39-3 マウントブランシェのリフレッシュ休暇!(2)
2020.10.25
誤字修正いたしました。
も土出の→文字での
「ごちそうさまでした!!!」
エアリーさんにレオナさんたち、そしておれとイツカは笑顔で手を合わせた。
しかし、いつもの流れで食器を下げようとすると、エアリーさんに止められた。
「いいのよ、今日のふたりはお客様なんだから。
そのへんでのんびりまったりしてらっしゃい。お昼になったら呼ぶからね!」
「え、でも……」
「おふたりとも。こういうときのためにわたくしがいるのですわよ?」
そのとき、横合いからすっとトレーをさらうものがいた。
聞き覚えのあるにこやかな声。まさか。
「おはようございます。お手伝いに上がりましたわ?」
「えっライム?! いつどうやってここに?!」
「いまふつうに飛んで、ですわ」
そこにいたのは、いつものメイド服のライムだった。
微笑む彼女の背中で、オオハクチョウの翼がパタパタ。そうだ、ライムの翼ならマウントブランシェの高さくらい余裕。ついこの間までエクセリオンだった彼女なら、たとえ徒歩でもやっぱり余裕だ。
そんな彼女を見て、エアリーさんは懐かしそうに駆け寄り、レオナさんたちは仰天する。
「あ、ライム! ひさしぶりね!」
「えええええ?! ラ、ライムさん?! ほんものっ?!」
「ほんものですわ。
いつもお世話になっております。お三方の作品、わたくしも大好きですのよ。
これからもよろしくお願いしますわね?」
「キャー!! ありがとうございます――!!」
華やかに盛り上がる女子一同。
そんななか、ライムの目配せを受けたおれたちは、素直に庭に出てまったりと、装備の確認でもすることにした。
装備の仕上がりは見事なものだった。
『不具合などありましたらすぐにお申しつけくださいね!』と、かわいい手書き文字でのメッセージカードが添えられていたが、文句なんかつけようのない仕上がり。
「すげえ……なんかちょっとキラキラしてねえ?」
「だね……」
いや、これは明らかに修復の域を超えている。
見た目はもちろん、ステータスもかなりとんでもないことになっている。
物理防御力はもちろん、属性耐性がのきなみアップしている。
履歴欄をのぞいて納得した。最高純度の『シャスタの霊水』『エアリエイルの星砂』で磨き上げられているのだ。
こんなの、マトモに頼んだらいくらかかるか分かったものじゃない。ここでだけの特権だ。
ともあれ、感激したおれたちは、レオナさんたちにお礼を言おうと母屋に取って返した。
しかし、居間も隣接する台所も空っぽ。
「あれっ、もうミルク製品づくり始めちゃったのかな?」
「ミルクファクトリー行ってみるか?」
そんな風に話しているとライムがやってきた。
「あら、おふたりともこちらにいらしたのね。
エアリーさんが、ひつじのおさんぽに行きませんかって。
わたくしたちも、お弁当をもって追いかけますから、いっていらっしゃれば?」
「へえ、なんか楽しそうだな!
俺いってくる。カナタは?」
「そうだねー……うん、おれもいく!」
せっかくなのだし、マウントブランシェの絶景で心をいやしてこよう。
そうしておれたちは、いつものエプロンドレスにコリー装備のエアリーさんと、十数頭のひつじたち、そして本物のコリーたちとともに近くの草原に出かけたのだった。
きんと冷えた山の空気は、朝日に温められてきもちよくぬるまってきていた。
緑の草に朝露の名残がのこり、はるかに見える稜線は白く、空はカーンと青く晴れ渡る。
思わず深呼吸。ほんとにこれはゲームの中か。
前を行く羊たちにわんこたち。そして、風に金髪をなびかせて、きれいな声で歌いながらあるくエアリーさんも、なにもかも、本物としか思えない。
ほんとうに、どうしてここまで……
いや、つまんないことを考えるのは今はなしだ。
イツカがわーいと走り出す。
おれはどうしようか。歌でも歌おうか。それともたまには、絵でも描こうかな。
ちょうどよさそうな岩の上に腰を下ろし、とりあえずはのんびりと、あたたかな日差しを満喫。
しばしまったりしていると、お呼びがかかった。
「おーいカーナーター! あそぼーぜ! とりあえずおにごっことかー!」
陽気な声に振り返って仰天した。イツカはなんと、口の周りを真っ赤に染めていたのだ。
「わあっ?! ちょっおまっ何食べてきたの?! まさか……」
「え? ああ、向こうの茂みにさ、レッドベリーがなっててさー。
そうだお前も食べいこーぜ、うまかったぞ!」
「まったくもう……ほら口のまわりふいて。じゃないとまた被害者出るから」
「食ってからでいいじゃん、ほらいくぞ!」
「こーらー!!」
笑いながら駆け出すイツカ。ぴょんぴょこはずむ黒尻尾を追いかければ、なんだかおれも笑えてきた。
「こらまてイツカー! まーてー!」
「あははは! カナタ笑ったー!」
追っかけっこをして、レッドベリーを食べて。
小さな流れで顔を洗って、つめたい水でのどを潤して。
もう一度駆け回ったら、草の上に寝転んで。
ぜーはーしながら青空を見上げていたら、ライムの優しい笑顔が見えた。
「おふたりとも。今日は休養日ですわよ?
サンドイッチを作ってまいりましたわ。そろそろお昼にしましょう」
手にしたバスケットからは、なにやら魅惑的なにおいが漂ってくる。
おなかの虫は正直で、とたんにぐう、と鳴きごえをあげた。
木の実がなっているととりあえず食べます。(野性児)
次回、少女のアトリエで見たものは。
どうぞ、お楽しみに!




