34-4 最強ウサギ、師匠する!
そしておれたちは、闘技場第二フィールドにいた。
前衛スタートラインには、剣先を合わせたイツカと、トウヤさん。
おれとアカネさんは、それぞれ後衛スタートラインからそれを見守る。
そしてそんなおれたちを、またしてもたくさんの生徒や教職員が見ていた。
「……来い」
「っしゃす!」
トウヤさんが誘うように小さく切っ先を下げると、イツカは勇んで踏み込んだ。
* * * * *
解散して、部屋に戻って、その後のこと。
待ち受けていた武具開発チームクラフターたちには直接。一緒にいない、そのほかのメンツには携帯用端末を通じオンラインで、先の結果を共有した。
すなわち、ミソラ先生とノゾミ先生も、ご指名を受けて試合に出場すること。
バディのいないレモンさんは出場なし。
そして、エルカさんとオルカさんは、出場するとはいっても、とある事情からエキシビションレベル以上の戦いはしないということ。
驚く者もいれば、納得している者もいる。
おれとしてはむしろ、ハヤトの様子が気になるのだけれど、多分いま聞いてもまともな返事は帰ってこない。
そのへんはいったん、棚上げにする他なさそうだ。
イツカがむーんと腕を組む。
「とは、いってもな~……
ノゾミ兄ちゃんとトウヤってさー。さりげに系統違うんだよなー。
ひとくくりで対策、って言ってもなー……」
そう、喫緊の課題はそれだ。
「トウヤはこう、全部速くて鋭くて……それにくらべるとノゾミ兄ちゃんはパワー系っていうかさ……」
「あいつは剣を使って殴っているだけだからな。最近は少しマシになったが」
「へえ、マジかーってわあああ?!」
イツカがぴょんと跳びあがった。
やつの後ろに立っていたのは、噂の張本人のひとり。
「トウヤさん!
どうやって一体いつの間に?!」
「普通に、今」
白く長いうさみみに、自前だというピンクの髪とイチゴ色の瞳。繊細な顔立ち。白と水色の、どこか可愛げのある軍服風がにあう、細い身体。
それでも男で、ついでにおれたちより背が高くて、国内最強の剣士の一人。
トウヤ・シロガネは、まるで最初からそこにいたかのようにたたずんでいた。
ただこの人、思考回路は不思議系である。『普通』ってなんだ。さっぱりわからない。
その不思議系うさぎさんは、いつものようにさらっとノゾミお兄さんをこき下ろした。
しかし、今日はそれに続きがあった。
「あの場で言いそびれてしまったから今来た。
いいかイツカ、あいつとお前のはまだ剣じゃない。まだ腕の一部、身体の一部になっただけだ。
お前はルカの剣を完璧に覚えこんだのだったな。なら今度はそれを俺にやれ。俺を攻略できれば、ノゾミにも勝てる。レモンやオルカと対戦するハメになった場合でも太刀打ちできる」
「マジに?!」
かくしておれたちは、闘技場に移動したのであった。
そうしていま、イツカはトウヤさんにくるくるとあしらわれている。
「よこされたスキだけを見るな、その背後だけじゃ足りん。
さらにその十手先まで展開しろ。
未来の世界で相手を狩れ。そうすればそれが現実となる」
「っ…………!!」
その一瞬。イツカの剣が、トウヤさんの剣をかいくぐる。
ちいさく上がったダメージポップアップ。トウヤさんは会心の笑みを浮かべる。
「止まれ。そのイメージだ。
そこから展開して、できるようにしろ。
俺の動きはレイジにも教え込んだ。奴の都合がつかなければ、ノゾミでもまあいいだろう。
しっかりと覚えこみ、お前の中で全てを展開できるようにしろ」
「お……っす!」
イツカは驚きと戸惑いと、うれしさをないまぜにした様子。
小さく口を開け、猫耳としっぽと両手が、ぱた、ぱた、と不規則に動く。
「おい、なんで俺が『まあいいだろう』なんだ」
「たわけ、お前にはほかの生徒もいるだろうが」
「それはそうだが言い方。」
そんなノゾミ先生との会話も耳に入らない様子。
おれはやつのそばに寄り、気を配ってやりつつも、あの、とトウヤさんに挙手した。
「なんだ」
「一つ質問、というか確認、いいですか?」
「ああ」
「なぜ、十手なんですか。
十手以内で仕留めよ、ということですか?」
「そうだ。
それ以上かけようなどと思うな。常に狩りに行け。
理想は一撃だが、勝つために邪魔ならば、それも捨てろ。
最大を引き出せ。心技体。そして、剣の。
もともとツメやキバをもつ奴らには、難しいかもしれんが」
トウヤさんはふたたび、小さく微笑んだ。
「そういう意味では、お前の方が先んじているかもしれんな、カナタ。
戦う弱者は、つねに強みを最大限に絞り出そうとする。
……俺のようにな」
なぜかちらっとアカネさんの方を見るトウヤさん。なぜか「なるほど」といっておれを見るイツカ。
ていうお前いつ復帰したんだよ。ていうかその目はどういうことだ。笑いかけるとペタン! と黒猫耳が折れた。ちょっと面白い。
「そろそろ俺は戻る。教練があるからな。
では」
そうしていると、トウヤさんは短くそう言って踵を返した。
「あ、ありがとうございました!!」
あわてて背中に叫べば、そこにはもう、なにもなかった。
「それじゃー次はあたしとカナぴょんだねー? ふふふー、軽く爆撃するから味わってね? そのあとは明日の衣装合わせだよー!」
「えっと……あした? 俺たち闘技場でねーけど」
イツカがぽかんとつぶやけば、アカネさんはちっちっと指としっぽを振る。
「何いってるの、きみたちはもう卒業生だよ?
試合を見るだけだって、それなりのものを身につけないと!
アイドルはいつもアイドルなんだから。座り姿の映えるとーってもかわいかっこいいスーツを作ってきたんだから! そういうわけでいくよー、ロリポップ」
「ちょまっぎゃあああ!!」
「待ってくださいアカネさわあああ!!」
いやそれ、衣装合わせだけでいいよね?!
そんな叫びは、ピンクの甘ロリツインテにゃんこ少女(どうやっても少女にしか見えない)の日傘から降りそそぐ、凶悪な攻撃にあえなくのみこまれたのであった。
作者は未来の世界といったら猫型ロボットしか浮かびません。
次回! 研究パートが来る予定! お楽しみに!




