39-1 なるか第三覚醒? 双龍バトル・おかわり!
おそろしいことに、バトル終了直後にシャスタさまはのたまった。
『うーむ。やはりなんぞ物足りんのう。
やっぱりバトルと言ったらブレスじゃろうよ?』
きくところによればシャスタさまは、現役時代から水龍大好きで……
第一覚醒で龍人化。第二覚醒で龍化。第三覚醒で完全に水龍化をはたし、女神就任が決まったという。
水龍の騎士としてのシャスタ様もすさまじく強かった。というのに『あんなんただの手慰みじゃ』とこともなげに言ってコレである。
『たまには全力出してもぶっこわれないフィールドで、おもっきしブレスはきたいのー』
「俺も『0-G+』使いたかったな~」
するとイツカも期待に満ちた目でこっちを見る。
どうしよう。おれも余力はないでもないけど……
そう思ってると、エアリーさんがニコニコ笑いながらどんどんっとミルク缶を召喚してきた。
「けっこう早く決着しちゃったし、イツカもミルクのんであと一時間くらい遊んでていいわよ。
そのかわりおわったらお風呂。そしてあしたはしっかり休むこと!
カナタもまざってらっしゃい、武具のメンテはわたしたちでやっておくから」
「えっ、いいんですか?」
「だーいじょうぶ! レオナちゃんたちもすっかり腕を上げたのよ。
イザとなったらわたしの女神パワーでなんとかするから。ね!」
「えっあ、はい……よろしくおねがいします……」
それってもしかして、レオナさんたちにも『プラチナムーン』を持たせるってやつじゃなかろうか。いや、これはここでは聞くに聞けない。
いま、このフィールドの様子は多くの人たちに閲覧されているのだ。
ミッドガルドでは、『公共の場所』はすべて閲覧自由。
極秘フィールドとして指定されている隠しダンジョンのなかと違い、へたなことを言えば筒抜けなのである。
まあ、いまここで考えても仕方ない。
思いきってしまうと、横合いから「カナタ!」と声をかけられる。
ふりむけばそこには、ミルクのグラスをもって癒しの笑顔のミライがいた。
「はい、どうぞ。おれに言ってくれれば、おかわりつぐからね!」
ミライに出されちゃ受け取らないわけにいかない。ありがととグラスを受け取ると、入れ替わりのようにしてミライにグラスを渡すものがいた。
「なんだよー、せっかくなんだしミライもまざればいーじゃん! ほらミルク!」
「まってイツカ、おれ、そんなに強くないよ? ふたりの特訓の役には立てないよ?」
「んなことねえって! 俺にはミライのホリフォがいっちばん効くんだから!」
イツカの言ってることには同感だ。おれもミルクをいったん休んで援護射撃。
「それはいえてる。
なんかこう、ただの回復でもふしぎと癒されるんだよね」
「そ、そっかな?」
『む、ミライの神聖魔法はそんなによいのか? わらわにもちょっぴりもらってもよいかのう?』
「え、それならわたしも~」
そう、せっかく来てもらったのに、ただレフェリーだけさせて帰すのでは申し訳ない。
可能ならせめて、軽く一戦だけでも。
もちろん予定があるとか、疲れてたら断ってくれていいけど、といえば、ミライは照れたように笑ってこう言ってくれた。
「……ううん。
じつはミズキね、こっちでバトルとかできるなら、遠慮しないでって言ってくれたの。
おれがつよいと、ミズキももっと安心だからって。
よーし、それじゃあおれ、まずはフルブレいっちゃうね!」
「おーう!!」
ミライはニコニコわらいながら『サクリファイ・フルブレッシング・オール』。
のこり戦闘用TPを全部つぎ込むだけあって、効果は抜群。あっという間に思考が、体が軽くなる。
『おおおおお! これはすばらしい!!』
「わあ、なんだかふんわりだわ~。あとでレオナさんたちにもやってあげて!
ありがとうねミライ。はいミルク!」
シャスタさまはたいそうお気に召したよう。すかさずミルクを渡してフォローのエアリーさんもニコニコだ。
「うあーっ効くなー!!
もうなんとかしてミライと三人ででれたらなー『月萌杯』もさー!」
「おれたちが卒業したら、ずーっといっしょでしょ?
それじゃみんなはじめよう!
