33-3 最優先で取り組みたいこと!
所用で遅くなり申した!
大丈夫です、元気ですよ~!
夕食までの間は引き続き、自室で体を休めておけとのお達しを頂き、おれたちは先生たちとミライと別れて寮室に戻った。
まずは、ミライが用意してくれていたお風呂に。
五ツ星寮の個室の浴室は広いので、今日は二人でさっと入ってしまうことにした。
お湯に浸かったイツカがしみじみ言うには。
「はー。ウチ建てるとしたら、風呂はでっかくなくちゃだなー。
ひとりより二人。ふたりよりみんなでワイワイだろ。
そうだ、いっそ俺風呂屋になろっかな?」
「でかすぎだろ!!
でも、そうだね。星降園のお風呂、楽しかったよね。
……全部終わったら、帰れたらいいのにね」
「だな……。」
期せず、しんみりとしてしまった。
αは原則、高天原に住まうことになっている。
機密保持のため。そしてこの高天原が、ソリステラスとの戦いの最前線であるために。
だから、いまのおれたちはもう、短期の『里帰り』しか、できないのだ。
イツカはお湯の中、ぐっとこぶしを固める。
「Ω制度をなくして……戦争を終わらせて。
そしたら、全部解決だ。
平和になって、機密も、身分制度もなくなったなら。
帰れるさ、俺たち。
ほんもののジュディたちとも、笑って会えるだろ」
「……そうだね。
そんな未来を実現しなくっちゃだね、おれたち」
どちらからともなくこぶしを打ち合わせれば、胸の底から勇気がわいてきた。
「よーし、カナタ笑った!
んっじゃ俺先出るから! 風呂上がり牛乳一番乗りー!!」
するとイツカはうれしそうにざばざばと、風呂から上がっていったのだった。
なんだよその一番乗り。ツッコみながらおれも、笑って後を追った。
* * * * *
風呂上がりの定番、冷たい牛乳をきゅっと一杯。
部屋着に着替え、ソファーにかけて、携帯型端末のスイッチをON。
掲示板ブラウザを起動して、思った。
シオンはやっぱりプロだった、と。
われらが<うさねこ>掲示板には、すでに昨日時点でプレテストについてのスレッドが立ててあった。
そしてそのヘッダーには、プレテストを見ての感想、メモ書きレベルでもいいからバシバシ書き込んどいてね、あとで整理します! とのただし書きがついていた。
おかげでそこには、クラフターをはじめ、見学していたみんなの生の声がいっぱい。
クラフター連中が爆睡中で、改良案をすぐには話し合えないこの状況で、これは正直言ってありがたかった。
いつもならもうまとめが提示されてる頃合いだったが、今日はまだ。
シオンがまだ、起きていないのだ。
たまにはおれが、かわりに整理を……とチラッと考えたが、多分これ、シオンなら10分かからない。そして確実にクオリティも上だ。
いまはおとなしく、スレッドを流し読みするだけにとどめておいた。
気になったのはやはり、イツカブレードの強度を心配する声。
そして、おれの戦い方の変化についてだ。
進化がすごい、作ったばかりの新型メガをよくぞ使いこなしてくれたとの嬉しい声もあったが、心配する声もあった。
それまでのおれの戦い方は、アイテムを駆使し、イツカと助け合う『ふつうにクラフター的』なもの。
しかし、特に今回は、神聖魔法、第二覚醒、ナツキと『虚栄』によるブーストと、全く異質な要素がつめこまれまくっていた。
そして、そこまで意識はしていなかったけれど、おれ本人への負担も格段に大きなものに。
最後、バニティのチカラで無理やり踏ん張ったときには、二つの意味で鳥肌が立ったとまで。
リンクを張られていた動画をチェックしたところ、イツカの胸に倒れこんだおれはひどい顔色。
駆け込んできたミライたちが、大急ぎで回復をかけていた。
いそいでおれから分離したナツキは涙目。バニティのブローチの輝きも、なんだか済まなさそうに暗くなっている。
そして、おれを抱えたイツカの顔は。
これは、よろしくない。
おれに言われて力を貸しただけのナツキやバニティたちに、そんな思いをさせるのは。
ミライたちに、心配をかけるのも。
今は向かいのソファーでくつろいでいる、フリーダム猫野郎をあんな顔にさせてしまうのも。
「ナツキブースト始まってから数秒だよな、カナタが完全はらっぺらしモードになったの」
「内容は正しいけど言い方さ……」
「いやだってお前腹なってたぜ」
「うそまじっ?!」
「や、かなり近くにいなきゃ聞こえなかっただろうけどさ」
「うさぎにこの程度の距離関係ないからっ!」
そう、少なくとも旧『うさぎ男同盟』のメンツには、確実にバレバレだったということだ。
アスカ、そしてその肝いりであるライカにネタにされるのは確定だ。
くそう。これは大問題だ。最優先で取り組まねばならない。
「ゼリーポーションよりも効果時間を長くするか……もっとすごいポーションにするかなあ……
それとかあらかじめ、おなか一杯食べとくとか……」
「何その幸せ大作戦!!
しかもナツキ用だから、コトハちゃんの手料理だろっ?」
「…………………… やっぱやめとこっか」
コトハさんのつくるものはみんなおいしい。
ソーヤの料理が『世界のグルメ街道まっしぐら!』なら、コトハさんのは『ただいまを言って食べる、おうちごはん(極上)』というかんじ。
だからおれも正直、ぐらっと来たのだが……
ふさ猫しっぽをかかえてやきもちをやくフユキの姿が浮かんだ。
フユキがそうそう私情をむき出しにするとは思えないけれど、それでも人間だ。
つきあいたての一番しあわせなこの時期を、大事にしてやりたいのもまた人情。
もちろん、バニティの力でナツキを欺き、コトハさんの料理を食べていると思わせるような外道は論外だ。
「っとか、一口シリーズのちっちゃいのを奥歯のとこに仕込んどくとか。加速装置みたく」
「いつのマンガのネタだよそれっ?!」
おれもたいがい中学生らしくないけど、一体おまえはどこから仕入れたそのネタを。
ツッコミを入れていれば、メールがきた。
学食行かないか、という。
それも、噂をすればなんとやら。フユキからのものだった。
気付いたらなぜか風呂に入っていた……ホワイ?!
次回は学食でのおはなしです。
まぼろしのミルクポーション復活なるか? お楽しみに!




