Bonus Track_31_1 ほんのすこしの思考停止~ノゾミの場合~
少しの間、剣を交わすと、マルキアはジュディをいざない退散していった。
イツカを指名してきたくせに、たいした執着とて示さずに。
つまりやつらが最低限達成すべきと定められていた目標は、おそらく――
「『一つの国の民が全員、奴隷になるかの瀬戸際ってことさ。』
『あんたたちが救うのは、あんたの身近の人間だけかい?』
……という言葉を『おれに直接』聞かせることですね。
あわよくば、おれをソリステラスにいざなうため。
それは月萌の力をそぐことにもつながる」
カナタはさらっと看破した。とりあえず『お前はほんとに中学生か』と突っ込んだが、いやいや、立派に中学生だった。
わかっていながら、きっちり気にはしている。
――それは、ここにいた仲間たちともども。
本当なら自ら悩んで、結論を得てほしいところだった。
しかし、いまそれに時間を取らせてしまうと、おそらく彼らは後悔する。
イツカとカナタが『月萌杯』を突破するまでに許された時間は、二か月を切っているのだ。
だから俺は、あえて告げた。
「ミもフタもないことを言えば、その問題はいまのお前たちの手に余る。
約束したのだろう、あの少女と。『まずは自分のできる限りを行う』と。
まずは、それを守ることだ」
うなずいたカナタは、かみしめるようにつぶやいた。
「……そうですね。
おれは、ソナタとミライを。いま高天原にいる生徒たちを。
彼らに連なる、この国のみんなを。
望まずして奴隷のような身分に堕とされたくないというみんなを、まずは救わなきゃならない。
『月萌杯』を突破して」
無言で、うなずいた。
イツカが、ハヤトが。ルカが、ルシードが、マユリが。
「その通りだ。
お前たちが月萌でそれを成功させれば、ソリステラスもそれをモデルに動くことができるだろう。
そのうえでなおチカラを借りたいと、たとえ非公式にでもきちんと頼んでくるならば……」
するとアカネが、いつになくエクセリオンらしく言葉を継いだ。
「そのときはあたしたちも、真剣に考えるよ?
ソリステラスの人も、人間だからね。
戦争はしてたって、ひとしく女神の意のもとにあるもの、なわけだから」
「ひとしく女神の意のもと……か」
イツカは――いずれ女神の伴侶となるだろう男は、ルビーの目を伏せつぶやいた。
「そのためにも今は、今を全力でだよ!
イツにゃんカナぴょんはちょ~っと顔貸そうね~!
ごめんふたりともあとはまかせたっ!」
そんなイツカと、それを見つめるカナタを、アカネは問答無用で拉致っていった。
「……相変わらず、嵐のようですね」
「まったくだ」
しかし、そんな彼女の姿は、残された俺たちに、笑いを取り戻させてくれた。
カナタたちの悩み。今回ノゾミ先生が少し強引に棚上げしてますが、それでも少し後を引きます。
といいつつ次回はもうギャグ入る立ち直りぶり。クラフターチームの元にいったん戻ります。
どうぞのんびりお付き合いくださいませ♪




