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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_37 かの国からの、来訪者

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37-4 不意打ち、そして意趣返し!

所用で遅れ申した!

 おれは絶句した。あまりに無茶苦茶に思えたからだ。


 ソリステラス国内にて、とあるやんごとなき女性が、3Sに憑かれてしまった。

 しかし、彼女の治療に反対する者もいて、そいつらは強く、危険な者たちである。

 イツカは言った。『だから、自分で自分の身を守れなければ、その女性のもとに行くことも、そこから帰ってくることもできない』。


 それは、わかる。なんのおかしいところもない。


 だが、『自分の身を守れる』どうか、証明するための条件が無茶苦茶だった。

『マルキアに勝てたら、俺はソリステラスに行く』。

 やつは気でも違ったのかと思った。

 彼女らはおれたちをソリステラスに連れて行きたいと思っているのである。最悪、マルキアがわからない程度に手抜きをしたら、イツカは完全にやつ自身の意志として、ソリステラスに行くことになる。


 しかし、だ。

 すぐにわかった。マルキアは、手抜きをしないと。

 その申し出に口角を上げた彼女の声は、隠しようもなく弾んでいた。

『子猫ちゃん』の成長ぶりは、先の一撃で彼女の手に伝わっている。それをもっともっと味わいたい。その誘惑は、戦闘狂の彼女には抗しがたいものであったのだろう。


 イツカは加速度的に強くなっている。こよみん事件で一方的に圧倒されていた時などとは、もはや比べ物にならないほどだ。

 それでもまだ、マルキアには及ばないのだが――そこで、おれだ。

 

「『卯王の薬園(ラビットキングダム)』!!」


 これまでとはけた違いの速度で、フィールドが緑滴る森へと変わる。

 同時に、イツカの動きが一変。

 地を蹴り、幹を蹴り、枝を蹴り。

『子猫』は木漏れ日のかけらのように、自在に跳ねまわり、きらめく軌跡を宙に残した。


「あははっ、これはすごいねぇ。

 あのときとはもうすっかり別人だ。

 それはあんたもだよ、仔ウサギちゃん。

 こんなド派手な第二覚醒を操るなんてね。

 直に見てますます欲しくなったよ、二人とも」


 そう言いながら、マルキアはまだまだ余裕だ。

 三次元的な動きで襲い掛かるイツカを、笑顔でさばききっている。

 それどころか、さりげない森の草木の妨害や、おれの銃撃すら、まるでわかっているかのようにいなしてしまう。


『シークレットガーデン』の女神クレイズに受けた手ほどきで、おれの第二覚醒もずっと洗練されたものとなっている。

 パワーの無駄が減り、出力が上がった。

 その結果、森を操りながら、おれ自身も戦えるようになったのだ。

 さらには、この森を通じて、中のものがどこにいるか、なにをしているかまでも感じ取れるようになっている。

 というのに、マルキアにはいまだ、効果的な一撃を食らわせられない。なぜか。


「ふふ。考えてるだろ。これでどうして狩れないんだって。

 わかっちゃうんだよねぇ。次はどこを狙ってどこへ飛ぶか。タイミングも強さも、よーく見て、聞いてれば全部読めるんだよ。

 そしたらあとはテキトーに払うだけ。

 ま、あんたたちの速度とパワーじゃ、当たったところで大して痛くもないけどね!!」


 それを聞いて、思い出した。レイジの言葉を。

『ムーンサルト・バスター』のタイミングは、読める。そうである以上、充分な能力があれば、『崩す』ことができる。

 これはもちろん、ほかのシチュエーションにおいても変わらない。


 けれど、グリードが大きなヒントをくれた。

 バニティの力を活用しろと。

 そう、幻術は誤った情報を送り付け、敵を欺くだけのものではない。

 仲間に正しい情報を送るなら、秘密通信を行うこともできるのだ。


 それを可能とするアイテムはもう、おれとイツカのけも耳パーツに輝いている。

 おれはそっと念を込め、『イリュージョン・トランスミッター』と名付けられたそれを起動。イツカの耳に、幻聴を起こさせた。


『イツカ、きこえる?

