら飛び出す、ハトにウサギに万国旗。
絶対、帽子の中に納まらないボリュームのそれらは、もちろんイリュージョンによるものだ。
かろやかなBGMに誘われるかのように、楽し気な拍手、明るい声援がぽんぽん飛びだす。
ふたりのパフォーマンスは、ついさっきまで展開していた『地獄から天国への落差がひどすぎ最強バトル』による緊張感を、いっきに吹っ飛ばしてくれた。
くるくるまわるミラーボールの光のなか、声援にこたえていたアスカは、頃よきところでハヤト仲良く顔を見合わせ、入出場口を手で示しつつ後退。
すると照明はふたたびゆっくりと暗くなり、ドラムロールが開始。走り回るピンスポットライトが入出場口に集まっていく。
最後にドラムの音がはじければ、そこからは『海』が飛び出した。
のびやかに広がる青い水。吹きわたる甘いかおりの風。
ざぶん、優しい波に包み込まれれば、そこはもう海の底。
ちらり、光が走って見上げれば、白と紺、水色と金色で装った美しいひとが、通り過ぎ様にさらりと手を振る。
オルカ・フジノ。時空を泳ぐ人魚姫の異名を持つエクセリオンだ。
褐色の肌をもつ人魚姫が優雅に行き過ぎるたび、海はオーロラに、オーロラは銀河に塗り替えられる。
と、人魚姫が動きを止めた。
満天の星空に、白く光るひびが入っている。
みるみる広がる亀裂。あっと思ったその時に、銀河はぱぁんと砕け散り……
キラキラと降り注ぐ銀河のかけら。
しかし人魚姫は無事だった。
いつのまにか空中に現れた、ひとりの紳士に抱き留められていたからだ。
緑の狐尻尾と燕尾服をなびかせ、しなやかに着地を決めた紳士は、人魚姫に優しく微笑みかける。
マーメイドドレスの姫君に姿を変えた人魚姫も、嬉しげに微笑み返す。
漂う甘さは、あくまで上品。
圧巻のパフォーマンスに、ほんとうのおとなの優雅さを添えている。
今この二人がしたことは、余人にはまねのできないことだ。
オルカさんの空中遊泳とエルカさんのイリュージョンをシンクロさせた、高度にして圧倒的なパフォーマンス。
最後はエルカさんの第三覚醒『ホシノオワリノレクイエム』を、エフェクトそのままノーダメージバージョンとして魅せてくれる大サービスまで添えて。
それをまるで、何でもないことのような顔でこなすところが、またすごい。
贅沢すぎるショーにすっかり酔って、俺たちは競うように拍手を送っていた。
だが、こういうところで素直に黙っていないのがアスカだ。
笑顔でパチパチ拍手をしていたかと思うと、おもむろに大きく両手を振りかぶった。
その手には、さきの卵よりなおでかい、『いかにも』といった形のバクダン。もちろん導火線には火がついている。
もと人魚姫を腕から下ろし、背中にかばう狐紳士。
けれど姫は、守られてばかりの女性ではなかった模様。
優雅なマーメイドドレスをひるがえして狐紳士の脇をすり抜け、滑るように駆ける。
いつの間にか手には金色の刃を装着し、すっかりファイティングモードに。
一方で、ハヤトも黙っていなかった。
相棒を守るため、再びライカを抜刀した。
うーむ、区切りがよくないようないいような。
さらには布団が吹っ飛びました(マジ)
次回こそエルカさんからの重大発表(とはいえ、わかったようなものですが)です。
どうぞ、お楽しみに!




