35-2<Root_Orange_2> そらのかなたでシュラババンバン!(4)
とりあえず出る話題は、さっきの続き。ハヤトの件だ。
ハヤトは声を荒げはしないものの、たたみかけるようにアスカに説く。
「アスカ。チアキはあんな状態だ。当然やつはいけないし、トラオもサリイさんがいないとなると半分も力が発揮できないだろう。それはお前も同じはず。だから俺が行く。その方が勝つ目が増える。違うか」
「なら、サリイさんに来てもらえばいい。
道中戦って来たみたいだけれど、まだもう少しなら行けるだろう? できる間だけサポートしてもらえれば、あとは何とかする」
トラオとサリイさんは顔を見合わせた。異論がある風ではないが、今は口を出さないことにしたらしい。
ハヤトは反論する。
「俺にはライカのサポートもある。それで充分戦えている!」
「ライカにできるのはあくまでサポート。絶対的にポテンシャルを決めるのは主体である君なんだ。
『エアリエイル』はこれまでの三女神より格段に強いんだよ。そして今の君は格段にぼうっとしている。戦わせることはできない。それは、バディとしてそうしたくないと思う。
一方でおれは、うさねこのリーダーの一人でもある。君の分は、おれがカバーしないと。だから行かなきゃならない。
君の悩みは、おれでは晴らしてあげられなかった。あとできるのは、君が苦しんでいる分、がんばることだけだ」
『あ゛~っ。めんっどくせぇ……』
そのときぶった切るように響いたのは、『強欲』の声だった。
イツカの左腕の腕甲をほのかに光らせ、心底めんどくさそうに言う。
『ンなに気になるんなら奪いにいきゃァいーだろーよ。
婚約? ンなもんどーでもいーだろ。どーせならみどりんも一緒にゲットしちまえ。
正妻ちゃんがゴキゲン損ねるってんなら思いきりよくちゅーぐらいし』
「分解するよグリリン?」
近く人の妻になるであろう女性のみならず、そのお相手までを奪ってこい、相棒が不平を言うならちゅーしとけとかいう、ツッコミどころしかないお達し。
その場のほぼ全員がフリーズした。
ミズキはさすがというべきか、さっとミライの耳をふさいでいるけれど。
一方アスカは腕甲をがしっとつかんですんごい笑顔。
『う、うば……?』
「ナツキ、君は何も聞かなかった。いまのは幻覚だから。なーんにもなかったから。ね?」
『は、はいっ!』
おれの身体をつかって疑問を呈したナツキにむけて超いい笑顔。
そのままハヤトに向き直り、さわやか笑顔で念を押そうとする。
「グリードはとんでもないジョークとばしてくれてるみたいだけど、万が一にも真に受けたらいろいろ吹っ飛ばすからね?
そういうわけでとにかく」
「いや」
しかし、ハヤトはきっぱりとそれを断ち切った。
「むしろ吹っ切れた。
俺にとってのオルカ――フジノさんは、ある意味姉のような存在だ。
奪おうとかは、思えない。
今後、話せなくなるわけでもないからな。
ありがとうグリード。すっきりした。
アスカ、みんなも、悪かったな。
ここまでさぼった分、ここからは頑張る。
行かせてくれるか、ラストバトル」
ハヤトの変化は明らかだった。
狼の耳もぴんと立ち、気力みなぎるいい表情。
アスカはぽかんと口を開けていたが、すぐにほんとの笑顔になった。
続いて蒼の扉がバタッと開き、やり切った顔のレンが現れると、チアキもすぐに笑顔を取り戻した。
レンはまっすぐチアキに向けて歩いてくると、倒れこむように抱き着いたのだ。
「う゛あ゛あ゛~疲れた~! マジに疲れた~!!
わりいチアキ、ちょっとだけ癒して……」
イツカもかくやの甘えっぷり。もはやすがすがしいほどだ。
きょとんとしていたチアキだが、すぐに優しく笑ってレンの背中をぽんぽん。
その気持ちはよくわかる。イツカもたいがい手のかかる甘えんぼだが、そこはわかって組んでいるバディのこと。やはり可愛いと思ってしまうのだ。
「しょうがないなあ、レンはあまえんぼさんなんだから。
よしよし、おつかれさま。だいじょぶだった? シャスタさまに失礼なこととかしなかった?」
「失礼ってかさーもーきーてくれよチアキー。あいつさーテラの試しうちのターゲットとかイツカナのトレーニング相手自分がやるとか言い出すんだぜ! チカラ消耗しまくってこーんなチビになってやがるのに!
だからそこまでならないならたまに来るけどそうじゃなきゃダメだって言って! で、ここに来るための定期券もらってさ!」
かくいうレンもそうとう消耗したのか、またちょっと酔っ払いモードだ。
チアキがひつじミルクのびんをさしだすと、一気にごくごく。
ぷはーっと大きく息をつくと、すこし落ち着いた様子で話し出す。
「あと……お前がラストバトルいくならオレも行かせてほしいからエアリー姐さんにシャスタからも頼んでくれって頼んじまった。
ダメかな。チアキがいいならシャスタも頼んでくれるってことになったんだけど……」
チアキはにっこりして気持ちよく答えを返す。
「レンはさっきまで、いっぱい戦ってくれたでしょ? だからこのあとは僕のばん。みんな、それで僕たちを守ってくれてたんだもの。
……そうだ、それじゃあふたつお願いできる?
ひとつは、シャシャさんがここでチナツと契約できるよう、援護してあげて。
シャシャさんは僕のこと、優しくなぐさめてくれたの。
強いだけじゃなくって、とーっても優しいお兄さんなの!」
「お、おう」
ちょっと照れた、それでもとてもうれしそうな顔をするシャシャさん。
なるほど、さっきのないしょばなしは、チアキを慰めてくれていたらしい。
「もう一個はね、……こしょこしょこしょ」
「マジか! いーぜわかった。ちょっと待ってろ?」
チアキがレンにないしょばなしふうにささやくと、レンはぶはっとふきだす。
そくざに新型テラフレアボム<比翼>を取り出し、ふたつの弾頭部分にいい笑顔で両手を触れて、ぶつぶつと何やら設定し始めた。
ちょうどそのとき、再び壁面に四角い光がともった。
碧の扉と姿を変えたそこからは、第二パーティーのみんなが。
ただし、こんどはクレハとチナツがいない。
嬉しそうな顔でパッと飛び出したシャシャさんだが、ぽかんとした顔で同僚に問う。
「ルゥ、チナツさんとクレハさんは?」
「クレイズさまに呼び出されてイベント中~」
「ええ……」
デジャブを覚える。すっごくデジャブを覚えるが、そういうことなら待たざるを得ない。
というのは、チナツの選択が、この後の何かを大きく変えるかもしれないからだ。
すっかり元気を取り戻したチアキに、明るいごめんねとありがとうをもらいながら、おれたちはしばしチナツを待つのだった。
私も猫ちゃんに癒されたいですっ!(私情)
なんでストックさん、すぐなくなってしまうん……(´・ω・`)
次回、なにゆえチナツが呼び出されたか? が語られる予定。
お楽しみに!




