36-8 女神の犠牲者、衝撃の告白!
「おーいシャスタさま――!! バトルー! バトルオナシャス――!!」
『ふぉっ?!
ど、どうしたイツカよ、なんかめちゃくちゃ積極的ではないか! クレイズのところでなんかへんなもんでも食わされたのか?!
まあいい、ならば始めるぞ! さあこいっ!!』
「あざーっす!!」
それは『まあいい』ですましていいことなんだろうか。
疑問が湧きあがるが、おあずけくってた戦闘狂どもはすでに戦端を開いている。
『グォォォン!!』
シャスタ様は水龍に身を変じ、咆哮とともに開幕アクアブレスをおみまい。
イツカは大きく跳躍して回避、そのままもうひとつ空中を蹴ってとびかかる。
「『短距離超猫走』!!『居合斬り』!!『ムーンライトブレス』!!」
その跳躍の間にも自己強化、居合斬りで攻撃しつつ抜刀、さらに自己強化。
今回おれは手を出さない。そういう約束だ。
『シークレットガーデン』ではおれが、クレイズ様に森の操り方をコーチしてもらう。
そしてこちらでは、イツカが単独でシャスタ様と手合わせをする。
だがイツカのやつめは、忙しく戦いながら、突然こんなことを言い出した。
「そーだシャスタ様、どーせだから賭けしねえ?」
『おおよいな! そのほうが盛り上がる!
で、何をかける?』
「勝った方がカナタをモフる権利を手に入れる!」
『乗った!』
「ちょっとまてええええ!!」
黒にゃんこ野郎はさらっとおれを巻き込んできた。
よしよし、そういうつもりならおれにも考えがある。
「イツカはさー、自分のバディを別の美人さんにモフらせたいの? そうしてそれをニコニコ愛でるつもりでいるの? うわー。悲しいなおれー。イツカにとっておれってそういうソンザイだったんだー」
「にゃああっ?!」
もちろんイツカは派手に足を滑らせた。
『シークレットガーデン』での特訓は、参加者全員にとって実り多いものだった。
しばしのトレーニングののち、リンカさんに特訓として全員回復してもらう。
採れたてマンゴーと冷たいココナツウォーターでおやつタイムの後に、後半スタート。
アオバとミツルは、人の姿を取ったシャシャさん&ルゥさんとタッグバトル。
もちろん手加減してもらいながらだが、その戦いぶりは熱い。
それはスゥさん&ヴァラさんとミズキ&ミライもそうだ。
前半ではヴァラさんの協力で、ミライが『ルーレアの雷霆』を撃てるように立ち回ってくれていたのだが、どうにも『癒やしのピリピリ』にしかならずに断念。いまは普通にプリーストと聖騎士のタッグとして戦っている。
かと思うとそっちでは、神獣の力を体に宿してみたチナツとクレハがとんでもない速さで木々の間を走り回ってバトルしている。
とはいっても直接殴りあうなんてことはまだ無理ゲーのようで、ポジションを取り合いながらひたすらボムを投げあっている。これはこれでなかなかすごい。
だが、どれもアレよりはおとなしいもの。
リンカさんの強化を受けたサクラさんと、本気のクレイズ様とのガチ手合わせは、冗談じゃなくその場にクレーターを作りまくっていたのだ。
「あー! 俺も混ざりてー!!
