32-2 心霊写真と特訓と!
『っしゃ――!! ほんじゃあもいっちょいくぞ――!!』
「お――!!」
そして、翌日。
バトルフィールドの一角にて、レイジをコーチに、イツカは打ち込み稽古に励んでいた。
『ハイ、ハイ、ハイ、今のいい、そう、そう、ちょっと待ていまブレた!!』
「ん~。やっぱ難しいなコレー。ちょっとレイジ憑依ってみてくれよ」
『んー』
イツカがサラッと手を差し出せば、レイジはサラッとそこからイツカのなかへ。
そのままイツカの身体を操り、理想的な剣さばきを披露する。
『いっかー、まずこうこうこう、でこうきてな、こう。
お前の場合ちょっとステップに引っ張られるとこある。まー悪いとは言わねえしステップ主体でくみ上げてきたからしゃーないっちゃないんだが、たぶんそこ付かれるぜ、ピンクうさちゃん辺りにゃな』
「あ――。なるほどなー、こうこうこう、でこう!」
『そーそーそー! ホントお前覚え早いな、俺みたい!』
「まじかー!」
「あっはははは、なにそれおかしーうけるー! はいチーズ!」
ぬっ、とイツカの肩から半分抜け出して軽口を叩くレイジ。シュールな眺めだ。
そばで稽古していたハヤトなんかボーゼンと口あけている。
アスカは指さして腹を抱え、ついでにスクショまで撮ったのだけれど。
3S――SSS。
社会不安から生じた、実体なき生命。
何らかのきっかけで人に取り付き、己の核となる欲への渇望と引き換えに、絶大な力を与える。
だが、欲と力は日に日に大きくなり、宿主は暴走。αたちによって倒され、3Sは分離されてどこかへ『消し去られる』のがほとんどだった。
しかしときにはうまく折り合いをつけ、欲と力を制御して活躍する宿主もいるらしい。
おれたちの知る中で、それは三人。
ひとりめは、フユキ。ふたりめは、イツカ……ではなく。
「出るか入るかどっちかにしろ、絵面が微妙すぎるだろ。」
いま、どうやってか実体のないはずのレイジにつっこみチョップを食らわせた、ノゾミ先生だ。
あれから『善は急げ』というので、イツカにレイジがお試し憑依してみたところ、サラッと成功。これはいけるかもということになった。
ただ、取り憑きっぱなしは両者共に色々不便なので、『基本ライカ分体を借りて指導。必要なときだけ憑依る』ということになったのである。
その時先生はいみじくも言った。
「まさかお前たちも俺と同じ道をたどることになるとはな。
一応俺も『憤怒』の宿主だ。
レイジを宿すつもりなら助言はできるから遠慮なく聞け」
なるほど、レイジがなつくわけである。
そのレイジは相変わらず先生にくっつきながら言った。
『宿主ってぇかもーぶっちゃけ飼い主でいーと思うし~!
レイスだっけ? 旦那のソイツいいこちゃんすぎだろ! どんなテ使ったんだよ一体さー!』
「別に飼い主なんかじゃない、win-winの取引の結果だ。
世を変えるには時間がかかる。だから細かいめんどくさいところは俺がやる。おいしいとこだけ回してやるからそれまでダラダラしてていい、と言ったらこうなっただけだ。
まあ、ミソラの入れ知恵だがな」
『パネェ……』
そのとき、ニノが静かに挙手をした。
「ノゾミ先生。
もしかしたらイズミも、そうやれば『嫉妬』と共存できた可能性も……あったということですか?」
「いや。
イズミたちが『バイト』として宿されていたものは3Sの『断片』。
わかりやすく言えば、こいつやナツキと違い、3Sとしての本能しか持っていないウイルスのような存在だ。理性はなく、話もできず、当然交渉の余地もない。
……とはいえ、俺たちがもっと早く気付いてやっていたなら、分離治療はしてやれた。
ニノたちには、ほんとうにすまなかった。ここまで本当に苦労を掛けてしまった」
心からすまなそうな先生だったが、ニノは微笑みを返す。
「その分ご指導お願いします。俺たちも、ちゃんと先生の志を継げるように。
回り道しちまったやつらのキモチをわかってやれる、俺たちみたいな人間はいつでも絶対必要ですから」
「ありがとう。……本当に」
『鬼神堕ち』でΩになったことのある先生。『天使堕ち』でいまΩの立場にある、ミライ。
3S断片の力で不祥事を起こしたイズミ、『カケル』、イザヤとユウ。
個人融資の件で失敗したユキテル。
無二のはずの相棒から、周回遅れで離れてしまったニノ。相棒の起こした事件に巻き込まれ、不遇の時期の続いたミツルとケイジ。
ラビットハントの被害者として、零星に甘んじざるを得なかった生徒たち。
そして、ノルンの詐欺事件の被害者たち。
まわり道を知る者たちは、強く立ち上がり、歩き出している。
彼らがまた、おなじ目に遭うことのないように、いまの世を変える。
その旗印として先頭に立つのが、おれたちの使命だ。
そのためには、強くならねばならない。
月萌最強の六人と戦い、勝つほどに。
まず、イツカは基礎力の底上げと、第二覚醒を目指す。
おれは、仲間たちと武具や戦術の開発・改良を進めつつ、第一、第二覚醒に磨きをかける。
なおかつ、控えめにでもアイドル活動も継続しなければならない。
もちろん、実習や講習はαとして働くために必要なことばかり。こちらもしっかり身につけねばならない。
こうなると、午前の通常授業がなくなったこと、部屋のことを全面的にライムとミライに頼らせてもらえること、開発やメンテにチームの協力があることは、心底ありがたかった。
ひとつの目標は、来週火曜におこなわれる『再プレテスト』。
今週金曜はショー仕立ての昇格試合への友情出演、土曜日はレモンさんとの慰問のため星降町へ、と正直あまり時間はない。
今日水曜から金曜午前でできる限りを進めておかなければならない。
決意新たに、おれはもう一度『卯王の薬園』を発動。
仲間を癒し、敵を阻むハーブの森を、フィールドに青々と茂らせるのだった。
このあとアスカ君は半分出ているレイジ君に、うさみみポーズ取らせて写メったようです。ぶれない。
次回はいっきに金曜昇格試合にいきます。お楽しみに!




