33-5 『月萌杯』への最低ライン
押忍! いつもより早いですがなぜか仕上がりましたので、投稿してしまいます!
夕食の後はいったん解散。
ヴァルハラフィールド内の集会室にて、ノゾミ先生をまじえてのオリエンテーションが九時からはじまった。
最初は先生による講評。うれしいことに、けっこうな高評価だった。
「まず総評。よくやった。卒業試験合格に値するレベルだ。
正直なところをいえば、楽しませてもらった。
金曜日も、このラインを下回ることのないように。
高密度圧縮メガフレアボム。3Sたちとの連携。二人の防具のアップデート、武器の調整、そして新戦法と必殺技。
よくぞたったの数日間で仕上げたものだ。
これを徹夜を挟まずにやれるようになってもらえればな」
「そんなぁ~、……」
「っでも先生、俺たち授業もあるし!」
こういうときはチナツとレンがコンビで軽口をたたくのがパターンだったが、レンは今絶賛シリアスモードだ。ゆえに今回は、チナツのあとにはアオバのフォローが続いた。
対して先生は優しい笑みを見せる。
「その腕で全員、早くプロになれということだ。
まあ、なったらなったで研究も学習もいっそう必要だけれどな?」
「うおおお、めっちゃほめられてる!! ほめられてるよみんなー!!」
「あざ――っす!!」
集会室内の雰囲気はいっきにアゲアゲになった。
そう、頑張ったのはクラフターばかりではない。
忙しいなかテストバトルに何度も付き合ってくれたハンターたち、かれらに何度も強化や回復をかけて支えてくれたプリーストたち。
今回のプレテスト合格は、そんなみんなの努力が、確実に実っているという証なのである。
チナツはそれを、明るく盛り上げてくれた。ノゾミ先生の笑顔も、大きなものになる。
しかし先生はすぐ、こほんっとせきばらい。眼鏡と表情をリセットして続きにはいる。
そのまんまでもいいのに、と思いつつおれは、その言葉に耳を傾けた。
「次に、個別講評。
カナタ。装備やアイテム、3Sたちのチカラをよく使いこなしていた。
神聖魔法、覚醒技、幻術、銃の扱い。すでに卒業生の平均すら超える戦いぶりだ。
幻術の行使と維持はバニティによるものだが、あれだけの作戦を展開できたということは、お前自身にも幻術士としての適性があったということだ。今後ともぜひそこは伸ばしていってもらいたい。
ただ一つ気になるのは、かなり消耗が大きい戦い方であったということ。
身の内にナツキを宿し、バニティに幻術のあれこれを任せているとはいえ、ひとつバランスが狂えば終盤のようになってしまう。
おなじカテゴリのエルカならば、確実にそこをついてくる。
今後は、今回の戦果をラインとして、より耐久度の高い戦法にシフトすることを考えていった方がいいだろう。もしくは、より攻撃力を爆上げするか。それは、おまえたちの判断にゆだねる。
だが、あの『ムーンボウ・サンクション・アクセル』は見事だった。クラフタークラスでダメージを通してくるとは、なかなか新鮮だったぞ。
できるならば本番でも味わってみたいものだな」
ノゾミ先生が一瞬『青嵐公』の顔になる。
小さく胸板に手を触れて、おれのキックを思い出している様子。
いや、なんでそこでそこはかとなく色気が漂うんだ。そっちにいっちゃいけないだろ。
ほら、女子たち(ちびバニティ含む)が見とれてるし。テンション爆発したちびレイジがちっちゃな羽根でくるくる飛び回ってるし。
ソーヤとかハヤトとかイザヤとかユウ、ついでになぜかトラオまでがなんかちょっと恥ずかしそうだし。
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散」
「イズミだからがちうさフォームで俺を殴らないでっ! 萌え殺す気なんですかそうですかっ?!」
イズミとニノは毎度のどつき漫才になってるし。
「そうか……。ノゾミ先生は、蹴ればいいのか」
「ちょっと待てセナそれ違う!! それ絶対違うから!!」
セナは清楚な顔のまま何かを誤解しかけ、アキトが必死で軌道修正試みてるし。
「わー、のぞみんせんせーなんかえろーい!」
「えっろーい!」
「ひゅーひゅー!」
アスカとチナツとライカがまぜっかえすのはいつも通り。
リンカさんに笑顔でまとめて制裁くらうのもいつも通り。
「……?」
「だいじょうぶだよ、みんなはまだわからなくってもいいからね」
きょとんとしているのはミライとシオン、ナツキとチアキとハルオミ。まとめて優しくフォローするのはミズキだ。正直おれもそっちがいい。
「あーほらほら、みんなおちつけ――!
