40-2 『コトダマドライブ』と驚愕の第一回戦!
――踏み込みは見えなかった。
あらかじめ『超聴覚』を起動しておいてよかった。
おれは大きなうさぎの耳で二人の動きを捕捉しつつ、この初激に斬りふせられずに済む強化の度合いを推し測っていた。
おれたちの座るかぶりつきの席は、ほほを胸をビリビリと叩くようなプレッシャーに満ち満ちていた。
わかっている。フィールドと観客席を隔てる防護絶壁は、テラフレアボムでも破れない。
しかし、それを通してすら押しよせてくる、真の強者の圧力。
「すげえ! すっげえ!
がんばれふたりともー!!」
しかしイツカはどこ吹く風。剣士たちの動きもきっちり見えているらしく、大興奮で声を上げる。
と、はるか上、マザー専用貴賓席『月の座』から、セレネさんの透き通る声が降ってきた。
「ふむ、これでは見えぬ者もおろう――神聖強化。
さあ、存分に見るがよい」
観客席に降り注いだ虹の輝きは、おれにも剣士たちの動きを見定める目をもたらしてくれた。
けれど、それをもってすら、二人の動きは驚異的だった。
あちらでつばぜり合いをしていたかと思えば、こちらで激しく斬りつけ合う。
その次の瞬間には、大きく離れて必殺斬撃の応酬だ。
どよめく場内。おれの胸も轟いている。
けれど、ここでふと思った。
やってやれないことはなさそう、と。
初手、向こうの剣士が動く前に、どれだけ強化を積めるかが第一のポイントだ。
ここはなんとかなるだろう。なぜなら、両バディの後衛はともにノリがいい――似た者同士のライバル剣士たちに、自分たちの強化ゼロで斬りあう時間を、これだけたっぷり与えてくれるような、度量の大きいお姉さんたちだからだ。
『だいじょぶだよ。オレがカナタお兄ちゃんをまもるから!
オレ、もう暴走もしないし、チカラもちゃんとセーブできるから。
お兄ちゃんたちと『お姉ちゃんのためなら』、オレ、いくらでもがんばれるからね!』
と、おれの中からかわいらしくも力強い『声』が響いてきた。あらかじめおれの体に宿っていたナツキだ。
すぐとなりにいるイツカにも、その言葉は伝わったようだ。
「俺もがんばるぜ、ナツキ!
いっしょにカナタを守ってやろうな!」
『うん!』
ナツキはおれの手を借りて、イツカとぎゅっとこぶしを合わせる。
ついでにおれの顔までも、ナツキスマイルでニッコリだ。
イツカは嬉しそうにのたまった。
「カナタもなー。いっつもそういう顔してりゃいいのに!」
「ば、……うん、その話はあとでしようか。
いまはこのバトルだよ。研究の最後の仕上げだ。しっかり見よう」
「だな!」
もしここでおれが『そういう話はルナたちにしろ』と返せば、盛大に脱線してしまうことだろう。
ゆえに、ここは保留。おれたちはともに、激戦のフィールドに集中した。
今しも、プリーストたち――アカネさんとミソラ先生が動き始めた。
「それじゃそろそろはじめよっか!」
「そうだね!」
「神聖強化!!」
かたやピンクでかためた、甘ロリツインテ猫装備。
かたや地を履くほどの白銀の髪と白ローブ、シロフクロウの翼の吟遊詩人風。
ふたりの声が仲良くハモれば、それぞれのバディを虹の輝きが包み込む。
その強さ、ミライとミズキとルナをあわせてもまだ上回る。
縮地も使えば地盤も壊すトンデモ剣士たちの動きは、再び見えなくなった。
セレネさんはもう一度、客たちに向け神聖強化。
『パワーアップどころかもうクラスチェンジできるよねこれ』レベルの強化でやっと、剣士たちをふたたび視認できるようになったはいいが、そこでまた度肝を抜かれた。
かれらはさらにとんでもない動きをしていたのだ。
『青嵐公』が天井走りの要領で、なにもないはずの空中を走ってる。
『月閃』がその上方に向けて一閃を放つと、『青嵐公』の走るコースがガタッと『落ちる』。
剣劇の延長上にある防護絶壁は、ギャリリリリと嫌な音を立てて青い火花を散らしている。
『青嵐公』はかまうことなく身をひるがえし、くるくると縦回転しつつ『月閃』のふところへ。回転の勢いを乗せて斬りつけるが、『月閃』のすがたは陽炎のように揺らぎ、ゆらり、それをいなしてしまう。
そのまま始まる連撃の応酬――見えた限りで、袈裟掛けに突き、唐竹割り。
背後に抜けた斬撃がクレイコートをザクザク削り、防護絶壁をガリガリひっかく。アカネさんとミソラ先生は避難して宙に舞う。
正直、それでも危なく見えるほどだったが、とうの二人は余裕の笑顔だ。
「それじゃー時間も押してきたし、キメよっか?」
「望むとこだよ!」
「それじゃ、いっきまーす!
『レインボー・スプラーッシュ』!『ロリポップ・シャワー』!
か~ら~の~、『にゃんにゃん☆すたんぴーど』ー!!」
アカネさんがノリノリにピンクの日傘を振れば、破壊と魅惑の最凶コンボがフィールドに降り注ぐ。
一方でミソラ先生が高く一声歌い上げれば、奇跡が起こった。
さまざまの補助効果をまとってはじけたボムは、色とりどりの大きな花に。
破壊をもたらす猫型光弾は、もふさ100倍回復効果マックスに。
となりでイツカがダメになってる。恐ろしい攻撃だ。
一方でダメになってるのはアカネさんもだった。
「うそーなにこれかわいー!!
もふもふー! もふもふだよトウヤちゃん!」
「解除……解除しろアカネ、これでは、もふり殺される……!!」
「ミソラ、解除だ、これでは勝負に……っ……」
「えへへー」
「ふふふー」
ふわふわともふもふに埋もれたフィールドでもがく剣士たち。方なしとはこのことだ。
ミソラ先生が、どこからか取り出した竪琴をつま弾きながらニコニコ言った。
「そういうわけで、この勝負わたしの勝ち☆ いいかな?」
「あたしはいいよー。
これやられちゃったらもうあたし、決め手ないもん」
あっけらかんと言い切る相棒に『月閃』もとい、トウヤさんががっくり突っ伏した。
戦意喪失しているのは『青嵐公』――ノゾミお兄さんもだ。
「もうどうにでもしろ……」
なまぬるーい笑顔のままで、もふもふの海に沈んでいった。
ミソラ先生の覚醒技『コトダマドライブ』。歌うことで攻撃を変質させたり、戦意をそいだりといろいろできる。
吟遊詩人としてもプロだった『銀河姫』ならではの攻撃だが、特定の攻撃に対して使うことでこんなにも凶悪な効果が生まれるとは。
国家の命運さえ左右する『月萌杯』その第一回戦は、まさかの『ふわふわ』と『もふもふ』に制圧されての幕引きとなったのであった。
この決着には作者も度肝を抜かれました。どうしてこうなった……!!
次回、ちょっとインターバルで作戦会議? どうぞ、お楽しみに!




