Bonus Track_37-5 好き放題のツバメとウサギとドラゴンとおれたち~イズミの場合~
2020.10.05
何度もすみません……orz
完成した上級錬成魔法は→完成した上級錬成魔術は
ぷかぷかとハッキングされた→ぷかぷかと、パッキングされた
「てりゃ!」
「ソニック!!」
角を曲がると同時に、ソーヤがダーツを投げ放つ。
後脚を狙った一本はあやまたず命中し、レッドベアの注意をそいだ。
トラオが的確に必殺技をぶつけ、前脚の一撃を弾き返せば、二人の間をとびぬける火箭。サリイさんによる精密射撃だ。
高密度の火球はベアの鼻面で小さくはじける。
視界を奪い、熱さでひるませたところに、すかさずセナの『スタン・ソニック』。
あとは簡単なもので、あっという間にパッキング済みの熊肉と鈍い赤の毛皮が現れる。
いつみてもシュールな光景だ。
「ヒャッホー! 熊鍋! 熊鍋ー!!」
しかしソーヤは大はしゃぎ。サリイさんもノリノリだ。
「シチューもいいわね! 赤ワイン煮込みとかもおすすめよ!」
「もっちどれも作るし!!」
「じゃあもっと狩らなきゃねっ!!」
「よーし、じゃあついでにアレ落とそうか?」
セナが笑って示した方向にはもう、巨大な影が飛んでいる。
ランド・レイ。ダンジョンの空中と土中をゆうゆうと泳ぎまわり、しっぽの毒針と猛烈な体当たりで冒険者たちを仕留め、捕食する恐ろしい存在だ。
救いは、縄張りからあまり出ようとせず、めったに高さ3m以下には降りてこないこと。おそらく、そうして他のモンスターと住みわけているのだろう。
「『スプリンクル・フレア』ッ!」
サリイさんの放つ幾多の炎礫が、ジグザグに突進してくる巨大エイをガンガンと迎え撃ち、その勢いを相殺すれば。
「ナーイス、狙撃――!!」
かいくぐるように駆けぬけたソーヤが、勢いのまま斬り上げる――ズバン。
巨大エイの姿は灰色の光球と変わり、あとにはぷかぷかと、パッキングされた切り身とヒレ。
パパッと回収したソーヤが雄たけびを上げる。
「ヤッホー煮付け! からあげ!」
「お刺身! 煮こごり!!」
サムズアップするサリイさん。めっちゃイキイキしてる。
騒ぎを聞きつけて現れたスカーレットバットを見るや、嬉々として杖を構える。
「あ、手羽が来た! 落とすわよ!」
「っしゃまかせたー!!」
もはやこのコンビ、水を得た魚というのか。
通常ダンジョンを踏破して、隠しダンジョンに突入しても一向に勢いが落ちやしない。
残りのおれたちは彼らの死角の対応と、食材以外のドロップや目的の鉱石をゲットすることにひたすら専念。まもなく、最後の間へとたどり着いたのだった。
「ふあ……いらっしゃい、みんな。
さっそく来たんだね、はいってはいって~」
『迷宮之女主人』。このミッドガルドの最強の四人の一人。
その怒りは災害そのものと伝えられる女神の一人は、きょうもおねむモードだった。
「忘れないうち渡しとくね。はい、トロフィーの鉱石セットとアンクレット。
むそーしまくってた二人にはハンターズ・チャームあげる。いちおう特別の証だから大事にしてね。ドロップもよくなるよ」
「ありがとうございますっ!」
「いやそれでいいんすかっ?!」
声をそろえるグルメハンターズ、そして残りのおれたち。
たしかに以前の戦いで、この女神はトロフィー忘れて帰りかけた。その反省はわかるが……
「だって、勝ってくれるんでしょ?
