Bonus Track_35<Part.Extra>ゼータク、癒し、食えない奴ら~グリードの場合~
アスカのやつめの提案には、オレも一瞬驚いた。
だが、できないことではなかったし、なによりオイシイ話と思えた。
だから、乗ったのだ。
『豊穣の角』丸呑み作戦に。
普通はこんなことしない(つーかできない)。
それ以上の火力をぶつけるか、継続ダメージ状態にするか、その両方を併用し、削り切るのがセオリー。
ぶっちゃけ奴らなら、それができるはずだった。例えばカナタのラビキンならば充分にやれただろう。
それでも、オレたちをガッツリかませるほうを選んだ、ということは――
悪い気は、しない。
このセカイを変えるのは。そのために、イツカナたちに協力するのは、オレの願いでもある。
しかし、肝心のイツカナの「お願い」は、オレすらぶっ飛ぶしろものだった。
「俺さ、子供んときからずーっとイツカブレードを使ってきた。
こいつはカナタが作ってくれた、世界で一本だけ、俺のためだけの剣なんだ。
だから、たとえどんだけすげえ剣だとしても、他のを使う気にはなれない。
あえて言うなら、こいつをこのまんま、神器にしてやれるくらいの腕が欲しい!」
「おれもです。
おれのクラフトを世界一愛してくれるイツカには、できるならばこの手で、神器を贈ってやりたい。本音を言うとそう思っています。
もちろん、無茶ぶりということはわかっているのですけれど……」
カネかけて手間かけてはるばるミッドガルドくんだりまで来ておきながら、トロフィーにかくもゼータクを言いやがる!
一瞬あぜん。次に、笑えてきた。
『マジかよオイ! あーもーサイコー! オレなんか可愛いレベルじゃねーかオイ!
は~やべー。さすが過ぎんだろオマエらマジ!!』
これをジョーシキ的に解釈すると、もはや笑うしかないごーつくぶりだ。
まずイツカ。『やつのウデは剣の力を究極にまで引き出せるようになる』。
それはまあまだいい。やつは一人、腕は二本、口にくわえても三刀流。そしてどーがんばってもなまくらはなまくらだ。
しかしカナタは、マジひでえ(誉め言葉)。
『やつがイツカのためにと作るブツはすべて神器になる』。こんなんどう考えてもザルすぎだ。『ねがいをひゃっこかなえてください!』の比ではない。
ひっくり返って笑っていたら、オレの『不愉快な仲間たち』が一斉に距離を取りやがった。
『グ、グリがこわれたー!!』
『ちょっなにアンタ食あたり? それともバチでもあたったワケ?』
『壊れた罰当たりはてめえらだろうよ。』
レイジもバニティも安定の失礼ぶりだ。
いつものように憎まれ口をたたきあっていると、オレたちの中で唯一の癒やしの存在がやってきた。そう、ナツキだ。
やつはいつものようにちょこんとオレの前にすわって、もえもえしく聞いてきた。
『えーっとグリードお兄ちゃん、よければ教えて?
いまのって、贅沢言いすぎ、てこと? もしかして、おこられちゃうのかな……?』
『……あー。
怒られるかは、女神サマ次第だが。
まあフツー、神器くれるってんで来て腕が欲しいたァフツー言わねえってコトよ。そっちのほうがぶっちゃけ、ゼンゼン便利だからな。
すくなくっともオレは、そー考えたってコト。おーらい?』
いつもどおり、できるだけ親切に答えてやる。
すると素直なやつは、可愛らしい顔をぱっと明るくした。
『なるほど、そうだったんだね! ありがとグリードお兄ちゃん!』
『ん』
いつものように手を伸ばせば、頭を寄せてくる。よしよしと撫でてやると嬉しそうにさらにニッコリ。
同じ定番でも、こういうのはいい。まさしく癒しだ。
一方で肝心の女神サマは、怒りもしない。どころか、ニコニコ笑ってこんな話を始めた。
「まずはカナタの願いから。
……やっぱりカナタはそう言ったわね。
十年くらい前にね、エルカが来たときも、そう言ってた。そう、先代から聞いていたの。
神器をもらっておしまいではなく、信じる者たちを支えるために、神器を作れる腕こそが欲しいって。
先代はエルカに『プラチナムーン』の祝福を与えたわ」
研究所の長を務める色男の顔が思い浮かんだ。
つねづね食えない野郎だと思っていたが、こんなとこでも斜め上だったとは。
ひそかにあきれていると、女神は確認を続ける。
「ただ、『プラチナムーン』は希少な存在。その力が公になれば、その力を欲するものに狙われることもこの先、幾度となくあるはずよ。
カナタ。その覚悟は、できている?」
「はいっ!」
カナタが勢い込んで答えると、イツカがにししと笑って肩を組む。
「だーいじょぶだって。カナタのことは俺が守るし!」
「むしろお前が一番心配なんだよ。だからこそのイツカブレードなんだし」
「まじか!」
するとはじまる掛け合い漫才。お熱いことこの上ない。
女神もうふふと笑うと次を切り出す。
「それじゃあつぎはイツカね。
剣のポテンシャルを最大限に引き出す祝福。そうしたものも存在しているわ。
けれどそれもまた、リスクを伴うものよ。
手にしたものが、祝福に満ちた剣ならいいけれど、もしも呪いや怒り、絶望に満ちたものだった場合。
しかも、イツカほどの腕を持ったものがそうなれば、鎮圧までに大きな被害も想定される。
最悪、人としての生活は望めなくなってしまうでしょうね」
「まじか……」
イツカが絶句する。そこまでのこととは思っていなかったようだ。
「でもね、抜け道はあるわ。
イツカブレードはイツカを守るためにつくられた、慈愛の剣。そして、イツカはイツカブレードしか使わないと宣言している。
イツカが全ポテンシャルを引き出せる剣を、イツカブレードだけに限定するなら、そこまでの管理はされずに済むわ。
もちろん、監視は必要になってくるけれど……」
「はい、そこはおれが。
見ててやらなきゃ心配なのは、子供のころからのことですから。
幸いおれのことを守ってくれるみたいですから、しょっちゅう近くにいることになりますし」
「それなら、きまりね。
イツカには『ソードマスター』の適性を贈るわ。
対象をイツカブレードに限定するために、『ブラックムーン』の特性も付与しておくわ。
頑張ってね、ふたりとも。そして、二人を支えるみんなも」
女神はニコニコ笑っているし、イツカナもラブラブに笑っているが……ふむ。
そっと見回せば、アスカの白いわたしっぽが、いつになく上機嫌に弾んでいた。
なんと本日もブックマークを頂いております……
ありがとうございます! 眠気が吹っ飛びました!
次回、新章突入。
月萌杯はもう目前。ラストスパートが始まります。
どうぞ、お楽しみに!




