Bonus Track_38-1 悪女たちのオンライン茶会は『妹』のお手紙を肴に~マルキアの場合~
『お兄ちゃんたちへ
ついに今週、月萌杯ですね。
ソナタもそわそわしています。
お兄ちゃんたちは、ほんとうにすごいです。
ミッドガルドの隠しダンジョンを制覇して、神器をもらった、とききました。
それは、エクセリオンになりたい人が、挑戦することだ、とも。
トウヤ・シロガネさんとイツカお兄ちゃんの手合わせの動画も、ネットで見ました。
最初はともかく、あとのほうになると、動きがはやくて、見えないくらい!
スローで見たら、なんかもう、とにかくすごくって……!
ほんとうに、お兄ちゃんたちは、すごいひとなんだ、すごいことにチャレンジしてるんだ、って、ドキドキしています。
それもこれも、高天原のルール(それがどんなものかはわかりませんが……)を変えて、わたしがしあわせに学生生活を送れるように……
わたしはほんとうに、ほんとうに、世界一しあわせな妹です。
ありがとう、お兄ちゃんたち。
お礼なんて、まだまだはやいって?
だいじょうぶ!
だって、お兄ちゃんたちは、これまでもどんどん、目標をかなえてきたんだもの。
『月萌杯』だって、絶対勝てます!
ソナタも高天原に行くまでに、お兄ちゃんたちの百分の一でも強くて、やさしくて、かっこいい人になっていたいな。
お兄ちゃんたちが、『これが、おれたちの妹だよ!』って誇りに思える女の子になりたいです。
せっかく元気にしてもらったのだし、勉強もティアブラも、歌もスポーツも、もっともっともーっと、がんばります!
どうか、体を大事にしてね。
みんなでめいっぱい、おうえんしてます!
だいすきな、こころから尊敬する、お兄ちゃんたちへ ソナタより』
『……ですって。
まったく、哀れな子ですわね。
こんなにもあの三人を、信じ切って……。
もしも『お兄ちゃんたち』が負けたとなったら、どんな顔をするのでしょうね?』
画像として映し出されたのは、家族を慕う少女の、健気な手紙。
かわいらしい便せんに書かれた、かわいらしい文字。
……これを見て、よくぞそんな嗤い方ができたものだ。
いやそれ以前に、他人の手紙を素っ他人(=私)に晒すなどという、恥知らずな真似ができたものだ。
内心呆れ果てながらも、演技を続けた。
品性下劣な悪女ヅラで笑い、最低の言葉を吐く。
「相変わらず趣味が悪いねえ、月萌の女狐は。
綺麗なお洋服の似合う美少年にはもう飽きたのかい?
だったらこっちに回しておくれよ。舶来ものはいい値が付くんだ。
お互い様だろう、いろいろと『足りない』のは?」
もっとも、この女の『理由』も、理解が及ばぬわけではないのだが。
いつ果てるともなく国を支える重責など担い続ければ……いや、やめよう。
この女も『虚飾』の適合者。哀れみなど向けられたと気づけば、途端に機嫌を損ねる。
そしてだからこそこの女は、私の演技に気づかない。
その下に感情を塗り隠す、表情筋のメーキャップに惑わされる。
見たいものだけ見て取って、のんきにあははと笑って、ミルクティをあおる。
『おあいにく。古今東西アレほど尊いものなどないわ。
足りないのなら、こないだの二人を持って帰ればよかったのに。
それともお口に合わなかった、一ツ星の裾物程度じゃ?
我慢なさいな、『ウサちゃん』たちの譲渡計画はもう詰め終わっているでしょう?』
この女。
センス自体は理解できないでもない。
しかし、根本的なところで相いれない。
そのぶん御しやすく便利な窓口ではあるのだが、それでもときに、奴の失脚を熱望してしまう自分がいる。
「ふん。それもこれも、あれらを仕留められたらのハナシだろう?
あたしたちが流した襲撃時のデータ。せいぜい有効に使ってほしいものだねぇ。
ま、楽しみにしてるよ。あんたらの秘蔵っ子による圧倒的華やかな大活躍をね!」
……だがそれも、後しばらくのこと。
あたしたちが奴らに流したデータには、すくなくともふたつ、大きなウソがある。
ひとつ。カナタの魔擲弾銃とイツカブレードは、ただしく神器である。
いまひとつ。イツカは適性『ソードマスター』を有していない。
私とて『ソードマスター』を持つものだ。剣を合わせてわからないわけがない。
だが、教えない。
この女たちが『すでに飼いならしたもの』と思いこんでいるトウヤ・シロガネや、タラシの青狐もそれを承知のはず。
けれど、口をつぐんでいる。
だからやつらには、わからない。
クリティカルな情報を手に入れることができず、失策を犯す。
金で縛り、しがらみを与え、内に抱き込んだところで、忠誠などは手に入らない。
取引を重ね、間違いなく報酬を寄越そうが、その根本が腐っていれば『それ以上』は得られない。
『あたし』は馬鹿のように、けたたましい高笑いを披露した。
その下で月萌『赤竜』管理派が、静かに崩壊への道を進みつづけていることを知りながら、そんなことなど知らないふりで。
ブックマーク頂きました! ありがとうございますっ!
次回はイツカナ、満を持して手合わせの予定です……誰と?
そういえば魔擲弾銃の名前決めた方が?
若干ユルいですがいちおう一週間切ってます! お楽しみに!