だいじょうぶだよ、勝てるまでトライしていっていいから♪
全力で頑張ってねー」
「え――!!」
彼女が笑顔で言い出したのは『勝つまで帰れま戦』。
不吉な予感しかしないのは気のせいか。
「大丈夫だよ、ちゃんとふつう通り、一つ首で行くから。
というわけで~へーんしんっ!」
さっきまでおねむだった女神様は、とってもとってもうれしそうにドラゴンになった。
おれとニノは、ハイパーモードのとはいえ、いちど黄金龍と戦っている。
ゆえに、タイミング取り係を務めた。
「くるぞブレス――!!」
「っしゃあ!!」
さすがと言うべきか、皆サッと散開し、ブレスの的を絞らせない。
しかしこれは、シオンが落ち着いて錬成陣を描けない状態だ。
シオンの錬成魔術は一番のダメージソース。何とか決めさせたいところだが、もしもソーヤひとりに連撃が集中でもしたなら、少々きついものがある。
……と、作戦会議でも言われていた。
そのとき、ソーヤは言ったのだ。
『ふっふっふ……実は俺には奥の手があるのだよ! な、シオ!』
『うん! オレが全力で上級錬成魔術打ち込んでも大丈夫になったから、ルーレア様の連撃にもノーダメージで耐えられるはずだよ。
だいたい、S級の神聖防壁3回に匹敵するくらいかな?』
『えっ?!』
『ああーでも、シオと俺にしか使えねーんだよな、まだ』
『うん。いずれはみんなも守ってあげられるように、これからもどんどん鍛えていかなきゃねっ!』
不敵な笑いで詳細を伏せたそれの正体は、一体。
そう思った時にソーヤがよく通る声を張った。
「よっしゃー! みんなおまたせーっ!!
すっかりと場が温まりましたところで、ソーヤさんの必殺覚醒技! 披露させていただきま――すっ!!
ルーレア様、ブレスでも連撃でも、俺たちに向かってお好きなだけオナシャスッ!!」
『えっ、いいの? 二つ首になってもいい?』
「あっ、え、えーと」
あきらかにうれしそうなルーレア様の声に、ソーヤが冷や汗をかきはじめた。
「ソーやん? ファイト!」
するとソーヤにくっついたシオンが、可愛く笑って退路を断った。
「え、えええええ~~~~~~っわかった! やるよ! やりますよっ!!」
「わーい!」
『わーい! それじゃあさっそく!!』
もはや奥さんと子供の尻に敷かれる旦那の図にしかみえないが、それでも技の威力は素晴らしいものだった。
「ぎゃあああ!!『アトリエ・ラパン』ッ!」
迫る黄金の前脚を前に、ソーヤが必死の叫びとともに発動させたのは、ソーヤとシオンを包む小さな『かまくら型障壁』。
ソーヤのグレーのわたしっぽのような、なんともふんわりと柔らかな見た目ながら、前脚、前脚、前脚、かみつき、かみつき、のしかかり、という連撃に耐えた。
『すっごいねえ! それじゃあついでにブレスいっとこうか!』
「み゛やああああああっ?!」
轟音をつんざくのは、テンパりまくったソーヤの悲鳴。
しかし、障壁はブレスを耐えきった。
間一髪完成した、シオンの錬成魔術『超強化』のおかげだった。
つまりシオンは、『アトリエ・ラパン』を行使するソーヤを強化することで、障壁を強化したのである。
「よかった、間に合って。
ソーやんにケガなんかさせたくないものね。
じゃあ、もう一個攻撃の錬成陣書くまでがんばってね☆」
「えええええ?! ちょ――?!」
「♪~」
完成した上級錬成魔術は双頭龍の頭ひとつを仕留め、再びひとつ頭となった龍は、きっちり体力の半分近くを失っていた。
ここで意地を見せなければソーヤとシオンに顔向けができない。残HPはおれたちで極力削り、黄金龍を撃破したのであった。
サラッととはいえバトル三つ(実質二つ)入れるとか、頑張った気がします……!
次回、まったりな感じでノルン鉱山編シメです(予定)。お楽しみに!