おれが聖域展開でみんなに補助かけるから、みんなは好きに戦っていいからね!」
『話せるなあミライよ!! よしっおぬしにわが特別の……』
「あらうれしいわ~。それじゃあわたしもちょっとドラゴンに……」
「そんじゃあ俺は第三覚醒目指すぞー!!」
「できるに越したことないよね。おれも頑張ってみようかな!」
ミライの優しい聖域展開が山頂を包むと、マウントブランシェの空はうららかに晴れ上がった。
青空をバックに双龍が飛翔する。
かたや、水翼さえもすらりと流線型した、東洋の龍に近いフォルムの水の龍。
かたや、ギヤマン細工のような龍翼を有した、西洋のドラゴンっぽい星色の龍。
黒猫の騎士はぴょんぴょんと宙を蹴り、まるで見えない階段でも登るように追いかける。
『玉兎抱翼』で白のうさぎ天人となったおれは、大きな耳翼ではばたき、後を追う。
水龍があぎとを開く。開いた口の前に形成された力の球は氷青色。はじめてみる攻撃だ。
はたして吐かれたのは極低音の水のブレス。
同時に星龍がぶわりとはばたき、万色の龍翼から発されるキラキラの風で、ブレスの速度と威力を後押しする。
身のうちからすくんでしまうほどの美しい複合攻撃。以前資料映像で見た『ホシノオワリノレクイエム』――エルカさんの第二覚醒によく似ている。
大丈夫、飲まれたりなんかしない。おれとイツカは左右に散開してそれをかわす。
ひと跳ね、ふた跳ねしたところで、シャスタさまの水の尾がおれたちのいた場所をなぎはらう。
これはオルカさんの第一覚醒『アクアライン』風だ。
イツカがどっから覚えてきたのか、やけに難しい言い回しで感激をあらわにする。
「すっげー! ナニコレマジか!! 覚醒技の満漢全席じゃん!!」
『はーっはっはっ。今日のわらわは機嫌がよいのじゃ!! さあ打ってこいイツカナ、さればトウヤの『明鏡止水』ふうも見せてくれようぞ!!』
「え、じゃあアカネちゃんの『にゃんすた』も?! ノゾミセンセの『ナイトライド』もー?!」
『あ、あれはその……わ、わらわが満足したらのごほうびじゃっ』
「っしゃ――!! カナタ!!」
「了解っ!!」
二人で星龍の前足攻撃をかいくぐり、一気に上へ。
太陽を背にイツカの足裏を蹴り、さらに『斥力のオーブ』を打ち込む。
タイミングはばっちりだ。イツカが金の流星と変わる。
「いっくぜシャスタさま――!! 『0-G+』ッ!!」
ここで出し惜しみなんて意味がない。とりあえずは最大必殺技である。
どばん!! 水龍の首から胴が、すさまじい音とともにふたつに割れて、おびただしい量の水のしずくをまき散らす。
それらのうち、いくばくかはイツカの金色のパワーに吹きとばされて消え、いくばくかは高く高く舞い上がっていく。
「っしゃあ、ごほうびゲーット!」
イツカは輝く笑顔で快哉を上げたが、おれは叫んだ。
「イツカよけろっ!!」
はたして響いたのは、してやったりというシャスタさまの高笑い。
『はーっはっは、かかったなっ! くらえ、ピアッシングレイン!!』
同時に超速でふりそそぐ、氷の雨。
ルカの『フォーリン・スター・ピアス』が範囲攻撃となったかのごとき刺突攻撃が、イツカの頭上から襲い掛かる。
「イツカ――!!」
とっさに耳翼を伸ばそうとすると、誰かの手にふわっと止められた。
みればイツカがもうそこにいた。
殺人氷雨は、おれの見る前で素通りしていく。
そう、オリジナルバージョンの『0-G』だ。
「だからさ、カナタは心配しすぎだっての。
……ま、たぶんおかげで俺、コレできるようになったんだけどな」
「それを言うならおれだって、おまえが心配かけるからこれ、できるようになったんだよ?」
戦いのさなか、空のまん中。
なぜかおれたちを、ほのぼのあたたかい空気が包み込んだ。
もしかして、これは。
のばしたおれたちの手はしかし、まだあと一歩、それをつかむことができないようだった。
最初からこれで行けばよかったじゃんと言ってはいけないのです……orz
次回は最後の休養日、ひつじ牧場でまったり……の予定です。
どうぞ、お楽しみに!!




