4-3 ウサプリ様はご機嫌ナナメ~カナタ、学園闘技場デビュー!
誤字報告いただきました、ありがとうございます!
部分数:第33部分
67行目: あれでてあいつは→あれであいつは
おれはしばし、その場でぽかーんとしていた。
いまの状況を一言でいえば、なんの説明もなしに、突然ひとり闘技場に放り出された、というものだ。
これはもしかして、余興のために歌えというやつだろうか。
ソナタが大ファンだったおかげで、レモン・ソレイユの完コピには自信がある。
ただ、それにしてはマイクがない。
着ているものも『ぬののふく』と『かわのくつ』。
そして、腰にはいつもの魔擲弾銃。
ただし一丁だけで、装填されているのも500ポイント固定ボム――なんとおれが作ったやつだった、世の中狭い――が3発だけ。
なるほど。これはつまり、見た目の派手なデカブツの攻撃をよけながら、弱点を正確に撃って片付けろという奴か。だんだん仕掛けが読めてきた。
回避と狙撃は得意中の得意だ。そして、闘技場のファイトマネーはたとえ負けてもかなりおいしい。
マッチングされる試合がこんなものばかりなら、このまま闘技場デビューしてしまうのもいいかもしれない。もちろん、スケジュールはやりくりし、無理のない範囲内でだけど。
そんなことを考えていると、大音量でファンファーレが鳴り響いた。
演台ではスパンコール120パーセントの真っ赤なスーツをまとった実況解説が、派手なアクションで声を張りはじめた。
『レディース、エーン、ジェントルメンッ。
本日は待望の、大人気プレイヤーダブルデビュー戦だ!!
投げ銭の用意はいいかァ? グッズ発注ボタン連打の用意はいいか――?!
ではっ! まずはみなさんご存じ!
特待生入学の期待の星。ウサプリこと、うさぎの国の王子様!
ホシゾラ カナタ選手だ――!!』
って、なんて紹介するんだよ!!
とりあえず片手をあげて応えておいたが、場内の巨大モニターに映るおれの顔はやはり赤かった。
『かわいー!!』なんて歓声が上がったけど、それは男としてうれしくない。なんか太い声まで混じってるし。なるほど『後衛うさぎ男はアイドル』ってこういうわけね。よろしい、この試合でそいつをひっくり返してやる。おれは一瞬で決意した。
『ウサプリと言えばやっぱり射撃の腕前! まずはご覧ください!』
その声とともに、入場ゲートが開く。
そこから放たれたのは、三匹の小型スパイダーマンティスだった。
『超聴覚』で探ったところ、全個体Cランク。HPは493、388、502。特殊なステータスを持つものはなし。
これに500固定を三発使えというのか。だとしたらおれをなめすぎだ。
おれは足元の小石を拾い、三匹が近づいてくるのを待った。
三匹ともが5m円内、つまりこの500ポイント固定ボムの爆発範囲に入った瞬間、その中央に小石を投げこむ。
そうして追いかけるように『抜打狙撃』!
