35-4 到着、女神の間!
今回は予約投稿です。
次回は日曜じゅうには投稿いたしたい予定です!
そこからおれたちは、完全にVIP待遇での護送を受けた。
前列中央にならんで立つのは、高天原きっての丈夫さを誇るケイジとユキテル。
単なる盾役には収まらず、手にした剣でばりばりと血路を開いてくれる。
二人の左にはシャシャさん、右にはアオバのダブル長柄もちがスタンバイし、打ちもらしを許さぬ体制を敷いている。
ただ、この奥殿。通路が広いなんてものじゃない。
さっきの広間の三倍は幅がある。まるで、六車線の道路のまんなかを歩くかのような感じなのだ。
ならば、壁に寄れば安全かというと、これがそうじゃない。
壁に彫られた無数の彫像は、すべてがモンスターなのである。
下手に近づけばそのままグサリ。距離を取っていても、何体かが飛び出してくることもあり、これはアクションゲームの最終面か! といった忙しさ。
左から来るものはサクラさんとスゥの格闘少女コンビがガンガン叩き落し、右から来たものはレンとターラさんがバンバン爆破する。
彼ら彼女らに守られながら、チナツとクレハは召喚獣たちの様子を見つつ各種アイテムでのサポート。
リンカさんとミツルのプリーストコンビは、強力な全体魔法をおしみなく連発し、補助と回復に徹する。
しんがりは安定のアキト、ソナー担当のセナが固めているので、背後を狙ってきたものたちはことごとく撃沈されていく。
それをみるおれたちはというと、かれらの真ん中。不思議パワーで羽ばたかずに浮くスゥさんの背中に乗っけられ、ヴァラさんの張ったシールドに包まれて、文字通り護送されていた。
「いーぞ! かっけー!
あーくそ、俺も戦いてー!
なーちょっとだけ! ちょっとだけおれも出して、そんでもってバトらせて!」
「くっ……い、いけませんイツカ殿。わ、我が主の命に、ございますればっ……」
我らがバトル大好き黒にゃんこはシールドに張り付かんばかり。
しまいには術者のヴァラさんに出してー出してーと頼み込み始める。
ヴァラさんはそこそこ身長がある。イツカよりちょっと大きい。つまり、物理的上目遣いだ。これはいけない。おれは急いでやつめをうさ耳ロールにした。
「ごめんねヴァラさん、こいつ無自覚にゃんこで。
あとできっちり教育的指導しとくから」
「ぐはっ!
……い、いえなんでも。なんでもございません。かしこまりましたカナタ殿。
ああ、チナツ様の召喚獣になってよかったっ……!!」
ヴァラさんはほほを染めて謎のつぶやきをだだ漏れにしている。謎の光に包まれた眼鏡の奥は見えない。うん、多分深く考えない方がいい案件だ。
耳ロールのなかでミーミー言ってる戦闘狂を抑え込みつつ、おれはただ、行く手を見据えた。
道はひたすらまっすぐ伸びて、巨大な白金の扉まで、あと50mほど。
ダンジョンというより、戦場としか言いようのないその道のりを、戦って戦って十数分。
ようやくおれたちは、そこへとたどり着いたのだった。
扉の前の小さな広場にたどりつけば、モンスターの出現はぴたりと止まった。
肌で感じる感触から、ここはどうやら安全地帯。
端っこの床面には、光る魔法陣がふたつ。
ひとつは控えの間へ。もうひとつは、外庭につづいているもののようだった。
「ぶあ――!! つっかれた、死ぬかと思ったあああ!!」
「すこし……飛ばしすぎた……」
真っ先に奇声を上げてぶっ倒れたのはチナツ。大きくため息をついたのはクレハだ。
「もーチナチナってば、よべるからって全員よぶからだよ~。
でもうれしかった。ありがとね」
二人をまとめてハグするのはターラさん。
「さ、あたしたちの召喚を解いて。エアリー牧場に戻ってゆっくり休むといいよ」
「いや……頑張ってもらったんだから、ホットケーキぐらいは……食べてってほしいから……」
「がんばる……がん、ばる……」
へろへろしながら根性見せる二人に、六人の神獣たちは大感激。
なでなでしまくり、キラキラのTPが降りまくり。ついでにおれたちまでおこぼれにあずかり回復してしまうハチャメチャぶりだ。
「これがハーレムかっ……!」
いみじくもトラオが呟けば、その場は笑いに包まれた。
「ふーむ。トラっちもお望みだったらおれらでやったげるよー。高くつくけどね!
さてと、そろそろシリアスになろうか。
ちあっちゃんとレンレン、トラっちとサリちゃん。ちょっとの間だけ、お別れだよ。
エアリーさんちで合流しよう。ね?」
あいかわらずツッコミどころしかないセリフをはいたアスカは、すぐにちょっぴりシリアスになった。
名前を呼ばれた四人も一気に真面目な顔になる。
「いってらっしゃい、トラ。
指輪を通じて力を送るわ」
「ああ。すぐに勝って、戻ってくる」
トラオとサリイさんは通じ合った様子でうなずきあう。
しかし、レンはチアキを見て心配げ。
「なあ、チアキ、やっぱ一緒に行くか?」
「もー、レンは心配症なんだから。
だいじょうぶ。僕にはレンがくれたテラフレアボムがあるんだよ!
それにレンが一緒に来ちゃったら、せっかくのアレの意味、なくなっちゃう。
レンはいい子で待ってて。ね?」
「くっそ、さっきのアレはその意味もあったのか……
わーったわーった! ケーキ食いながら待ってるから、なくなんないうちクリアしてこいよ!」
「はーい!」
二組のバディがしばしの別れを済ませると、いよいよおれたちは最後の扉に向き直る。
「よし。
イツにゃん、カナぴょん、扉を開けて。
女神エアリエイルは回復力が強力だ。ここからは、巻きで行こう」
そう、おれたちは先生たちや、アスカからきいていた。
女神エアリエイル。彼女はこれまでの女神たちと違い、強力な回復スキルを行使してくる。
火力がたりなければ、倒しきれずにタイムアウトとなってしまうのだ。
もっともそれ以前に、彼女の攻撃に耐えられなければ即アウトなのだが……
今のおれたちにはいくつもの切り札がある。
そのうえに、このメンツだ。
大丈夫。きっと、勝つことができる。
深呼吸して、うなずきあって。おれとイツカは同時に扉に手を触れた。
ぐっと押せば、すべるように扉は開き、絢爛豪華な広間が姿を現す。
広間と言っても、天井と壁はない。
あるのはタピスリーをかけた柱と、無数の燭台、そして頭上にどこまでも広がる青空だけだ。
長い長いじゅうたんを踏んでたどり着く広間の奥、一段高いところにしつらえられた玉座に座していたのは。
青と白のかわいらしいエプロンドレスの代わりに、白地に金をちりばめた、清楚にして豪奢な装束に身を包み。
青のヘアバンドは、きらめく冠に変え。
とりどりの宝石をちりばめた錫杖を手に、神々しい姿で君臨するエアリーさん――
否、ミッドガルド最強の女神『エアリエイル』だった。




