32-3 森、お届けします~うさぎ王子の宅配サービス!
間違えてエッセイの方に投稿するという痛恨のミスを……!!
お詫びして再投稿いたします。お知らせいただきありがとうございます!
「んではー。
ちょーコラボなショーバトル企画大成功! および!! 数多くの仲間たちの昇格!
そして今後より一層の活躍を祝しまして――!!」
「かんぱーい!!」
そして、土曜のお昼時。
ヴァルハラフィールドに設けられたパーティー会場は、たくさんの乾杯であふれかえった。
たくさんのお菓子や料理。器楽や歌の披露。話芸やマジックを披露してくれる生徒もいて、パーティーは大盛況。
それでも、しばらく宴を楽しむとおれたち三人はログアウト。
タカヤさんが運転し、レモンさんとライムが同乗する、この車内に『戻って』きた。
そう、おれたちはこれからお仕事なのだ。
星降町ハートホスピタルへの慰問。
ソナタもちょうど術後一か月だし、はじめてのリアル外遊びをご一緒するには、いいタイミングだ。
「おかえりなさいませ、カナタさん」
やさしいライムの声を聞きながら目を開けると、見えたのは以前目にした『あの』景色。
「ちょ、ラ、ライム?! あのっ、いつの間にっ?!」
いまのおれの状態を一言でいえば、ひざまくら状態である。
嬉しいか嬉しくないかで言えば、当然嬉しい。
けれど、一体いつの間に。
「さきほど、カーブで体が倒れてしまいそうでしたので、とっさの判断ですわ。
ね、お姉さま?」
「うんうん、ほんとにそれだけー。けっしてこっそりモフモフしたかったからじゃないよー?」
レモンさんはとみれば、右にイツカ、左にミライをひざまくらしてニコニコだ。
ちなみに二人とも真っ赤になってあわあわしている。
おれは思わず突っ込んだ。
「えーと、その場合、右手に持っているブラシはなんのためでしょうか?」
「身だしなみは大事だからね!」
「そうですわカナタさん。
カナタさんのブラッシングは終わっていないのですから、まだもうすこし動かないでくださいませね?」
「い、いやでも、重いよね?」
「大丈夫ですわ、わたしこれでももとエクセリオンですもの♪」
「運転手も……運転手もぜひっ、身だしなみを気にしたいのですがっ……!!」
そのとき運転席から、タカヤさんの心の叫びが聞こえた。
そんなこんなで、ふたたびの星降町、ハートホスピタル。
車を降りたおれは仰天した。
出迎えにきてくれた人たちの中から、ソナタが飛び出してきたのだ。
それも、まっすぐ走って、ぱふっとばかりおれの胸に飛びこんできた。
一か月前までは、長い時間歩くことすらできなかったソナタがだ。
おれはおもわず確認していた。
「えっ……これ。リアルだよね? ティアブラじゃないよね?!」
「ほんものだよ、お兄ちゃん!
ソナタもう、走れるようになったんだ。歌っても踊っても、大丈夫になったよ!」
腕に伝わる重み。弾む息遣い。きらきら光る紫の瞳に、小さく乱れた空色の髪。
そして、胸元からとことこと伝わる、かわいらしくも力強い鼓動。
ああ、ほんものだ。ソナタはほんとうにすっかり、元気になったのだ!
うれしくていとしくて、俺はその小さな体をぎゅうっと抱きしめた。
「あ! ライムちゃん、それにレモンちゃん!!
ふわああ!! ほんとにふたごだったんだ!! すごーいすごーい!!」
もっともソナタはすぐにおれの腕を飛び出して行ってしまったのだけれど、それすらおれにはうれしくて。
いつしか涙ぐんでいた。
「よかったね、カナタ!」
「妹離れ、がんばれよ?」
「ありがとミライ。イツカははずれ!
