30-5 おれと仲間と突貫作業!
それがほんとうならば、なんというバッドタイミングだろう。
敵国・ソリステラスの工作員たちが、またしても押し入ってきた。
そしてよりにもよって、イツカと戦わせろと言っているなんて。
思わず声が大きくなった。
「ちょっ何言ってるのイツカ! だめに決まってるじゃん!
アーマーは、溶接部分の冷却中で、魔力絶縁布での裏打ちも、経路の配線テストも終わっていない。つまり着れる状態じゃない。
そもそも今日のイツカは……」
『わかってる。
だけどここで逃げたら俺は、ただの腰抜けにゃんこだ。
戦って負けたならまだ仕方ない。けれど挑戦されて戦うことさえしなかったら、『月萌杯』に向けて俺たちを支えてくれてる、みんなががっかりする。
来年ここにくるソナタちゃんだって、恥ずかしい思いするだろ?』
「う、……」
それを言われると、反論できない。
確かにαプレイヤーは、国民的ヒーロー。つねにカッコよくなくちゃいけない職業だ。
卒業間近のアイドルバトラーならば、なおのこと。
それをさしひいても、ソナタの『兄貴』ともあろうものが、だらしないところをさらすわけにはいかない。
イツカにそう言って完コピの特訓をしたのは、他でもないおれだった。そのおれが、いまさらダメと言えるわけがない。
イツカはすこし声を優しくして繰り返した。
『俺が交渉して、時間を稼ぐ。だからカナタは、なんとか着れる状態にしてアーマーをくれ。
最低で何分いる?』
「……十五分。
溶接部分の冷却に五分。晶石のセットに五分。最低限の配線テストに五分。
その間に裏打ちを何とか済ませ、晶石も調達するから……」
『テストなしでいい。カナタの腕なら信用できる』
「えっ」
そう、イツカは胸元で、赤熱した晶石がはじけるのを見ているはず。つまりおれの設計ミスの結果を、だれより間近で体感している。
おれだったら普通に怖い。無条件の信用なんか置けない。
けれどイツカは陽気に笑う。
『こちとら何年もお前とやってきてんだぜ?
不安なら俺を信じてやってみろって。な?』
その言葉を聞くと、じわっと目頭が熱くなった。
「八分で仕上げる」
『りょーかい!』
通話をきって、目元を拭くと、仲間たちがもう動き出していた。
「縫い物ならファンシークラフターの俺にお任せー☆」
「よーしたまにゃオレも壊す方以外にも回ってみっかー!」
「カナタ。裏打ちの方法を教えてくれ。俺も手伝う」
ニノがウインクして、レンが腕まくりして、フユキがブレザーを脱いで。
もちろんシオンはとっくに同報メールを打ってくれていた。
「あのね、いまみんなに連絡したらナナちゃんが『神聖防壁』の晶石くれるって! コトハちゃんのゼリーポーションも。あとハルオミがいまラボいるからすぐくるって!」
ハルオミはファンシークラフターではないけれど、こうした手作業系は得意。ニノのサブ的な立場に収まってるのも、こういう理由があったりする。
ボム以外には疎めのレンが、そそくさと腕まくりを戻しかける。
「えっマジか。オレいらなげだな……」
「レンはいまやり方きいてハルオミに教えて。でもって『ミライツカナタ』の共有にボムいっぱい入れて! もちろんテラも!」
「っしきた――!! もってけドロボー!!」
おれとしてはこの場で30個ほどパパッと錬成してもらうつもりだったのだが、レンはどさどさとその場に手持ちのボムを積み上げる。あっという間に危険すぎる小山が出来上がった。
「ってどんだけもってるの?!」
「ふっふっふー、オレ様のインベントリの九割は火薬でできているのよ!! まだまだあるぞー」
「うん、もうマジックポーチ渡すから半分くらいまで詰めといて! ハルオミには俺から教えるから!!」
「っしゃー!!」
出現させた共有マジックポーチを手渡すと、レンはもはや両手が見えない速さでボムを放り込み始めた。
なお、このあとすぐにハルオミが現れたのだが、裏打ちの追加はほとんど彼とニノとがスタタターッと仕上げてしまい、五分かからなかった。ボーゼンとしながら、思わず言っていた。
「あのさ、おれの服やるとき、頼んじゃっていい……?」
「もちろんだよ!
まさか、あまり『これ!』って分野のない俺が、お手伝いできるなんて……光栄だし、うれしいよ!」
ハルオミは春の日差しのような笑顔で快諾してくれた。一方ニノは下心(?)満載。
「かわいくしていいなら!」
「あ、そういえばニノには真珠の飾り作ってもらうんだっけ。そのことで後で相談させて」
「ほいさ!!」
チャコペンのラインを消去し、追加の裏打ちを済ませたインナーをちゃっちゃと表地につけるころには、ナナさんとコトハさんも駆けつけてくれた。
ゼリーポーションのびんはマジックポーチにそのまま入れてもらい、『神聖防壁』をこめた晶石をみんなでPC&P機構に装着。これで七分半。モフリキッドアーマー(改)完成、ほぼジャストタイムだ。
しかしいざ、マジックポーチに入れる段になって、不安がよぎった。
もし、もしはんだ付けに不備があったら。使用したパーツのどれかに不良品が混ざっていたら。晶石からのパワーの出力がいまいちだったら。
おれがミスリル糸を縫い込んだ際、間違って表地に傷をつけていたなら……
しかし、テストをする時間はない。いまは、おれとみんなと、イツカを信じるしかないのだ。
柄にもなくおれは、小さく祈りをささげていた。
迷いを振り切り、黒くモフモフしたアーマーを、マジックポーチに押し込むように入れた。
「みんな、ありがとう。それじゃ、おれも行ってくるね!」
そうしておれは、クラフターズ・ラボを飛び出した。
チャコペンのライン消すのを忘れるとこでした(爆)
次回、イツカがなんか口車を発揮する予定! お楽しみに!