なーなーカナター、ちょっとだけ……」
「おまえはあとがあるでしょ? このあと戻ってシャスタ様とバトルするんだから、きっちり休む!」
かくいうおれたちは、安定のうさみみロール体制でそれを見ていた。
が、戦闘狂にゃんこがミーミーうるさかったので、一足先にマウントブランシェ――正確にはシャスタの泉の奥にしつらえられていた、転移のほこら――に戻らせてもらい、放牧したらああなったのである。
イツカは一度は派手にこけたものの、そのみごとなコケっぷりにシャスタ様がフリーズ。
その間に体勢を立て直し、そこからガンガン攻め込んだ。
シャスタ様も圧倒的パワーを大発揮するが、ちょこまか跳ねまくる黒にゃんことはイマイチ相性が良くない。
結果は、辛勝とはいえイツカの勝利。
人の姿に戻ったシャスタ様は、笑顔でイツカの健闘をたたえてくれた。
『ふむ、やはり目覚ましい成長ぶりだな、イツカよ。
いちおう、真のチカラは封印しておるのだろう? それでこれとは。
ハッキリいおう、お前の力量は一般的なα(アルファ)をすでに超えておる。
だが、エクセリオンに届くまでにはまだ、少し間があると言わざるを得ない。
次回は二人まとめてエクストラモードで相手してやるゆえ、コンボを磨いておくがよい。こちらも姉上と二人体制で行くからな。楽しみにしておれ♪』
「マジ?! ダブルドラゴン?! かっけえええ!!
あっでもさ、ここに2ドラ入ったらぎゅうづめじゃね?」
「こらイツカ。レディに対して失礼でしょ。すみませんシャスタ様」
イツカのやつめはおめめキラッキラで身を乗り出したかと思うと、別方向に突き抜けた。
さすがに女神の御前なのでうさみみパンチなしで突っ込んだのだが、やつはむしろ残念そうな顔をしている。ちょっと教育方針を間違ったかもしれない。
ともあれおれがイツカに頭を下げさせれば、シャスタ様は笑って流してくれた。
『くくっ。よいよい。
まったくお前たちは本当に面白いな!
エクストラステージは野外じゃ。めっちゃかっちょいいぞ。
お前たちはエクセリオンとの試合を控えておると言うし、ヒトガタの方で相手するとするか。
まあ、今日はふたりとも疲れたじゃろう。姉上のうちでおやつを食べていこうではないか。
さ、ゆくぞ!』
シャスタ様はさくっと時空の扉を出現させ、エアリーさんちの玄関先へ。
めっちゃいい笑顔のレオナさんたちに案内されて居間に行ったのだが、そこでおれとイツカはフリーズした。
カップルがいた。それも、二組も。
一組は見慣れたあの二人だが、もう一組は『意識しあってるのにお互いそれを隠そうとしていて、でもはたからみたら完っ全にいい雰囲気』というアレ。
そう、前者はフユキとコトハさん、後者はクレハとユキさんだった。
居合わせたナナさん、ハルオミはいつもどおりニコニコしているが、ハルオミのバディである新入生・ハルキくんはげんなりした様子。
おれたちをみるなり、席を立って飛び出してきた。
「あーイツカさんカナタさんー! もーやだ助けてよー!!
まわりじゅうカップルばっかで! 他の人たちは気をきかせてさっさと帰っちゃったし! だけど兄貴置いて帰れないしー!」
おだやかなクラフターのハルオミと違い、活発なハンターのハルキくんだったが、今日は涙目だ。
わーんとすがられてイツカはきょとんと聞き返す。
「って、ハルオミとナナさんもいるだろ?」
「何言ってんですかっ!
あの二人は婚約者同士なんですよ!!
まるで50年連れ添った老夫婦みたいに通じ合っちゃってますけどあれでめちゃくちゃラブラブなんですっ!!!」
「…… えっ」
とうの二人は『えへっ』といったかんじでほっこり笑顔を向けてくる。
さすがのおれもぽかんと口があいてしまった。
となりでシャスタ様はニコニコ笑顔。つまりこれは、彼女の差し金だったということらしい。
『おーよしよしハルキよ、すまないことをしたなー。お詫びにわらわとバトルをする権利をやろうぞ』
「それより彼女下さいっ!!!!」
響き渡る、ハルキくんの心の叫び。
おれはそっと目をそらさずにはいられなかった。
まさかのこの二人です。
世間は意外と狭いもの……。
次回、新章突入。のこり二週間の様子です。
ダンジョンはしごして、あの人が出て、あのメンツも再登場?
盛りだくさんでお送りします。お楽しみに!




