39-5 マウントブランシェのリフレッシュ休暇!(終)
2022.02.17
誤字修正いたしました。
だったらさ、レイジたちは→ だったらさ、ケイジたちは
「レオナさんたちも、スターシード……
それで、これを知ってる?」
おどろいたおれは、オウム返しに聞き返していた。
レオナさんは、少し寂しげに笑う。
「はい。
そのおかげでわたしたち、今ここにいられるんです」
そして、そっとなまはげの像に手を触れて、話し始めた。
「わたしたち三人も、気が付いたら月萌にいました。
『シード反応検査』に微弱ながら反応があったので、おそらくはスターシードだろうということで施設に引き取られたそうなんですけれど……
能力はてんでイマイチで、まえのセカイのキオクも思い出せなくて。
発見当時赤ちゃんだったこともあって、本当はただの捨て子なんじゃないかとさえ言われてたんです」
「まあ……!」
ライムが息をのむ。
ミシェルさんが目を伏せ、アシュリーさんがよしよしとその肩を抱く。
けれどレオナさんは、気丈に話し続ける。
「そんなわたしたちがスターシードであると証明してくれたのが、これでした。
歴史の教科書で見たこれが、なんだか妙になつかしくって、三人で作ってみたんです。
そうしたら、スラスラできてしまって。
子供が見られるような資料には載っていなかった、内部や背面まで作りこんだことで、わたしたちは異なるセカイの神秘に触れた子なんだと証明されたんです。
そのときにクラフトの才能があることもわかって、クラフターの道を志して……。
それでも三人とも腕っぷしはからっきしだし、見た目も貧弱だし、からかわれてばっかり。
ついに耐えかねて、すっかり姿を変えたわたしたちは、高天原めざしてハンターとしての修業に明け暮れました。
強くなって、高天原にいこう。そうすれば、わたしたちも名実ともにりっぱなスターシードと認められる。
価値のある人間として、だれにも敬意を払ってもらえるようになるはずだと」
必死でがっついてったハンターとしての成り上がりより、息抜きレベルにおさえてたはずのファンシークラフトがどんどん売れてったのは皮肉でしたけどね、とレオナさんはほろ苦く笑う。
「冒険者ランクはなかなか上がらず、焦ったわたしたちは乱暴なふるまいをするようになっていって……。
あのとき出会えたのが、あなたたちでなかったら。
『なまはげ』からはじまったクラフトが、絆をつないでくれてなかったら、わたしたち、今頃どうなっていたことか。
だからこの『なまはげ』は、わたしたちの天使、わたしたちの守り神なんです」
けれど、そこまで話すと彼女たちは、素敵な笑顔を見せてくれた。
「こんなふうにゴツ可愛くなりたくって、くま装備のハンターや、それの似合う姿をえらんだんですけれど、いつの間にか『戻って』きていた。
私たちの持っていた姿、持っていた力を、そのままでいいと言ってくれるひと、頼りにしてくれるひとたちと出会うことができた。
おふたりの装備には、その感謝を目いっぱい込めさせていただきました。
どうか、笑って勝って、みんなみんなをもっと幸せにしてあげてください!」
おれたちの返事は、もちろん。
「おう、まかせとけ!」
「きっと勝つよ。見ていてね」
「はいっ!」
おれたちはかたく、握手を交わす。
そしてアトリエを出、母屋へ。
エアリーさんにあいさつをして、イツカとライムと三人で、せーので帰還したのであった。
目を開けると、いつもの天井。
隣を見ればいつもの相棒。
ただし、なにやら神妙な顔で天井を仰いでいた。
ややあって、ぽつりひとこと。
「スターシードって、なんなんだろな」
スターシード。流れ星の降る夜にこのセカイに現れる、親のない子供たち。
ここではない、別のセカイのキオクを断片的に持っている。
そして、幼いころから普通の人間よりも段違いに高いスペックを発揮する。
ハートチャイルドは先天的に心臓に障害を持つが、それ以外は健康そのもの。
……と、一般には言われているが。
「ケイジはちょっと前まで体が弱かった。
レオナさんたちは教科書を使う年齢となるまで、キオクも目覚めず、力もフツーだった。
かと思うとさ。
『白妃』にされちまったはずのミライやアスカは、実際とんでもなくつえーし。
なんかわけがわかんねーよ」
イツカはいう。
そうだね、とおれはうなずいた。
スターシードは一応、人間だ。である以上、それぞれ個人差があるのは当然のこと。
星降園の仲間たちにしたって、得意な科目やその点数はみんな違った。
しかし、ここまで大きな差異があるものなのか。なんとなく釈然としない。
イツカの声がそんな気持ちを、おれにかわって言葉にしていく。
「おれたちさ、『母さん』たちからきかされてきたよな。
おれたち『星の子』は、なんか、使命を負ってこのように『生まれ』たって。
持たされた大きな力は、この世界で何か、大きなよいことをなすためのものだって。
だったらさ、ケイジたちはなんで、そんなハンデを負わされてたんだ?
ソナタちゃんたちハートチャイルドもだ。
なんで、病気にならなきゃいけなかったんだ。なんであんな何年も、不自由な想いしなきゃならなかったんだ。
……なんとかできねえのかな。できなかったのかなこの国は。
だって『白妃』は『つくれ』るんだろ?
ステータスに手、いれるのか何だか知らねえけどさ。とにかく作れるってことだろ。
そうするべきなんじゃねえのか。戦力が欲しいってならさ……。」
イツカはやるせない息を吐く。
たしかに、『白妃』だ『赤龍』だのというのは、最悪『ティアブラ』をプレーしなければ関係ないことだ。
けれど、一部のβ(ベータ)居住地をのぞく全域が、『ティアブラ・ネットワーク』によりVR世界と重ね合わされ、戦場と化しているこのセカイにおいては、『ティアブラ』はまさしく現実。
引きこもって目を背けることはできても、なくなることはけっしてない現実なのだ。
そのとき、ぽろっと口から出ていた。
「ウソかもしれない」
「へ?」
「『月萌国が『白妃』を作り出している』。
それ自体が、どのレベルかはわからないけど、嘘なのかもしれない」
「……………………。」
ぱっとふりかえったイツカは、そのポーズのまま沈黙した。
ルビーの瞳は大きく見開かれ、頭の耳もピンと立っている。
「五ツ星講習でもそんな詳しくやらなかったし……プライベートでもノゾミお兄さんたち、そんなに突っ込んで解説してなかったし。
きっとまだ、知ることのできてないことがそこにあるんだ。体制側の中枢の人間だけが、知ることのできることが」
「そ、かー………………」
器用な体制で固まっていたイツカは、やがてばふっと布団に沈んで言い出した。
「もしさー。あしたレインが来てたら、ちょっと捕まえて聞いてみっか?
ほんというとアスカに聞くのが一番だけど、今日明日時間取らせるのはさすがに悪いしさ」
「そうだね。
もしなんだったら、月萌杯勝った後、おまえがセレネさんにうまく聞けばいいことだし」
「あ~確かに。
それじゃそろそろ起きるか。腹減ってきた」
「うん。学食行こう」
おれたちは『ただいま帰還しました』の報告を上げると、身支度を整え、寮室のドアを開いた。
「おかえり――!」
そこにはもう、アスカとハヤト、ルカとルナ、ミライとミズキを先頭として、笑顔の仲間たちが待ち構えていた。
いつもありがとうございます。
次回。自他ともに認めるイケメン変態理事はやってくるのか……?(←今必死で考えてる)
どうぞ、お楽しみに!




