34-3 『ずっ友(とも)』たちの作戦会議?
「現在その位にあるエクセリオンは五人。
『月萌杯』には、イツカとカナタだけで出場する。
そうなると、初戦と決勝戦をバディ戦で闘うこととなる。
しかしここで、策がある、というわけだな」
ノゾミ先生が腕を組んでおれを見、水を向けてくれた。
ここは学長室併設の会議室。
円卓にはエクセリオン・もとエクセリオンをはじめとした有志が勢ぞろい。
そんな壮観な場で、おれはイツカをともない、壇上に立っていた。
とはいえ実際のところ、ここにいるのは全員『ずっ友』だ。
おれはとくに緊張することもなく話を始める。
ホワイトボードに板書しながら、かねてより考えていた作戦を開陳した。
「はい。結論から言うと……
『第一回戦をエクセリオンどうしがバトルする流れにし、直後に第二回戦を開始、おれたちがシードで戦う』
この形にできれば勝算はないでもない、と思うんです。
異例ではありますが、可能と思う理由もあります。
エクセリオンのバトルを見る機会は、かなりレアであること。
そしておれたちの台頭で、明るいエンタメとしてのバトルを求める風潮が高まっていること。
これらにより、エクセリオン同志のバトルは確実に多くの観戦者、ひいては投げ銭を集めることができるからです。
ただまあ、せこい方法ではありますけれど」
ノゾミ先生が大きくうなずく。
「問題はそこだな。
せっかくΩ制度撤廃という歴史的・英雄的な目標を掲げていても、手段がせこければたちまち味噌が付く。
誰の言葉だったか。『王の道は隅々まで正されていなければならない』。
おぜん立ては俺たち『村長』がいくらもしてやる。お前たちはまっとうに力をつけ、王たる者の道を、まっすぐに進め」
「……はい」
そんなわけで、おれの策はお蔵入りした。
かわりに進み始めるのは、こんな話。
「だが、たまにはこうした場で華々しくぶちかましたくもなるな。
それとも、そんな気概はもうなくしたか、『青嵐公』?」
「ずいぶんとあからさまに挑発してくれるものだな、『月閃』。
いいぞ、お前が望むなら、俺の秘蔵っ子たちの前座ぐらいは演じさせてやる」
かたやピンクの髪に、繊細な顔立ちの白うさぎ男トウヤ・シロガネ。
かたや黒髪眼鏡の不愛想キュウビ――ノゾミお兄さん。
最強剣士の呼び名も高い二人が不穏に不敵に笑いあえば、アカネさんがニコニコ顔でまぜっかえし、ミソラさんも笑って応じる。
「あーあ、ラブラブモードはじまっちゃったー。
どーするミソラちゃん? 逆さづりいっとくー?」
「ふつう学長としては、止める場面だけどね。
今回はいかなきゃ、示しがつかないよ。
わかった。わたしたちバディも、出場する。
誰より信頼できる軍師が勝てる勝負と判断したんだ。ここは獲りにいかなきゃね?」
「そーこなくっちゃ!
せっかくの新技、試せる人がいなくってタイクツしてたんだ~。
よろしくねミソラちゃん!」
「せっかくだし楽しもうね!」
「………………」
見れば、最強剣士二人がどこかひきつった顔でそんな二人を見ている。
なにか、覆すことのできない力関係を見てしまった気がする。
だが、そんな空気は余裕の声で一変する。
「なるほど。それが許されるなら我々も、わがままを言ってみていいかな」
エルカさん、オルカさんが通じ合った様子で言い出したことに、おれたちは驚愕した。
「……で、つまり。
俺たちは実質、『ハイキャビ』か『スノブル』のどっちかとハンデ戦すりゃいいってことになるわけなのか?」
前者は『はいぱーキャビット!』。後者は『Snowy Blue』。それぞれ、アカネさん・トウヤさんバディとミソラさん・ノゾミお兄さんバディのことだ。
それを口にするイツカは、きつねにつままれたような顔をしている。おれも同じ気持ちだ。
いや、たしかにそれはありがたいし、とてもめでたいことではあるのだけれど。
「なんだ、ガチでいいのか? 俺はいいぞ、お前となら楽しめそうだし」
「いっいえ! それはまたいずれゆっくりということで! ね、そうだよねイツカ!!」
バトル大好きにゃんこが余計なことを言い出さないうちに、おれはやつをうさみみロールにした。あぶなかった。
今から研究して鍛えて、ガチでなど。ピンでも厳しいだろうに、彼の後ろには新技を試したくてうずうずしてる爆裂プリーストがいる。逆立ちしたってかないやしない。
せっかく『おれたちの手を汚さずに』ととのえられたおぜん立てを、好奇心からフイにするほどおれは馬鹿じゃない。
「そういえばカナタは幻影士の素質があるそうだね、もしそうならば……」
と思いきや、エルカさんまで乗ってきた。一難去ってまた一難とはこのことか。
ツッコミを入れるのはノゾミお兄さん。オルカさんは鷹揚に笑っている。
「おい待てお前、さっきの言葉はどうした。
ったく、何だって俺の周りには戦闘狂ばかり集まりやがる……」
するとトウヤさんがガタッと立ち上がった。
「なんだと、聞き捨てならないな。
そんなに歯ごたえのあるやつをお前ひとりで抱え込んでいるのか。どうして俺に紹介しない」
「レイジとはもう手合わせさせただろうが!
その次がイツカ。隠れ次席でエルカ。
で、お前が断トツの筆頭だ!」
「……………… マジか」
トウヤさんはしばらく口を開けたまま固まっていたが、やがて呆然と問いかけた。
ノゾミ先生が円卓に突っ伏し、会議室は爆笑に包まれた。
「ま、そーゆーわけで。
どっちに転ぶにしても、イツカナちゃんはハンタープリーストバディ対策をすすめる!
それで行けばいいってことだよ。
あたしたち全力で、応援するからね?」
やがて笑いがやめば、レモンさんが笑ってまとめてくれた。
残された時間は、一か月。余裕を見るならば、使える期間は二週間と言ったところ。
これまで以上に全力の日々が、ここに幕を開けたのだった。
みんな自由に生きている(遠い目)
ブックマークありがとうございます! 勇気百倍です!!
次回、いよいよ対策開始。
いや、本当に勝てるのかこれ……どうぞ、お楽しみに!




