Bonus Track_37-2 『ステラの塔』を見上げて~ヴェール・シュナイザーの場合~
ここはソリステラス国、星都ステラマリスの中心地。
ステラマリス第三基地内にしつらえられた、わたしたちの――チーム『シエル・ヴィーヴル』の専用ラウンジ。
大きな大きな窓から『ステラの塔』が見えるそこで、わたしたちはいつものように、作戦完了後のリラックスタイムを過ごしていた。
……といいたいところだけれど正確には、お皿に山盛りのケーキをぱくつきながらのストレス解消タイムに突入していた。
もっと正確に言うとひたすらマールとリンが食べて叫んでエキサイトしていた。
「あーもーなにあの男ー!!」マールがケーキをぱくつきながら叫ぶ。
「ゆるせない! ゆるせなーい!!」いつもわりと冷静なリンもぷんぷんだ。
「ちょっとかわいかっこよくってちょっとねこみみだからってー!」
「マル姉さまにあ、あんなこと……」
その言葉で思い出すのは、あのちび黒猫やろうが、姉さまにくちびるを奪われかけやがった、あのシーンだ。わたしまで、ぼっと顔が熱くなってしまう。
「姉さまは青キュウビちゃん一筋なのに! それなのに――!!」
「あ、あの~……その件ではイツカ氏は、被害者……」
こわごわながら修正を試みたレムちゃんが、二人の毒牙にかかった。
「ちがうの! あれはあいつのたくらみなの!!」
「そうそう! ああいうのは『誘い受け』っていうものなの!!」
「えっちょっわっ! ギブギブギブ!! だめですから! お茶こぼれますから~!!」
マールにヘッドロックされて、眼鏡がずれちゃうレムちゃん。かわいい。
ぱあっと赤くなってギブギブと腕を叩く。かわいい。
おんなじ眼鏡男でも、あの不愛想キュウビや、あのデコデコ白うさぎとは大違いだ。
でも、今回の成功はあいつらのおかげもあるといっていいのだから、ちょっとは感謝しなくちゃいけないだろう。
不愛想キュウビ――『青嵐公』は今回出しゃばらずにいた。ミソラ学園長の後ろに控え、寡黙なボディガードのようにふるまっていた。
デコデコ白うさぎ――タカシロ家のハギノアスカは巧妙に立ち回り、私たちがつかねばならないようなスキをきっちりと潰し、つけこむべきスキだけを残してくれた。
だから、うまくいった。
『奴ら』の依頼条件を満たしつつ、わたしたちのミッションを成功させることができたのだ。
今回わたしたちが『奴ら』――タカシロ赤龍管理派から受けた依頼は、『イツカとカナタが危険スキルを有していないか、見極めること』。
剣士ならば『ソードマスター』。クラフターなら、シルバー以上のムーンエフェクト。もしもこういうものを持っていることが公になれば、彼らは研究所行き。『月萌杯』は開催できなくなる。
それでは困る、というのが『奴ら』の言い分だ。
対して、マル姉さまは言った。
『あいつらのことだからねえ。実際どうかは、追い詰めて暴かなくっちゃならないね。だがそこらで闘ったら全国にダダモレだ。
高天原学園闘技場に侵入させろ。
そうすればコンディション・イエロー発動となり、人払いがなされる。
我らソリステラス勢の侵入ということで、外部への情報発信も遮断できる。
そうしたら、あたしがイツカナと闘る。
ちょうどイツカと仲の良い後輩の初陣が予定されているね。彼には気の毒だが、そこに乱入させてもらえばイツカは食いついてくる。
言っておくがアンタたちは本番に顔を出すんじゃないよ。確実にキョドってバレるからぶっちゃけ邪魔だ。
なにより余計なのがいるとそれなり残虐行為を働かなくちゃならないだろう? あたしたちは極悪非道のテロリスト、なんだからねえ』
そしてニヤリと悪役スマイルを見せた。
世が世なら、軍人じゃなくて女優になったらいいのじゃないか。いつもながらそう思ってしまうほどの、みごとな悪女っぽさで。
かくして、ああなったわけなのだ。
わたしたちは管理派の裏をかいてエルメスさまを連れて行き、彼らに情報の一端を渡し、無事に脱出することができた。
くやしいけれど、あの黒猫たちが希望の星であることは本当なのだ。
わたしたちでは、祓えない。このセカイの宿命ゆえに、深く深く根付いた『悲嘆』を。
かくして、黒猫の騎士は言ってくれた。それが本当なら、助けに行きたいと。
彼らはやってくれるだろう。
『月萌杯』を制し、月萌から実質の奴隷階級をなくす。
そうなれば、ソリステラス国内のわたしたち、ステラの民の不安も払しょくされる。
最悪は彼らと同盟する、ということをテコに、ソリスの民と対等の立場を確保できるのだ。
そうなれば、道も開ける。
希望の星が、ここに、やってくるのだ。
わたしは窓の外を見あげた。
『ステラの塔』が夕暮れ空をバックに、今日もやわらかな光をともしている。
まるで『だいじょうぶだよ』と言ってくれているかのような、優しい白さに癒されて、わたしはさっきからちっともケーキの進まないジュジュに話を振った。
「元気出して、ジュジュ。『ウサちゃん』もうすぐ、来てくれるよ」
「うん……そうだね。そうだよね。
そうだよ。そしたらきっと、白ウサちゃんとオオカミくんも一緒だよね。ベルもチャンスがあるよ、きっと」
「ふあっ?!」
「あれ? ベルはオオカミくん、気になるんじゃないの?
今日もちらちら見てたじゃん、オオカミくんのこと」
そのとたん、一気にぶわっと顔が熱くなった。
「ちっちがっ! ちがうから! そんなじゃないから!
ただあいつやたらでかいじゃない、だからたんに目がいきやすいとそれだけで……」
「ふ~~~~ん?」
気づくとリンとマール、ついでにレムちゃんまでがニコニコーっとこっちを見ている。
「ほぉーう」
「ふぅーん」
「ついにベルさんにも気になる男性が……!」
「ち、ちが、これはその……
ご、誤解だ――!!!!」
『やんごとなき女性』の正体、ここで明かそうかと思いましたが思いなおしました。
次回はふたたび高天原へと舞台が戻ります。
事態の解決と推理……そしてまさかの事態が起きる予定です。
どうぞ、お楽しみに!