 今からフィールド内の全員の五感を10秒だけ『殺す』。

 その間、お前にはおれの「森の感覚」を送るから、マルキアに一撃くらわして。

 くれぐれも、勝ってしまわないレベルで。いいね』


 するとすぐ、イツカからの幻聴がやってくる。


『やるっきゃねえな。たのむぜカナタ!』


 おれはひとつ、大きく息を吸った。そうして、声を張る。


「それじゃ、おれもやるとしよう。

 こうべを垂れよ、これより来るは闇の王。

 我ら皆、その姿を見ること、その足音を聞くこと、芳しき吐息を嗅ぐこと、もたらす実りを味わうことあたわず。

 手に触れる頼りとてなく、ただひたすらに惑うのみ。

 それが通り過ぎるまで――『還らずの森の行幸』」


 この詠唱に大した意味はない。ただ、おれがぶつぶつ唱えていれば、どうしてもその声は聞こえる。聞こえれば、聞いてしまう。そうして――

 それが一気に変質する様を聞くことになる。

 そこここに芽吹いた草の葉が踏まれ、音もなく放った、数種類の毒霧のせいで。


 その霧を吸い込んでしまった動物は、短時間だが五感に異常をきたす。

 範囲は、二人が戦っている場所を中心とした全範囲。

 つまりマルキアに悟られぬよう、イツカも巻き込み、下手したらおれもとばっちりをくう形で無差別に散布したのだが……


 森の植物たちを通じて得る『森の感覚』は、そんなものでは曇らない。

 おれの脳裏には、マルキアとイツカのいるその場所の様子が、くっきりと映し出されている。

 それをそのまま、イツカに転送する。

 さすがにおれの負荷も小さくない。その場で動けなくなってしまったが、それでもおれは感じとっていた。

 ふらふらと視点定まらず、ビームサーベルを振り回すマルキアにイツカはまっすぐ肉薄。

 自らの力をまとわせた剣で、光の刃をがしりと叩きつけるのを。


 その時、『行幸』の効果が切れた。

 マルキアはビームサーベルを取り落としかけ、すんでのところで持ちこたえる。

 流石というべきか、彼女は瞬時に自分を取り戻したよう。

 しっかりした口調で、軽口をたたいてくる。


「甘いねえ、子猫ちゃん。足でも斬り払えばいいものを」

「俺が挑んだのは試合だ。殺し合いじゃない。

 ここは、『学園闘技場』だからな」


 イツカもしっかりとマルキアとの間合いを取り直し、小さな笑みの中にも緊張を切らすことなく答える。


「やれやれ。まさか月萌ツクモエではこれが、決着とは言わないだろうね?

 とはいえ、こんなくそ危ない第二覚醒を、ウチでかまされたら困るねえ。

 反対派とはいえ、一応は同じ国民だ。人死にでも出れば、ことは責任問題じゃ収まらない」


 マルキアはちらっとおれを見て笑う。

 そしてビームサーベルの刀身を消すと、高らかにこう宣言した。


「勝負は預けるよ。

 勝ってやることも負けてやることもカンタンだけど、どっちにせよあたしたちの望む結果とはなりそうもないからね。

 次に会う時までには、ピンであたしと対等になっておきな、イツカ。もっともっと楽しみたいからね」

「わかった。お疲れ、マルキア」


 イツカが納刀してほっと息をつく。その瞬間、おれとマルキアは同時に動いた。

 マルキアはイツカのおとがいに手をかけて顔を近づけ――何をしようとしているのかは言うまでもないだろう――おれは二人の顔の間に魔擲弾銃オーブ・ランチャーを割りこませる。

 ぽかんとしてるイツカに代わり、おれは笑顔でお断りを申し上げる。


「15歳の健全な青少年にいきなりそれはどうかと思いますよ、お姉さん?」


 マルキアは妖艶に笑いつつのたまわる。


「『15歳の健全な青少年だから』これでおさめてるのさ。

 ……どっちにせよ『ここ』でこれ以上はできないだろ。健全きわまるVRゲームのセカイだからねぇ?」

「!!」


 言われて気付いた。そう、ここは『ティアブラ』のなか。互いの合意なしには、『今しようとしているようにみえたこと』は不可能だ。

 そう、からかわれたのである。おれとイツカはまんまと。

 意趣返しをきめたマルキアは、高らかに笑いながらその姿を消した。

 もちろん皇女ほかの闖入者たちも、きれいに姿を消していたのであった。

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