33-7 卒業試験~発動・『グリーン・レクイエム』~
「第二覚醒は仕上げてきたのか、イツカ」
双方定められたスタート位置に立つ。
先生の、最初のひとことはそれだった。
イツカは陽気に不敵に笑う。
「へっへー。
もらってくれんだろ、センセ?
俺の、俺たちのちょーウルトラスーパーすっげえ必殺技、さ!」
「ああ、もちろんだ。
おまえたちが撃てたら、な?」
そのとき先生はすでに、『青嵐公』の顔になっていた。
「お前らの全てで来い!
天下に知らしめろ、お前らの本気を!!
俺の全てを継ぐにふさわしい存在と、いまここで証明してみせろ!!
――勝負!!」
生ける伝説。眼鏡の死神。無敗の知将『青嵐公』。
数々の尊称をほしいままにした歴史的プレイヤーがいま、おれたちに宣戦布告した。
銘刀『青嵐』を腰から抜くと、微かな青を宿した銀刃を、おれたちに向けてくる。
「――っしゃあ!」
「よろしくお願いします!」
イツカも『イツカブレード』を抜きはなつ。根元から先端まで、青いラインのはいった刀身がキラリ、明るすぎるほどの照明をはじく。
続いておれも、右の魔擲弾銃を抜いて掲げた。
フィールドの中央、ふたつの剣先が合わさって、澄み切った音を立てる。
その音が消え去るころ、始めの合図とゴングが響いた。
「『卯王の薬園』!」
タン、とクレイコートに足を鳴らせば、おれたち三人の周囲に萌え出ずる緑の森。
イツカが走る影のように斬りこむ。『青嵐公』が柳でも払うかのように受ける。
小さな森の成長を待たずおれは、魔擲弾銃をイツカの背中に向けて三連射した。
まずは普通の強化弾だ。ヒット、ヒット、ヒット。強化をあらわす虹色のエフェクトが景気よく重なる。
『青嵐公』は『精気収奪』を発動、その強化を奪い取ろうとするが、イツカの左腕で黄色く輝いた腕甲がそれを阻んだ。
イツカの頭上に、黄色いポップアップが上がる。
Passive skill! Skinflint!!
見慣れぬスキル名に、実況解説が入る。『守銭奴』。イツカらが従えた3S『強欲』のスキルのひとつ。『精気収奪』に抵抗するものである、と。
もちろん先生はこれの存在を知っている。今のは、おれたちのお披露目としてのサービスムーブである――半分は。
「カナタ。この森は幻影だな?」
「ばれました?」
「それは、あれだけたっぷりと幻影を食らえばな」
そう、『青嵐公』は、おれが展開する『卯王の薬園』のパワーを奪ってしまおうとしていたのだ。うん、なさけよーしゃない。
おれは森の姿を消した。
「お前は着々とエルカに似てくるな……いや、こちらのハナシだ」
『青嵐公』はため息をついた。
大丈夫。ニッコリ笑ってサラッと流す。
「そうなんですか? 光栄です。
後で詳しく聞かせてくださいね?」
こんな会話をしながらも、『青嵐公』は的確にイツカの猛攻を防いでいる。正直、格の違いが浮き彫りだ。
これ、本当に合格できるんだろうか。ちらっと不安も心をよぎる。
いや、だいじょうぶ。今やっているのは、あくまで試験。殺し合いではない。
この人が認めてくれた全力を、ただ迷わずに、出し切ればいい。
「神聖強化!」
イツカとおれに神聖魔法。イツカの背にFMP弾を撃ちこむ。
強化、回復、強化。まずはイツカを徹底支援だ。
今日はレイジは一歩引き、ひかえめなサポートに徹してくれることとなっている。
つまり、おれがあぶなくなったら守ってくれるということだ。正直なところありがたい。
おれとイツカの間あたりでフワフワと飛ぶレイジの姿に目をやると、おれはふたたびイツカにFMP弾を打ち込む。
『青嵐公』もあわせて『日精月華』で自己強化。二人の動きがどんどん速く鋭くなっていく。
追いきれなくなる前に自分もいれて神聖強化。よし、ハッキリとらえられるようになった。
おれたちは控室でミルクゼリーポーションを飲んで、というか食べてきた。その強化効果はゆっくりと、確実に発揮され続けている。
というのに、『青嵐公』のパワーときたら、二人がかりのおれたちでも追いつけない。
イツカはいまだに、強攻撃を受けるたびごと、『強欲』に衝撃を吸収してもらってしのいでいる状態だ。
それでも、まともに受けるばかりではない。
ときに『0-G』も使い、しっかり回避もしてダメージを抑えている。
少しずつ、少しずつ。できてきた。流れが。
頃合いだ。イツカの背に、合図のFMP弾を。
今回は、メロンの香り。
イツカの尻尾が小さく振られる。よし。
「それじゃあそろそろいきますね。
『忍び寄る緑の鎮魂歌』」
発動の瞬間『青嵐公』の姿は、全周から押し寄せる森に呑まれた。
一瞬消えたかと思って焦った……
次回決着。イツカの第二覚醒が来ます。
どうぞ、お楽しみに!