そのネタはあとでじっくりやろうな! まずイツカの分きいとこーぜ!」
そこへぱんぱん、と手を叩く音と明るい声が響いた。
名軌道修正役のアオバお兄ちゃんに、ミツルとクレハ、おれの感謝の視線が注がれた。
なお、なんか笑顔のイツカとゴロ寝状態のグリードは何考えてるかわかんなかった。謎野郎が増えてしまったようだ。
そんなこんなでフリーダムな連中が一応鎮まると、先生はアオバにひとつ微笑み、イツカのぶんの講評を始めた。
「いつもすまんな。
ではつぎに、イツカ。みごとに課題をクリアしてきたな。
高速移動時の反撃への弱さもしっかり克服されている。きちんと身体がその速度に対応しているし、基礎をがっちりやったことで受けや返しの厚みも増した。
ここまででもう安心して卒業させられる出来だ。
『ダブルハイパー・ムーンサルト・バスター』はよく仕上げられたな。ダブルハンターバディでもそうそうやってこないぞあんなのは。
あれを最大限活かすなら、イツカブレードはグレードアップした方がいいだろうが、時間的に難しいだろう。今回はもたす方向で行くことを俺としては勧めたい。
レイジの武装はもうすこし重めにしてやった方が安定すると俺も思うがな」
さすがに、先生はちゃんと把握してくれている。
いまイツカブレードをいじるなら、おれかアスカがやることになる。
各種構造計算・設計素案はすでにフユキとシオンがやってくれてはいるが、そもそもイツカブレードが何度も強化されており、これ以上となるとそれなり時間とレベルが要求されてくる。
しかし、おれは金曜までの間に実戦面を仕上げねばならないし、イツカとおれのメンテもやはり、最後に手を入れるのはおれだ。
その関係で、アスカにはチーム全体の監修について、すっかり甘えてしまっている。
徹夜はなし、と釘を刺されてしまった以上、イツカブレードはこの期間にはいじれない。
……などと考えていれば、先生はまた小さく笑顔を見せていた。
「俺と斬りあいながら、カナタの必殺の道筋を作ったところは、感動したぞ。
あの部分は手加減ではなかった。お前たちの気迫と連携がもぎ取ったヒットだ。誇ってくれ。
3Sたちとの連携もよくやれていた。お前と、レイジとグリードとの相性はやはりいいようだな。見ていてまったく危なげがなかった」
わーいとよろこぶちびレイジ。ちびグリードはそこであいかわらずダルそうにそっぽむいて寝転がっているが、ちょっと照れくさそうにほっぺたをかいている。
笑顔になる講評と、笑顔になるちび3Sたちの様子。
それでも、そこで終わりでないのはわかっている。
「だがイツカ。わかっていると思うが、それでも課題は残されている。
第二覚醒。本番ででもいい。成し遂げて見せろ。
『月萌杯』に挑むなら、それが最低ラインだ。いいな」
もしかしたら、今回の勝利で、地味にハードルが上がってしまったのかもしれない。
「わかった、センセ」と言葉少なに答えるイツカを見ながら、そう思った。
ひょ、評価とブックマークを頂いておりましたっ!
ありがとうございます!!;;
今回は予告詐欺にならなかった……次回はたぶん試合スタートまでゆけるはずです(予測)。
どうぞ、お楽しみに!