あくまでこれは、ソナタが元気になってくれたことがうれしくてだからねっ!」
おれはいつものくせでツッコミのうさ耳パンチを入れようとしたが、そうだ、今ここではうさみみは『ない』。
仕方ないので軽くチョップを食らわせれば、やつめはぬけぬけと『うさみみのほうがいい』とのたまった。くそう。
「うふふ。それではもう皆さんお集りのようですし、始めましょうか」
「あはは。そうだね、じゃあやっちゃおっか。ふたりとも、準備はいい?」
ライムがころころと笑い、レモンさんがあははと笑いながらGOをだす。
おれとイツカは気を取り直して「はい!」。
ミライが「頑張ってね!」と見守る中、新たな『特殊スキル』を発動させる。
「月萌の母なる女神よ。どうかその御手をここに――『領域展開』!」
五ツ星実習でやった通り、五ツ星エンブレムに意識を集中。
エンブレムを中心に、身の内から不可視の『力の領域』を展開してゆく――あらかじめ決めていた広さに至るまで、慎重に。
レモンさんがうむうむとうなずいてOKを出してくれる。
「お、なかなかの展開速度と精度。そのくらいの大きさでいいよ。
だいじょぶそうだけどライム、維持をサポートしてやってね」
「かしこまりましたわ、お姉さま」
仲良くやり取りする姉妹には、もう白いくまみみしっぽと、白鳥の翼が『生えて』いる。
もちろんイツカの黒猫セット、ミライのチョコしばセット、おれの青うさセットもお目見えだ。
よし、ここからは、打ち合わせ通りに。
おれは手をメガホンにして、集まってくれたみんなに呼び掛けた。
あの顔もこの顔も、知っている顔ばかり。
小さな友達に向けて、おれは大きな声で呼びかけた。
「みんな――、これからおれのハーブの森を、ここに出します!
深呼吸してよーく見てね?」
「おー!!」
イツカは率先してこぶしを突き上げると、ノリノリでカウントダウンを開始する。
「それじゃあカウントダウン、いくぞー! 3、2、1……」
「『卯王の薬園』!!」
その瞬間、おれの姿はうさみみブレザー男から、一気に白のうさぎ天人(※もふ増しバージョン)に。
病院の中庭の半分ほどに敷設された『力の領域』には、かぐわしく緑豊かな森がみるみるうちに萌え出でた。
子供たちが目を輝かせ、歓声を上げる。
大人たちが拍手をしてくれる。
おれはもう一度手をメガホンに、子供たちを誘う。
「この森には、癒しのハーブをいっぱいいっぱい、生やしておきました!
今ここでなら、かけっこも木登りもしほうだい! 木の実もお花も、みんなあげます。
手術前のみんなも後のみんなも、心おきなく遊んでください!」
もちろん、子供たちは戸惑いを見せる。
「え……ほんと? いいの?」
「ほんとに、大丈夫かな……?」
それはそうだ。立って歩くのも長時間は無理。車いすでの外出も、よくて一時間が限度。
そういった生活を送ってきた子供たちが、いきなり自由になったといわれて、はいそうですかと駆けだせるわけがない。
けれど、その警戒感は今回、彼らを守る最後の砦となる。
おれはほんの少しだけ背中を押した。
「その気持ちがあれば、だいじょうぶだよ。
無理をしない程度に、まずはお散歩から楽しんでみて?
おれたち、ちゃんとみてるから。もしも苦しくなったら、助けに行くからね」
すると、世にもかわいらしい声が一つ響いた。
「よ――っし! わたし一番乗りー!!」
ソナタだった。ぱたぱた走って緑の森に飛び込んでいく。
ティアブラのプレーで、体の動かし方そのものはつかんでいる。
それゆえ、ソナタはあっという間に木に登り、てっぺんから手を振ってきた。
「すっごーい! このなかいると気持ちいいしなんかラクー!
みんなもおいでよ!」
その言葉を契機に、子供たちは次々と森へ。
レモンさんは中庭の一角の、小さな特設ステージへ……
「わーい! あたしもいくー!」
「おれもおれもー!」
……向かわなかった。
どこぞの大きなガキんちょ猫と一緒に、わーいとばかり森に突入。
ライムはその背を見送り、ころころと笑う。
「うふふ、お姉さまってば。
大丈夫ですわ。カナタさんの第二覚醒をここで披露すると決まった際に、すでに予定変更はしておりましたの。
一緒になってたっぷり遊んで、子供たちが満足した後に、一緒に歌う森のコンサートを。
だって、その方がきっと楽しいですもの!」
心優しい策士はそういって、そっとミライの背中を押した。
「さ、ミライさんもいっていらっしゃいませ。
一緒に遊んで、森の中から子供たちを見守ってあげてくださいな」
「う、うんっ!
それじゃカナタ、いってくるね!」
チョコレート色の巻きしっぽをパタパタさせつつ、森に飛び込んでいくミライ。
その姿に目を細めたら、ふわりと優しい香りがして、温かな手がおれの肩に乗っかった。