後方から500ダメージを与えられ、爆散する小石。
鋭いその欠片はスパイダーマンティスたちの装甲をつらぬき、150近くのダメージを与えた。 さらにそこに『防御を抜ければ固定で500ダメージを与える』爆炎が吹き付ける。
結果は、言うまでもないだろう。
かれらが一斉に淡緑の光球となり、消え去ったあとには、固定ドロップのカマとハネとが浮いていた。
各個体へのダメージが最大HPの二倍に届かず、ティアブラでいうオーバーキルではなかったためだ。
もちろん例のごとく、パッキングされた状態でだが。なんとなく微妙だ。
『こ、これは……まさかのっ! すごいっ! まさしくハンター以上のハンターだ――!』
それでも実況は、ギャラリーは大盛り上がり。
おれは天井に向けて銃を持った左手を突き上げてみせ、とりあえずドロップ品を回収。
するとアップルさんがしずしずとやってきて、小さなざぶとんにのっけた500ポイントボム――これもまたおれの作ったものだった――一発を差し出してきた。
よかった、やっとまともに状況がつかめそうだ。
少し離れた場所を『羽ばたき飛行式小型カメラ』が浮遊している。
それに拾われないよう、小声で彼女に問いかけてみた。
「アップルさん。これは一体、どうなってるんですか?」
「メイドのわたくしには詳しいことは……。
ただ、イツカさまを恨まないであげてくださいましね。
どうか、ご武運を」
「ありがとうございます」
頭を下げながらの答えは、やはりというか断片的なものだった。
ボムをざぶとんから取り上げ、再び一礼して去っていく背中を見送った。
なるほど、おれを祭り上げて出しておいて、イツカと善戦させる。で、イツカを最終的に勝たせて、花を持たせて闘技場デビュー、と。
だったら、やってやろうじゃないか。イツカとのバトルなら怖くない。
たしかに攻撃を食らえばそれなり痛い。けれど、陽気に技と軽口を飛ばしあう模擬戦は、いつだって楽しいものだった。
あれであいつは優しいのだ。完全に弱点でしかない、おれのでかもふロップイヤーは絶対に狙わない。互いに応酬ができるよう、コンビネーションも考えてくれる――いや、やつはあくまで直感で動いてるのだろうけれど。
『さあ、それでは本番だ!
本日のセッティングは『とらわれのウサプリ』!
手製の防具ははぎとられ、許された武器は銃一丁。
手持ちの弾は自作の500ポイント固定ボムが3発きりだ!
さあ、我々の王子はこの危機をどう脱してくれるのか?
それとも衆目の中、無残に蹂躙されてしまうのかっ?!』
……いや、なにその無駄にエロくしようとした余分設定。
おれ野郎なんですけど。そして相手はイツカなんすけど。
げんなりしながらおれは、入場ゲートの方を見た。
あー、もうはやくイツカとバトりたい。すっきりさっぱり片づけたい。
しかし、入場ゲートから現れたのは、いつもの黒い軽武装のねこみみ少年ではなく、なにやらまがまがしい全身鎧だった。
その色合いは、明るすぎるほどの照明をはじいてなお暗い。
全体的にシンプルなデザインではあるが、ただ一つ、あごの下ほどに目立つ意匠が施されている。
ごてりとした錠前ふうの飾り。色はもちろん黒。
全体の中でもそれは特に異質な感じで、なにやら首輪めいた忌まわしさを漂わせていた。
『おおっと、王子に差し向けられた刺客は、謎の黒騎士だああ!
その正体やいかに?! どうするウサプリ!』
おれの目の前、ゆっくりとスタート位置につき、腰の剣を抜くそいつ。
そのしぐさには見覚えがあった。
どこかぎこちなく、鞘から引き抜かれた長剣にも。
その刀身には、ブルーのシグナル鉱石が根元から先端まで、ライン状に埋め込まれていた。
「それ、『イツカブレード』……
イツカ?! おまえ、イツカなの?!」
見間違いようもない。それはイツカのためにとおれが作り、毎日メンテをしているものだ。 『黒騎士』はこたえない。否、威嚇するようにぶん、と構えた。
剣の切っ先は、まっすぐこちら。
そのフォーム、間違いない、イツカだ。
でも、イツカじゃない。
だってイツカは、こんなに冷たくおれを見ない。
兜のフェイスガードの向こう、わずかにのぞくルビーの瞳。
それはまるっきり、狩りをする猫が、獲物を見るときのそれだった。
「まって……ちょっと……イツカ! なんで」
ぶった切るようにゴングが鳴った。
同時にイツカが斬りこんできた。
明日よりすこし投稿ペースを落とさせていただきます(試合終了まで一日二部分の予定)、ごめんなさいm(__)m
明日は朝に二部分(ボーナストラックと本編)投稿いたします。お楽しみに♪




