38-4 敗北のような、初勝利!
爆発音が来る直前に、とっさに耳翼で身を包む。同時に聖静籠を唱えた。
プレッシャーを伴う轟音と、音すらゆがめる爆圧が、一気に体を吹き上げた。
耳翼から、はらはらと光の花びらが散りおちる。
聖静籠なしだったら、防護効果が切れていたことだろう。
「うっわ~すっごいバクハツだね!
学生時代のいいんちょとの試合思い出しちゃう!」
アカネさんは自前の神聖防壁で無事。影響といえば、ピンクのバルーンスカートのすそを片手で抑えているくらい。
ニコニコしながらそんなことを言ってきた。
とうのイツカたちはといえば、もはや剣が見えない勢い。
イツカの打ち込みをトウヤさんが流し、トウヤさんの斬りつけをイツカがいなす。
トウヤさんの技量はすさまじく、イツカをことごとくいなしては、その動きひとつひとつを攻撃につなげている。
『月閃』の切れ味とトウヤさんの腕は、空気すらやすやす切り裂き、一刀ごとに斬撃をふりまく。
アカネさんが飛び続けているのも納得だ。こんなの、とてもあぶなくて近寄れない。
おそろしいことにイツカの剣も、同じ性質を帯び始めている。
あきらかに上がっているのだ、剣の速度が。
これが『ソードマスター』。
手にした剣の最大を引き出し、みずからも同時に力を開花させていく、剣の匠――
なんてシリアスは一瞬にしてぶっ飛ばされた。
「かっこいいよね~、『ソードマスター』。
でもトウヤちゃんはあたしのだから! あげないからね!
イツにゃんと交換なら考えてもいいけど!」
「ファッ?!」
「なっ、おいっ」
アカネさんのトンデモ発言に、剣士二人が同時に振り返った。もちろんおれもあわててしまう。
「だ、だめですよ!
だってトウヤさんはそんな、イツカみたいに雑に扱えませんし!」
「ひどっ!」
「ふっふ~。
ごめんねー。トウヤちゃんあーなっちゃうとあたしヒマだからー。
あんなのにこれ以上ホリフォかけたらぶっちゃけあぶないし」
「たしかに……」
「というわけでーさらなる新技をー」
「おいやめろたのむやめろっ」
「やめてアカネちゃんまじやめてー!!」
アカネさんが上機嫌で言い出すと、剣士二人から悲鳴に近い声が上がった。
おれもぶっちゃけやめてほしい。生きて帰れる気がしない。あわてて言った。
「ままままってくださいアカネさんとりあえずおれと! おれと戦いましょうっ!
ほらっ、お互いボマーでもありますしっ!」
「のったー!」
わーいと大はしゃぎするピンクのツインテゴスロリにゃんこ少女(※成人)。
この人、専攻はいちおうプリーストだった気がする。多分気のせいだろう。
だって、超嬉しそうにどっからかボム出してきた。
一瞬、大きく開いた胸元からに見えた気がしたが、絶対断じて気のせいだ。
「それじゃあいくよ! 神力投爆!!」
「それ絶対神聖魔法じゃありませんよね物理ですよね確実にっ!!」
可憐な細腕が翻れば、一瞬前までおれのいた場所が火の玉に変わった。
やばい。これ、みためただのフレアボムだけど威力はメガを超えている。
「だいじょうぶ、いちおう聖別してあるから!」
「アバウトすぎですからっ!!」
日傘のふちに次々と『実る』ボムたちを、摘んでは投げ、摘んでは投げてくる。
おれは必死に逃げ回る羽目になった。
これじゃ元の木阿弥だ。今度は、イツカの助けも受けられない。
小さく歯噛みすれば、耳の中に響く心強い声。
『カナタ。あんたにはあたしがいるでしょ。とっとと使いなさい!』
そうだった。今のおれには、バニティがいた。
『ありがとう。それじゃあお願い!』
そう『言った』次の瞬間、はじける爆炎。
哀れ焦げうさ野郎となったおれの姿は、きりもみ落下で地上に落ちた。
「え、え、うそ、……ホント? カナぴょん?!」
予想外のクリーンヒットに、うろたえるアカネさんの声がすぐ、下から聞こえる。
はるか下からはトウヤさんの警告する声が。
「アカネ、幻覚だ! やつは」
「はい。ここです」
しかし、時すでに遅し。
おれは片手で日傘の柄を握り、片手で魔擲弾銃を構えて、アカネさんの後ろをとっていた。
しかし、イツカも完全に注意がそれていた。
ねこみみの間に、こつんと落ちる峰打ち。
「にゃっ?!」
「『にゃっ』じゃない。
これが試合でなく、俺がもう少し容赦のないやつだったらお前は『死んで』いたぞ。
いずれ『あの女性』の騎士となるなら、もっと鍛えろ。いや、今度は俺がもっと鍛えてやる。
お前もだ、カナタ。
策はいいが、バディにここまで致命的なスキを作ってどうする。
だが、お前は強い。手を上げないと言ったことは撤回だ。
『月萌杯』でお前たちに当たったなら、俺はお前も狙う。
そのつもりで来い」
「アザッス!」
「はい!」
トウヤさんは納刀。イツカも納刀し、おれもアカネさんを解放して地上に降りた。
そうして、トウヤさんに一礼した。
すると、ノゾミ先生が声をかけてきた。
「おいトウヤ。
まるで勝ったみたいに言ってるが、これはお前たちの負けだからな?
お前いま、目が見えてないだろう。
アカネを撃たれ、森を使われていたら完全アウトだぞ」
驚いてトウヤさんを見れば、たしかに若干おかしい。イチゴ色の瞳の中で、瞳孔が大きく開いてしまっているし、大きな白のうさ耳もひときわ燐光を放って見える。
ミソラ先生が言うには。
「トウヤの戦いかたは『超精密機械』なんだよ。
だから、限界を超えるといろんなところに影響が出て、五感もだんだん切られていく。
いまトウヤは、『超聴覚』だけで全てを認識してる状態だよ」
アカネさんがトウヤさんのもとに舞い降り、回復魔法をかけ始めた。
『超回復』。かつておれの命を救ってくれた、高位の回復魔法だ。
「……これはトウヤと信頼しあう関係にある、わたしたちしか知らない秘密。
もっとも、この域までこれるひと自体がそうそういないんだけどね」
そんな重大な秘密を、聞いてしまってよかったのか。
そう思ったとき、トウヤさんがおれたちの肩に手を置いた。
「いずれお前たちには背中を預ける日が来るはずだ。
そう、ミソラは判断した。俺も同意見だ。
『ずっ友』なのだろう、俺たちは?」
光を取り戻した両目が、おれたちを見下ろしていた。
初めて会った時とは別人のような、あたたかな笑いを含んで。
「だよな!」
「ですね!」
おれたちはもちろん、友としての笑みを返したのだった。
おもったよりゆるくなりました……。
次回、反省会?
午前中の投稿を目指します。どうぞお楽しみに!




