Bonus Track_35<Root_Green_1> そらのかなたでシュラババンバン!(5)~クレハの場合~
『チナツ? おーい、チナツ?
帰ってないのか……靴はあるのに……』
『いない、いな~い……バーサーカー!!』
『っ?!』
『これなら対戦相手もウケねっ? アゲアゲでバトル開始できんじゃね?』
『ちょ……そのために隠れてたのかよ……』
『にししー』
『ってか、どうみたって『なまはげ』じゃんか、それ…… ぷふっ』
驚き、あきれて、それでも最後には笑ってしまう。
チナツと過ごす毎日は、いつもきまってこんなふうで。
正直思っていた。
これまでの人生で、今が一番楽しいと。
* * * * *
クレイズ様からの特別の寵愛の証は、二つしかなかった。
チナツの召喚チケットと、セナのスキル『アーススイム』だ。
つまり、奥殿の扉を開けられる時間は二時間だけとなる。
アスカからの情報によると、奥殿もまた、ダンジョンになっているらしい。
それを考えると、二時間というのは心もとない。
また、チーム編成にも課題があった。
シャスタ様、ルーレア様の『寵愛』もちには盾役が複数含まれるため、それを中核にパーティーを組めるのだが、セナは遊撃タイプ、チナツは専業クラフター。
おなじ『シークレット・ガーデン』攻略者ということでサクラさんが加わる予定だが、軽装で戦う女修道士ひとりで盾役など、いくらなんでも過酷すぎる。
チナツに神獣を召喚してもらうとしたって、召喚解除などを使う相手がいたら瓦解する。
ルーレア様ルートのパーティーから融通してもらうべきか、それとも。
それらの問題を一気に解決してくれたのは、セナとイツカの人脈だった。
「そういえばケイジとユキテルも、こないだ『シークレットガーデン』いったって言ってた。頼んでみないか?」
「あ、俺もきいたそれ! 頼んでみよーぜ!」
もともと同郷の後輩だったセナ、最近のいろいろですっかり仲良くなったイツカが話をすれば、サラッと予定はまとまった。
ケイジとユキテル。そして、なんとルカさんルナさんも加わってくれることになったのだ。
ケイジ、ユキテルに我がパーティーの盾役として入ってもらい、ルーレア様の祝福を持っているルカさんとルナさんは、遊撃手とプリーストとしてルーレア様ルートチームへ加わった。
かくして、俺たちは過不足なく編成されたパーティーで、第二の道を進んでいる。
先頭を行くのは高天原生きっての頑丈さを誇るケイジとユキテル。
セナが『ソナー』で隠れた敵を探り出してくれるので、不意を打たれることはない。
少女の姿を取った神鳥ルゥさんがしんがりを務め、サクラさんはセナとともに臨機応変に遊撃を。
俺とチナツは、リンカさんの左右について、ハンターたちをサポートしながら彼女を守っている。
とはいえ、リンカさんもそもそもプリーストとして優秀なので、俺たちが身を挺するほどの事態にはならない。
リンカさんが神聖魔法で、俺たちがアイテムでとサポートを分担し、道行きは非常にスムーズだった。
そのせいか、むなしい想像も心をよぎる。
もし俺が、ユキさんとバディになれていたら。ここには、彼女の背中があっただろうかと。
今回、プリーストとしてもクラフターとしても働いてきたナナさんはお休み。
彼女のバディであるユキさんも、一緒に留守番だ。
俺は確かに、ユキさんとは仲間で、友人でもある。
けれど、それ以上では、ない。
俺は専業のクラフターで、彼女は専業のハンター。
俺が主に行っていることは、強化羊毛アイテムの研究開発と雑務。
彼女のメインは、新しく入ってきたハンターの女子たちのフォロー。
どうにも、接点が少なすぎる。
こんなことなら、あの海合宿の日、もう少し頑張っておけばよかったのだろうか。
せっかく、ユキさんがあんなに俺の近くに来てくれたのに。
いや、今はこんなことを考えている場合じゃない。
まずはここを無事にクリアすること。
今なすべきことは、仲間たちをフォローして、ケイジとユキテル、セナとチナツを、三つのルートの合流地点まで送り届けることなのだ。
さまよい始める意識を何度も引き戻し、俺はボムとポーションを投げ続けた。
けれど、その果てに待っていたのは、とんでもないミッション・インポッシブル――
すなわち、クレイズ様からの呼び出しだった。
『ふむ。『アーススイム』『召喚チケット』そして『森のさざめき』『水のさざめき』。
四つ、しかと確認した。
我からは、四時間を与えよう。
ゆくがよい、勇士たちよ。
ただし、チナツとクレハはしばし残るように』
一体何を言われるのか。いやそもそも、なんで俺まで。
俺は現状チナツのバディを務めている、が、言っては何だがそれは便宜上のこと。
より上を目指すならいずれ、チナツは前衛を務められる誰かと組みなおさなければならない――専業のクラフター、それも特化した何かがあるわけでもないゼネラリストの俺では、このさきチナツを守りきってやれないのは明らかなのだ。
もしかして、召喚獣の誰かを人間として入学させ、チナツのバディにしてやるから、お前はバディを解消せよという話か。それなら大いに理解できる。
暗くなりがちな俺は、いつもチナツの明るい笑いに救われ、支えられてきた。
アスカたちの勧めでバディを組み、同室になってからは、毎日が楽しかった。
それを失うのは正直、とても残念なこと。けれど、いつまでもぜいたくを言ってはいられない。……
そんなことを考えていたら、飛び込んできたのはチナツの陽気な声だった。
なぜか、自分の目の前で両手で輪っかを作って俺の目の前にいる。
「いないいなーい、バードウォッチング!
ってなわけで今後ともよろしくな、クレっちゃん!!」
「……へ?」
何があった。いったいどうなった。
さっぱりわからないまま俺は、いい笑顔のクレイズ様にぽんぽんと肩を叩かれ、ニッコニコのチナツに背中を押されて、奥殿門前の間に向かったのだった。
いないいなーい……いな――い!!(オチない)
すんませんたまにアホやらないと生きていかれぬという持病が……!!
次回、チナツ視点の解答編です。お楽しみに!




