31-1 プリンとクッキーの放課後!
『みんな。せっかく貴重な生データも手に入りましたし、時間があれば傾向と対策でも始めますか?
『小夜見II』の件以降、かれらも随分と腕を上げてきたようです。とくにあの金髪の少女ジュディ。二度目があったら、ぜひさくりと勝ちたいところですからね』
学園への転送ゲートをくぐる前、かすかに、そんな声が聞こえた。
正直言うとそっちが気になる。あとで傾向と対策講座の動画を見せてもらおう。
アカネさんは歩調を緩め、苦笑した。
「シルちゃんあれ、わざと苦戦してみせてるわよゼッタイ。
ミッドガルド時代からそうだった。ギルドの子たちに経験を積ませるため、他の子たちにうまく譲るの。
その後にはヒーリングプリン付きの傾向と対策。みんなから『オカン』って呼ばれてたわ」
イツカが叫ぶ。
「うあああプリン食べてえ!!」
「はいはい、おねーさんが買ってあげますからねー」
「やったー! サンキューアカネちゃん!!」
おれもちょうど小腹がすいていた。嬉しい一方、なんだかイツカが心配になってきた。
「すみません、ご馳走になります!
っていうかイツカ。これアカネさんだからいいけど、よく知らない人とか、知ってても怪しい人にはそーやって無邪気についてかないでよ? 猫耳モフモフなんだから」
「そっちっ?!」
というかイケメンだからというのは、ちょっと悔しいし恥ずかしいから言わない。
「あとすみませんアカネさん、おれたち武具開発チームのメンバーを部屋に移動させる予定なんです。打ち合わせはすこし待ってもらえますか?」
「もっちのろんよ。早く来ちゃったのはあたしだしね。
予定通り、あーちゃんの勉強部屋でまた会いましょう。
いまラボいる子たち何人? 二人の部屋あてにプリンお取り寄せするわね~」
「え、そんなにいいんですか? へたしたら十人くらいはいまいると思うんですけど……」
「全然いいわよ。じゃ余裕もって二十個ね♪」
「アカネちゃんサイコ――!!」
無邪気すぎるやつめはもろ手を挙げて快哉を上げたが、おれは恐縮してしまう。
でもここはやはり、甘えるべきところ。
頭を下げつつ、素直にお礼を言ってご馳走になることにする。
「すみません、すっかりご馳走になってしまって」
「ふっふっくるしうないくるしうない♪ それじゃまたね♪」
「はい!」
アカネさんはニコニコとおれたちの頭を撫でて、るんるんと去っていった。
ちなみにさっきはヒールのついたパンプスでさらに背伸びしていた。くそう、可愛い。
「なんかアカネちゃんてさー、マイロちゃん先生に似てね? ちま可愛くてネコミミで!」
「意外とご親戚だったりしてね!」
実質敗北でシリアスになりかけた気分は、とりあえずどこかへ。
おれたちは弾む足取りで、クラフターズラボに戻っていったのだった。
自習室内には、シオンとレン、ニノとハルオミ。フユキとコトハさんとナナさん。
さりげにクレハとチナツ、ミズキとソーヤもいた。
それでも最後の四人は『おれたちただのやじうまでなんにもしてないし、すぐまた別件あるから、リンカさんたちにお譲りしてあげて』と紳士的に申し出てくれて、のこりは七つ。
ふたつをライムとミライのために頂かせてもらい、最終的に残った五つはほかの『うさねこ』メンバーから募集、先着順とさせてもらった。
なお五ツ星寮前ではちょっとした争奪戦が起き、プリンが外れたひとたちには急遽、おれとイツカでおとっときのクッキーをくばったりした。
そのため、ひと段落ついたときにはけっこう時間が過ぎていた。
先に部屋に入ってもらった武具開発チームのみんなは、まごついてはいないだろうか。
まずはごめんねの一報を入れるため、チーム回線にコールをかけると、ミライがニコニコ出てくれた。
『はーい、ミライです。代理で出たよ!』
「あ、ミライ。急にごめんね、みんなの世話押しつけちゃって」
『だいじょぶだよ、ライムちゃんも手伝ってくれたし、チアキもいっしょだから!』
「えっ、チアキも?」
『うん。あのね、レンが心配だからっていってきてくれたの!
チームのみんなもだいじょぶそうだよ、シルヴァン先生の授業リモートで受けたり、いっしょにデータ処理したり、イツカのモフリキッドアーマーなおしてくれたり、プリンもちゃんと食べたから!』
ミライが携帯用端末で写してくれた勉強部屋の様子を見て、おれは心配が無用のものだったと悟った。
武具開発チームはもはやすっかり『勝手知ったる他人の家』状態。
もうおまえたちプロでいいよの仕事っぷりを見せていた。
ここでふと、小さくて大きな問題に気づいた。
「あ、ねえ、プリンどうした? チアキのぶん、なかったよね……」
ミライとライムのことだ。自分のぶんをサラッと『もう食べたから』と譲りかねない。
もしもそうなら、急いでプリンを調達しよう。そう思ったおれだったが、すぐに杞憂だったと気づいた。
『あのね、レンがはんぶんこしてたよ。いつもおやつ作ってもらってるんだから食ってくれよって。
だからおれたちもね、クッキーふたりにあげたの! そっちもなかよく半分こしてて、ほのぼのしちゃった♪』
「そっか、それはよかった。ありがとねミライ。ライムもありがとう」
二人に感謝を告げると、おれは通話を切った。
おれたちが戻るまでは、ライムは残り続けることだろう。
今日はお昼も作ってもらっているのだし、甘えすぎは申し訳ない。
おれとイツカは全速力で寮室に向かったのだった。
評価いただきありがとうございます! バンザーイ\(^o^)/
とても励みになります。がんばれます!!
次回、ふたつのチームをはしごする、多忙なカナタたちの様子をお送りする予定です。お楽しみに♪




